商工会の経営指導員⑫ 炎上する倉庫と、見えない影【#創作大賞2025#お仕事小説部門】
「火事だー!!」
「水! 誰か水を!!」
悠斗は、信じられない気持ちで田中の後を追った。
駆けつけた先には、黒煙を上げる倉庫があった。
田中八百屋の商品を保管していた倉庫だ。
「仕入れたばかりの商品が全部……!」
田中が顔を青ざめながら、燃え盛る倉庫を見つめていた。
「くそっ!!」
悠斗が駆け寄ろうとすると——
「危ない! 近寄るな!!」
消防隊がすでに到着しており、消火活動を開始していた。
叫び声が次々と上がり、バケツや消火器を持った人々が集まる。
しかし火はすでに勢いを増し、近づくのも危険なほどだった。
「なぜ……どうしてこんなことに……!」
悠斗は震える声で呟いた。
火の揺らめきが瞳に映り、怒りと悲しみと恐怖が、心の奥底から沸き上がる。
それは、まるで誰かが“希望”そのものに火を放ったかのようだった。
秋山が駆け寄ってきた。
「森田くん! これって、まさか……三浦さんが……?」
悠斗は拳を強く握った。
「わからない。」
視線の先には、どこかの屋上から静かにこちらを見下ろす“影”があった——
それが幻なのか、現実なのか、判別もつかない。
だがひとつ確かなのは、
桜川マルシェの成功を許さない者が、最後の一線を越えてきたということだった。
「こんなの、酷すぎるだろ!!」
八百屋の田中茂が、怒りを露わにした。
「俺たちがようやく立ち上がろうとしてるってのに、こんなやり方があるかよ!!」
「警察には連絡したのか?」
「今、消防隊が対応してる。おそらく放火の可能性が高いって言ってた。」
悠斗は、奥歯を噛みしめた。
「誰かが、商店街を潰そうとしている……?」
秋山も息を詰まらせながら言った。
「このまま続けられるの?」
「こんなことが起きたら、お客さんたちも不安になっちゃう……。」
悠斗は、迷っていた。
ここでマルシェを中止するべきか?
その時——
「森田くん。」
松田屋の航太が、泣きそうな顔で悠斗を見つめていた。
「……お祭り、もうダメなの?お父さん、一生懸命準備してたのに……!」
悠斗は、拳を握った。
「……ダメじゃない。」
そう言って、商店街のみんなを見渡した。
「続けます。桜川マルシェは、絶対に止めません。」
「でも……!」
「この火事は、僕たちが正しい道を進んでいる証拠です!誰かが、僕たちの再起を邪魔しようとしている。でも、それに負けたら、結局また元の暗い商店街に戻るだけだ!」
その言葉に、商店街の人々が静かに頷いた。
「……そうだな。」
「負けるわけにはいかねぇよ。」
「誰がこんなことしたかは知らねぇが、俺たちは俺たちのやるべきことをやる!!」
