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プロジェクト★アイ②|路地裏クッキー職人と砂漠の薔薇|第二部 砂漠の薔薇公認

この物語は、ファンタジー小説『エラとヨル』のスピンオフ作品です。本編未読でも楽しめます。



第二部 砂漠の薔薇公認


彼女は今日も裏路地に屋台を出す。
焼き上がったクッキーと、売れない本を並べて。

ただ、いつもと違うのは、クッキーの隣に亀の形をした饅頭が並んだことだ。

思いつきで作ったものの、クッキー饅頭は売れなかった。

そんな彼女に転機が訪れたのは偶然だった。

道に迷った商人が、彼女に声をかけてきた。

彼女が親切に道を教えると、悪いと思ったのか店先の商品を横目で眺める。

「お礼にこれをもらおう」

そう言うと、クッキー饅頭をいくつか買ってくれた。

次の日には、違う商人が屋台を訪れていた。
目当てはクッキー饅頭だ。

知り合いにもらったクッキー饅頭が美味しかったからと、買っていく。

日を追うごとに、クッキー饅頭は売れていく。

しかし、本は売れない。

彼女は複雑な気持ちになりながら、せっせと饅頭を作っていた。

そんな穏やかな毎日は、ある日突然、終わりを告げる。

いつものようにクッキー饅頭を並べていると、大きな影が屋台を覆った。

彼女が顔を上げると、独眼の大柄な女性が立っている。

灰色の髪に、海賊のような出で立ち。
それ以上に、鋭い眼差しが空気を重くする。

店先のクッキー饅頭を、何も言わずに一つ掴むと、口に放り込む。

「……」

ゆっくり噛み締めて、何かを考えている。

「これを作ったのは、あんたかい?」

殺気にも似た気配に押され、彼女は小さく頷いた。

女性は彼女の姿を確認すると、手を挙げる。

どこから現れたのか、男たちが彼女の屋台を囲んだ。

気づくと、彼女は屋台ごと荷背区へと運ばれていた。

商会ギルド《砂漠の薔薇》の拠点がある場所だ。

応接室に座らされ、震える彼女を、鋭い独眼が見つめる。

「私はローズ。砂漠の薔薇をまとめてるもんだ」

彼女が、ポツリと名前を名乗る。

「あんた、誰の許可を得て、あそこで商売やってたんだい?」

「どこの許可もとってません」

弱々しく返す。

ローズは、LIPS公認と書かれたチラシを彼女に見せながら話した。

「リップス……じゃあ、これは誰が作ったんだい?」

まるで尋問のような時間が続く。

「私が勝手に作りました」

俯き、顔を上げることもできない。

その直後、ローズの笑い声が部屋を包んだ。

「アッハッハ。勝手に作った? この紙も、この印も、この名前も?」

ローズはチラシを指で弾いた。

「はい……」

「いいじゃないか」

彼女は顔を上げた。

怒られると思っていた。
捕まると思っていた。
屋台も、本も、クッキー饅頭も、全部取り上げられると思っていた。

けれど、ローズは笑っていた。

「ただし、やり方が下手だ」

ローズは机の上にクッキー饅頭を一つ置いた。

「これは菓子じゃない」

彼女は首を傾げる。

「……饅頭です」

「違う」

ローズは指先で饅頭の甲羅を叩いた。

こん、と乾いた音がした。

「これは喉だ」

「喉?」

「食えば口が乾く。乾けば水が売れる。甘けりゃ酒も進む。小さくて持ち歩けるなら土産になる。亀の形ならルーベントの名物になる。しかも、少し間抜けで覚えやすい」

ローズは片目を細めた。

「客は味だけじゃ金を出さない。思い出に金を出すんだ」

彼女は、言葉を失った。

自分が作ったものが、急に自分の知らないものに見えた。

ただの饅頭だった。
お爺さんからもらった鍵で作った、少し不格好な饅頭だった。

それなのに、目の前の女性は、それを街の金の流れとして見ている。

「で、あんた」

ローズは笑みを消した。

「このまま路地裏で売るかい。それとも、砂漠の薔薇で売るかい」

ローズが彼女に手を差し出す。

「……」

しばしの沈黙。

机に置かれた亀の形をしたクッキー饅頭と目が合う。

こくりと頷き、ローズの手を取っていた。

彼女は、砂漠の薔薇で売ることを選んだのだった。

翌日には、倉庫の中身も屋台も、すべて荷背区に運び込まれていた。

「とりあえず三百個。明日の朝までに用意しな」

ローズの指示は、それだけだった。

人手も材料も、すべて用意されている。

彼女は黙って饅頭を作った。

約束の数をなんとか作ると、次の指示が出る。

渡された紙に従い、台車を押してクッキー饅頭を運ぶ。

指定された場所は、どこも宿屋だった。

「ローズさんから話を聞いてるよ。そこに置いといてくれ」

店主には話が通っているらしい。

彼女はクッキー饅頭が入った箱を下ろすと、次の場所に向かう。

きっちり三百個を配達すると、仕事は終わった。

荷背区に戻った彼女は、ローズから袋を渡される。

中には、今まで見たことのない量の銀貨が入っていた。

「賃金だ。また明日来な」

そう言われた彼女は頷き、重い体を引きずって帰っていった。

何日か、同じことを繰り返す。

ただ、気づくと作る量も、届ける量も増えていた。

宿屋の店主が、彼女に言う。

「あのお菓子、言われた通り宿泊客に配ったら好評だ」

そして、続ける。

「明日からは、店でも売りたいから、今日の倍持ってきてくれ」

彼女はメモをとり、頭を下げる。

行く先々で、似たような声をかけられた。

そのメモをローズに渡すと、ローズは口元を上げた。

「配るのは他の奴にやらせる。あんたは作り方を教えてやんな」

そう言われた彼女は、翌日から饅頭の作り方を教えることになった。

作業場は広げられ、毎日人手が増えていく。

袋を作る区画。
チラシを作る区画。
饅頭を作る区画。

あっという間に、作業場は広がっていった。

気づけば彼女は、砂漠の薔薇の商品開発部長という、聞いたこともない役職に就いていた。

そんなある日、ローズから新しい指示書が届く。

「夜の街でも食べられる饅頭を作れ」

その指示書を見つめる彼女の目の前には、幾つもの酒が並べられていた。

彼女は頷き、新たな饅頭の開発に着手した。

これが、乾き喉通りの名物となる、ルーベントクッキー酒饅頭の誕生である。

ローズはそれを、ただの菓子とは呼ばなかった。

夜の街に置く、もう一つの喉。

そう呼んだ。


🔙第一話第三話🔜



おまけ

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