商工会の経営指導員⑰ 真相へと続く扉【#創作大賞2025#お仕事小説部門】
夜の桜川市役所は、不気味なほど静まり返っていた。
悠斗は、秋山とともに、裏口近くの職員出入口の前に立っていた。
「……本当に、後戻りできなくなるわね。」
秋山が小さな声で囁いた。
「やるしかない。」
悠斗は、ポケットの中で佐伯から預かった職員証のコピーを握りしめる。
「市の再開発計画の詳細ファイルが、内部サーバーに残っている可能性がある。公文書の改ざん前のログ、裏帳簿へのリンク、そして……“誰が何をしたか”の証拠が。」
冷たい風が吹き、二人の背中を押した。
中は暗く、警備の足音が遠くで反響していた。
秋山は呼吸を抑えながら、薄暗い廊下を慎重に進んでいく。
彼女の手には、USBドライブが握られていた。
「……あの部屋だ。」
悠斗が指さした先、地下の一角に設けられた情報管理室が見えた。
オフィスビル特有の蛍光灯の明かりが、静かに点滅を繰り返している。
「入れるか……?」
ドアパネルにカードキーをかざす。
ピッ……
《アクセス許可》の緑色のランプが点いた。
「やった……!」
二人は息を潜めながら室内に滑り込んだ。
無数のサーバーが低く唸るように稼働し、まるで機械の森の中にいるようだった。
「秋山さん、時間との勝負です。お願いできますか?」
「任せて……こう見えても、大学では情報処理を研究してたんだから。」
秋山は端末に向かって手を動かす。
タイピングの音が、静寂を走り抜ける。
「……あった。『桜川都市整備プロジェクト』フォルダ。」
画面に映るファイルの一つに、悠斗は思わず息を呑んだ。
『再開発用地収用計画案_ver.4(裏案)』
『買収ルート・優先順位』
『関係者会議録音書き起こし.txt』
「……これだ!」
秋山が素早くファイルをダウンロードし始めたそのとき——
ガチャッ!
「……誰だッ!?」
鋭い声が背後から響いた。
悠斗が振り返ると、市役所の管理部門の男が懐中電灯を持って立っていた。
「お前ら、ここで何してる!?」
「逃げましょう!」
悠斗は秋山の手を掴み、サーバールームを飛び出した。
USBは、ぎりぎりで手に入った。
二人は暗い階段を駆け下り、息せき切って裏口へと走った。
背後で叫ぶ声と、追ってくる足音が迫ってくる。
「もう少し……! ここを抜ければ……!」
秋山の息は荒れ、手は震えていた。
「秋山さん、ありがとう……ここまで付き合ってくれて。」
「今さら何言ってんのよ……!」
秋山は涙目で笑った。
「森田くんが、本気で商店街を守ろうとしてるって分かってたから……」
裏口から外へ出ると、夜の冷気が二人を包んだ。
「三浦さんと、約束の場所で落ち合おう。」
「このデータがあれば……全部暴けるかもしれない。」
秋山は、小さく頷いた。
「でも、あの人がここまで命懸けで動いてる理由……私、もうひとつだけ気になることがあるの。」
「……なに?」
「三浦さん自身が、何かから救われたいって思ってる気がするのよ。」
悠斗は、夜空を見上げた。
夜空にはおぼろ月がぼんやりとした輪郭を滲ませて佇んでいた。
