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プロジェクト★アイ①|路地裏クッキー職人と砂漠の薔薇|第一部 クッキー饅頭、爆誕

この物語は、ファンタジー小説『エラとヨル』のスピンオフ作品です。本編未読でも楽しめます。


第一部 クッキー饅頭、爆誕


彼女は、路地裏の小さな机で、せっせと申請用紙を書いていた。

提出先は、LAG。

申請内容は、こうだ。



民間団体発足申請書

団体名 ルーベント発想推進係
通称 LIPS(リップス)

正式名称
Loobent Imagination Promotion Section


主な活動内容
ルーベント観光振興。
お土産の開発。
クッキーの販売。
本の販売。

更生員
彼女の名前。
黒毛の子犬。


以上。



「……よし」

彼女は小さく息を吐いた。

足元では、黒毛の子犬が尻尾を振りながら擦り寄ってくる。

彼女はその頭を軽く撫でると、出来上がった申請用紙を丁寧に折りたたんだ。

行き先は、LAGの出張所。

ルーベント発想推進係 LIPS。

その活動が、ついに正式な手続きへ進もうとしていた。

もちろん、ちゃんとした組織ではない。
彼女は用紙を胸に抱え、路地裏を歩き出す。

受付で「犬はちょっと……」と言われるまで、あと十分。



LAGの出張所に着いた彼女は、申請書を持ったまま待たされていた。

ここは、ルーベントで商売や活動を行うための書類を提出する場所だ。

狭い建物には窓口が二つしかない。

彼女は部屋の隅に座り、呼ばれる順番を待っていた。

窓口をちらりと見ると、商人風の男が怒鳴っている。

「屋台の場所が昨日と違っているぞ!」

商人風の男は怒っていた。

「ルーベントではよくあります」

LAG職員は淡々と返す。

彼女は待ち札の番号を確認して、ため息をついた。

足元の子犬が、くぅん、と鳴いた。

ようやく番号が呼ばれる。
彼女は立ち上がり、申請書を受付に差し出した。

受付の職員が書類を見る。

そして、第一声。

「犬はちょっと……」

受付の職員は、足元の子犬と申請書を交互に見た。

「あと、ここ間違ってますよ」

職員は書類を指差す。

「更生員じゃなくて、構成員です」

彼女が慌てて書き直そうとすると、職員はそれを止めた。

次の瞬間。

『不許可』

赤い判が、遠慮なく押された。
彼女は、押された判を見つめる。

黒毛の子犬が、くぅん、と鳴いた。



彼女は、不許可の判が押された申請書を抱えたまま、路地裏へ戻った。

そもそも、こんな怪しげな民間団体を立ち上げようとしたのには、理由がある。

彼女は、路地裏で小さな本の屋台を始めたばかりだった。

ただ、まったく売れなかった。
そこで、おまけにクッキーをつけてみた。

クッキーは売れた。
けれど、本は売れない。

市場に屋台を出すには、商会ギルド《砂漠の薔薇》の許可がいる。

登録料に加えて、売上のいくらかを納めなければいけないらしい。

そんな余裕もない彼女は、怪しげな民間団体を立ち上げて、こっそり本とクッキーを売ろうとしたのだ。

結果は、散々だった。

ため息を吐くと、子犬が心配そうに鳴いた。

無許可の彼女が屋台を立てられた場所は、赤砂市場の路地裏で、ほとんど人通りのない場所だった。

途方に暮れていると、近くに新しい屋台が並んだ。

気になって見てみると、看板には「饅頭」と書かれている。

あまり見たことのない食べ物だった。

けれど、どうやらお菓子らしい。

店主のお爺さんが、「よかったら」と言って一つ差し出す。

彼女はそれを食べてみると、

「美味しい!」

思わず声が出た。

その姿を見たお爺さんは、にこりと笑った。

「よかったら、作り方を教えようか?」

彼女は頷いた。

その日から、彼女は饅頭の作り方を教わるようになった。

お礼にと差し出した本は、「文字が読めないから」と優しく返された。

ただ、クッキーは受け取ってくれた。

しばらくの間、彼女はお爺さんと屋台を並べていた。

あいかわらず、本は売れない。

路地の向こうに見える赤砂市場は、一日中にぎわっていた。

時間だけはある。

だから、お爺さんに饅頭の作り方を習う。

日が暮れる。
屋台を畳んで帰る。

そんな単調な毎日が続いていた。

けれど、ある日。

いつものように路地裏の屋台に着くと、お爺さんの姿がなかった。

寝坊かな。

そう思った直後、嫌な予感が頭をよぎる。

でも、家を知らない。
探しに行くこともできない。

ーー考えても仕方ない。

彼女が屋台を立てていると、お爺さんがとぼとぼと歩いてくるのが見えた。

普段は使わない杖をつき、腰を押さえている。

彼女に気づくと、お爺さんは軽く手を挙げて、ゆっくりと近づいてくる。

「腰をやっちまってな……」

お爺さんは苦笑いを浮かべながら、そう言った。

「息子夫婦からは、そろそろ潮時だろって言われてしまったよ」

笑っているが、声は乾いている。

「捨てるのももったいないから、お前さんが好きにしてくれ」

そう言うと、お爺さんは倉庫の鍵とメモを差し出した。

彼女は黙って受け取る。

「あんたのクッキー、美味かったよ」

そう言うと、お爺さんは腰を叩きながら、またとぼとぼと歩いて行った。

彼女は鍵を握りしめ、その後ろ姿を見送った。

結局、本を読んでもらうことはなかった。
しかし、彼女の手には古くて小さな鍵が握られている。

それが、申請書よりもずっと重く感じられた。



翌朝、彼女は渡されたメモにある倉庫を訪ねていた。

カチリと音を立てて、鍵が開く。

中には、見慣れたお爺さんの屋台と、幾つかの袋が積まれていた。

袋の中身は、饅頭の材料。

壁には、丁寧に分量まで書かれた紙が貼られていた。

今日は店を休みにした。

彼女は袖を捲り、さっそく饅頭を作り始めた。

作り方は習った。
道具もある。

すぐに饅頭が出来上がった。

一口つまんでみる。

うん。

悪くない。

でも、お爺さんの饅頭とは少し違って感じた。

しばし考える。

その時、彼女の脳裏に一つの絵が浮かんだ。

ルーベントは、亀の上にある街。

この饅頭を、亀っぽくして。
甲羅の代わりに、クッキーを載せれば。

思いついたことを、すぐにやってみる。

出来上がったものを見て、彼女は頷いた。

饅頭の上に、丸いクッキーの甲羅。

少し不格好で、少し間抜けで、でも不思議とルーベントらしかった。

「……売れるかも」

彼女は小さく呟いた。

黒毛の子犬が、足元で尻尾を振る。

それが、後にルーベント土産の定番となる、
ルーベントクッキー饅頭の始まりだった。


第二部へ続く🔜




おまけ

用語解説

ルーベント🐢
超古代種ギガントタートルの上に築かれた都市。
砂漠の中を移動する、ぱっと見はロマン都市。
別名 犯罪都市ルーベント。

LAG🏰
ルーベント行政ギルドの略称。通称ラグ。
表向きは自治を行う組織。法律と条例と慣習法をごちゃ混ぜにした結果、書類と手続きだけが増えた。

赤砂市場🎪
ルーベントの表通りにある市場。
商業ギルド《砂漠の薔薇》が仕切る交易所。
屋台を出すには、基本的に許可と登録料が必要。

クッキー🍪
甘くて美味しい。
作者がしばしば置いていくが、安易に触れると本を薦められるので注意が必要。
なお、本より先に売れる。

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