商工会の経営指導員⑦ 資金の壁と商店街の団結、そして新たな試練【#創作大賞2025#お仕事小説部門】
「商工会が支援してくれない以上、運営資金は全部、自分たちで用意しなきゃいけないんだ」
悠斗は、プリントアウトした見積書を秋山に差し出した。
会場の設営費、広告・宣伝費、安全対策費——どれも必要不可欠。
「……最低でも、この金額が必要だな」
目の前の数字に、秋山は絶句した。
「こんなに……!? どうやって集めるのよ」
「スポンサーを探すしかない」
そう言い残し、悠斗は地元の企業や団体を訪ね歩いた。
――だが現実は甘くなかった。
「商工会の後ろ盾がないイベントなんて、リスクが高すぎるよ」
「万が一失敗したら、うちの信用にも関わる」
言葉を選びながらも、誰もがはっきりと断ってきた。
増えていくのは名刺ばかりで、満たされるはずの心は、音もなくすり減っていく。
交わした笑顔の数だけ、どこか空虚な風が胸を通り抜けた。
雨の夕暮れ、人気のない駅前で悠斗は拳を強く握った。
「くそっ……資金がなければ、何も始められない……」
——その夜、閉めかけた桜川商工会の事務所に、ぽつりぽつりと人が集まってきた。
「森田くん」
八百屋の田中茂が、封筒を差し出した。
「……これは?」
「みんなで少しずつ出し合った金だ」
「大した額じゃないかもしれない。でも、お前の熱意に動かされたよ」
後ろには、商店街の仲間たちがいた。理容店の島田、菓子屋の松田、文房具店の堀……。
「商工会が助けてくれなくても、俺たちはお前を信じる」
「だから、この街を、もう一度笑顔でいっぱいにしてくれ」
悠斗は、言葉を失い、ただ深く頭を下げた。
「……ありがとうございます……俺、絶対にこのマルシェを成功させます」
そしてその場で——
「スポンサーがいないなら、自分たちで資金を作ればいいんじゃないか?」
誰かのその一言に、空気が変わった。
「プレイベントだよ。桜川マルシェの“前哨戦”をやろう!」
田中の八百屋が、旬の野菜を使った「激安セール」で客を呼び込む。
松田屋は、「特製おまんじゅう」を限定販売して話題づくりに貢献する。
飲食店たちは合同でフードブースを出店し、通りに活気を戻す。
秋山はSNSを駆使し、宣伝を始めた。
「商工会の後援がなくても、私たちだけでできるってこと、証明してやろうよ!」
その言葉に、悠斗は拳を握り直した。
「よし、全力でやろう!」
夜の商工会事務所に、確かな希望の光が灯った。
それは、かつてあきらめかけた夢の、最初の一歩だった。
次の日の夕暮れ。
空が茜色に染まり、心地よい風が街を吹き抜ける。商店街の入り口には、来週に控えたプレイベントのポスターが何枚も貼られていた。
「いよいよだな。」
悠斗は感慨深げにポスターを見つめた。長い準備期間を経て、ようやくここまで来たのだ。成功させるために、できることはすべてやったはずだった。
その時、ポケットのスマホが震えた。画面を見ると、市役所からの着信。胸騒ぎを覚えながら通話ボタンを押す。
「申し訳ありませんが、このままではイベントの開催は難しいんです。」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
