教えるでも、教わるでもなく。 ― 山村からの学び ―【山村シリーズ④】
この記事を読む前に、
先にこちらの記事をお読みいただくことをお勧めします↓
2017年から
私は、
僻地(へきち)にある山村と
関わっている。
はじめは3年限りの
教職員研修講師
だったのが、
この10年で
5歳児健診、
3歳児健診、
中学校の思春期保健講座、
村民等へのちょっとした相談会、
と、
次第に関わりが
増えてきたのだった。
ある時、
村の保健師さんから
一通のメールが届いた。
内容は、
村のこども園の保育士さん
についてだった。
「最近、一人の保育士さんの
様子がおかしいんです」
どうやら、
新年度に入って
受け持った年中さんで数名
言うことを聞かない子がいるらしい。
そして、
1人の子が言うことを聞かずに
部屋を飛び出すと、
残りの数名の子が結託して
部屋から出てしまい、
部屋の外で勝手に遊び出したり
ケンカしたりするなど、
手に負えなくなってしまう
とのことだった。
保健師さんからのメールには、
その保育士さんがだいぶ
自信を失くしているように
見えること、
精神的にも相当
まいっていること、
できたら様子を
見に来て欲しいこと、
が書かれていた。
昨年まで、
特別支援ニーズのある
お子さんにも
上手に対応されていた、
とても観察力のある
保育士さんだった。
私は驚きつつ、
とにかく次に村に行く時に
ぜひ会って話がしたいと
返事を書いた。
・・・
——中学校の思春期保健講座。
思春期の悩める時期に
体だけでなく心も変化していく
ことを学ぶための講座。
この年の講座で、
私は2つのミニワークを
用意していた。
病院での通常業務に
加えての準備だったので
正直結構忙しかったが、
保健師さんが
保育士さんとの
話し合いとして
調整してくれたのは、
この思春期保健講座の
直前にある隙間時間だった。
そしてこの時間が、
最短でお話しできる
限られた枠でもあり、
保健師さんが
全体スケジュールを
微調整して作り出してくれた
余白の時間でもあった。
・・・
そして、
当日。
急ぎ足で勤め先の
精神科を出発した私は、
中学校に向かう前に
こども園に立ち寄った。
保育士さんは
一見するとこれまでと
変わり無いように見えたが、
いつもの笑顔に力が無かった。
やり取りのなかで
私は、
その保育士さんの
日々の活動を
「子どもの
気持ちや背景を
丁寧に拾い、
クラス全体への
影響も考え、
他の先生とも
連携しながら
行っている保育」
と伝え、
他職種からみると
かなり高度な
保育実践に見える
ことを話した。
そのうえで、
元気でエネルギーの
高い子たちが
集団で動き出す状況に
向き合うのは、
体力も気力も使うこと、
それでも、
子どもたちを
否定せず、
安心させ、
理解しようとし、
行動の意味を
読み取りながら
関わっていること、
保育士さん自身が
こんなに疲れながらも、
言うことを聞かない子の
強みもしっかり見ていること、
そして、
こんなに悩みながら
真剣に考えている時点で、
すでに質の高い
保育をしている
プロフェッショナル
だと思うこと、
を伝えた。
幸いにも、
保育士さんは
「宝物の言葉に出会えた」
「辛くなったら今日の
言葉を思い返します」
と言ってくださった。
限られた時間
だったからこそ、
濃密なやり取りが
できたのだと思っている。
私は、
保育士さんと園長先生に
簡単に挨拶を済ませると、
保健師さんの待つ中学校に向けて
急いで車を走らせたのだった。
その後、
この保育士さんは
持ち前の粘り強さで
年中さんと関わり続け、
数年たった今でも
この村で専門性の高い
保育を実践されている。
...
ある専門職が、
別の専門職に対して行なう
間接的な援助は
コンサルテーション
と呼ばれている。
私と保育士さんとの
間には
「教える-教わる」
という関係はなく、
異なる専門職同士の
「協働」
だけが在った。
同様に、
保健師さんが
全体スケジュールを
微調整して作り出してくれた
余白の時間によって、
私は援助された。
つまり、
保健師さんと
私との間にも
「教える-教わる」
という関係はなく、
異なる専門職同士の
「協働」
だけが在った。
そして、
この協働こそが、
他職種連携の
基礎基本
だと思っている。
・・・
人は皆、
「自分自身の専門家」
だという考えがある。
だとすれば、
「専門家」同士が
日常的に互いを
援助し合うとき、
そこにも
「協働」
があることになる。
だから、
コンサルテーション
という言葉を使うとき、
援助する人
援助される人
という二分法は
崩れ去る。
私は、
そのような
景色のなかで
人と人とが
つながることで
生じる変化
を見ることが
たまらなく
好きだ。
だから、
カウンセリング
よりも
コンサルテーション
の世界に
心惹かれるのだ。
・・・
——その後も私は、
村へ通い続けている。
こども園へと続く
見慣れた道。
この道を
走っていると
あの日、
保健師さんが
作ってくれた
あの時間のことを、
私は今でも思い出す。
