イブ物語|判断寓話|エラとヨル|第一話 空から降ってきたお姉さん
あらすじ|創作大賞2026応募作
テーマは 『ズレ』 『地図』 『判断』
地図を作りながら旅をするエラと、黒い“影”の色が見えるヨル。
少しズレた二人が出会い、一緒に世界を歩いていく物語です。
剣や魔法の強さだけで進む話ではありません。
この旅で描かれるのは、
「何が正しいか」よりも、
「何を選び、なぜそうするのか」という判断です。
やがて二人は、安全なはずの街の異変、吹雪の山小屋で出会う人々、そして地図にない故郷へと続く道を進んでいく。
正しさだけでは選べない場面で、二人は何を見て、何を残すのか。
『ズレ』『地図』『判断』を軸に進む、旅のファンタジーです。
エラとヨル 第一話
【空から降ってきたお姉さん】
「うわぁぁぁぁああああーーー!」
空から、人が降ってきた。
私の目の前に。
——ありえない。
そう思うより先に、地面が揺れた。
ドスンッ!!
遅れて、木の枝がバラバラと落ちてくる。
土煙の向こうで、
何かがひっくり返ったまま動かない。
……人?
私は、しばらく動けなかった。
理解が追いつかない。
空から、人が落ちてくるなんて。
「ここ、どこよ…」
少し離れた場所で、女の声がした。
生きてる。
それだけで、少しだけ安心した。
でも——
「いやー…またズレたか」
……ズレた?
私は眉をひそめた。
その人は、紫色の長い髪を結った女性だった。
褐色の肌。
旅人の装備。
でも、その姿よりも気になったのは——
空から落ちてきた、という事実。
その人の名前を、まだ私は知らなかった。
私は、ヨル。
十二歳で村を出て、旅に出た。
それから三年が経って、今は十五歳。
黒い髪は伸びたまま、黒い外套と大きな鞄だけが、私の旅人らしさをかろうじて作っている。
旅に出た理由なんて、大したものじゃない。
ただ——
何も知らないまま大人になるのが、
嫌だった。
……だから、私は今も旅をしている。
本当は、街に向かっていたはずだった。
近道をしようとして、
森に入った。
太陽を目印に進めばいいと思った。
でも、森の中では太陽は見えない。
途中で気づいた。
でも——
引き返すのは、違う気がした。
だから、進んだ。
その結果が、これだ。
「いてて。あー、失敗失敗」
その人はようやく体を起こした。
そして、私を見た。
「わぁ!人いた!」
「いや、驚いたのはこっちよ」
私は即座に返す。
「それより大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫!」
満面の笑み。
「こういうの、慣れてるから!」
——こういうの?
私は言葉を失った。
「私はエラ。探索者!」
そこで初めて、私は彼女の名前を知った。
「ヨル」
短く返す。
「探索者?冒険者じゃなくて?」
エラは首を横に振った。
「違う違う!」
そう言って、ぐっと顔を近づけてくる。
「私はね——地図を作る人」
「ちょっと、近い」
「いいじゃんいいじゃん!」
距離感がおかしい。
「普通の地図ってさ、道しか書いてないでしょ?」
「でもね」
「水がある場所は?」
「寝れる場所は?」
「目印になる岩は?」
「そういうの、全部大事じゃない?」
エラは胸を張る。
「それを全部まとめたのが——私の地図」
「エラの旅地図!」
「最近、ちょっと人気なんだよ?」
——人の話、聞かないタイプだ。
私は、そっとため息をついた。
「お姉さんって呼んでいいよ?」
ウィンク。
——ダメだ。
壊滅的に間違っている。
私はくるりと背を向けて歩き出した。
関わると、疲れる。
本能がそう言っていた。
「ヨル?どこ行くの?」
無視。
「旅人?冒険者?」
無視。
「もしかして——迷子?」
私は止まった。
振り返る。
「違う!より道してるだけ!」
エラは、ニヤリと笑った。
「へー。この先、何もないよ?」
「それに」
少しだけ間を置いて——
「さっきから、同じ場所ぐるぐる回ってるけど」
……最悪だ。
顔が熱くなる。
「ちょっと、森を見ながら歩いてただけ!」
エラは楽しそうに笑う。
「わかる!同じ場所でも、見る方向で違うもんね!」
……なんなんだ、この人は。
「あなたこそ、何してたのよ」
私は話題を変えると、
エラは、空を指さした。
「上から、見てた」
私は、言葉を失った。
「この森の形、水の流れ、目印になるもの」
「全部、上からの方が早いから」
……上から?
その時、風が吹いた。
一枚の紙が、ひらりと舞い降りる。
エラはそれを拾った。
それは、地図だった。
見たことがないくらい細かい。
水の位置。
木の密度。
開けた場所。
そして——
今、私たちがいる場所。
「私は、この世界を全部知りたい」
エラが言う。
少しだけ、真面目な顔で。
「でもね。知るだけじゃ意味がない」
「ちゃんと残さないと」
そして、すぐに笑う。
「それに——」
「地図は、お金になるしね!」
私は、少しだけ笑った。
森は静かだ。
でも——
さっきまでと、少しだけ違う。
私は、少しだけ迷った。
この人についていくか、
それとも——
一人で進むか。
正しいかどうかは、わからない。
でも、
私は——
「……その地図、見せて」
気づけば、そう言っていた。
エラが地図を広げる。
「ここ、今いる場所ね」
指で示した位置は、少しだけ開けた場所になっていた。
私は顔を上げる。
——森だ。
木。木。木。
「……開けてないけど」
「え?」
エラも顔を上げる。
しばらく、黙る。
「……あれ?」
もう一度、地図を見る。
もう一度、周りを見る。
「え、ちょっと待って」
エラはくるりと回る。
木しかない。
「ここ、さっき上から見た時は——」
言いかけて、止まる。
「……ズレてる」
その言葉は、さっきよりも少しだけ小さかった。
私は何も言わない。
ただ、地図を見る。
正確だ。
水の位置も、木の密度も、全部合ってる。
——ここ以外は。
「ねえ」
私は静かに言う。
「これ、どっちが間違ってるの?」
エラは少しだけ笑った。
でも、その笑いは——
さっきと違った。
「……それ、まだわかってない」

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