カール・ロジャーズの傾聴がすごい!(3)
カール・ロジャーズとシルビアのカウンセリングの最終回です。前記事はこちらをご覧ください。
ここまでの対話の要約
シルビアは、シングルマザーとしてフルタイムで働くことへの不安や悲しみの感情を、ロジャーズの共感的傾聴によって満たすことができました。ネガティブ感情が満たされた彼女は、子供たちとの関係について、ありたい姿を描き始めます。また、彼女の抱えるもう一つの課題についても、ロジャーズに語り始めます。
カウンセリング パート3
以下、スクリプトの和訳を本文にし、私の感想やコメントを枠内に書きます。そうした方が見やすいですので。なお、和訳中の [ ]内は、実際のカウンセリング中の会話ではなく、カール・ロジャーズ(以下、C)やシルビア(以下、S)の後日感です。
S42: 「それが好きです。私はもっと『今ここ』に存在し、(C:うなずく)自分自身に対して落ち着いていられるようになりたい。そして、他の人たち、例えば私の子供たちもそうですが、彼らが何をしても、それに対して私は支えの存在になれ、些細なことで個人的に脅かされないようになりたいんです。(C:うん、うん、うん。)」
C42: 「それには意味がありますね。あなたは、自分自身を十分に受け入れられるようになりたい。そして、その結果、子供たちや他の人が何をしても落ち着いていられる。(S:うなずく)そして、恐れたり、(S:うん)バランスを崩さないようになりたいんですね。」
ロジャーズは、自己受容をすることで、子供たちとの関係性も含めて自身に落ち着きを取り戻せることを示しています。
S43: (うなずく)「ええ。そして、ここ1年の間にあなたからもらった手紙の中で感じた、あなたの温かさや私の生活への関心を楽しんでいました。それがとても嬉しかったんです。(C:うん。)手紙が書かれた時点では、映画を撮る予定も何もなかったので(C:そうですね。)そういう意味でとても楽しいものでした。(5秒の沈黙)あなたは私の話に満足していますか?」
C43: 「ええ。うん。(15秒の沈黙)そして、私はあなたのことに興味を持っているので、他にあなたにとって重要なことや、難しいことがあれば、ぜひ聞きたいです。」
カウンセリングが撮影されたという特別な間柄もあるのかもしれませんが、驚くことに、ロジャーズはシルビアに定期的に手紙を送っていたようです。情の深い人だったことが伺えます。
S44: (15秒の沈黙)「ええと、二つの方向に話を進めたいと思いますが、まだどちらにするかはわかりません。一つはシングルで働く母親の話に戻ることです。それが私にとって大きな問題であることはわかっていますが、どこへ進むべきかはまだはっきりしません。そしてもう一つは、私が自分の中で感じている男性との関係における困難についてです。(C:うん、うん。)(3秒の沈黙)私はあまりにも多く分析してしまうんです。(微笑む)それで、『こんな話をする意味があるのか?』って、もう手を挙げたくなるんです。でも…」
C44: 「でも、あなたには(S:私には…)男性との関係で…」
ここも邪推ですが、ロジャーズとしては、子供との新生活については、シルビアが自分自身で道を開いていけることを信じたうえで、総合的に彼女の生活を良くするためには、もう一つの課題と向き合わなければならないと考えたのかもしれません。
S45: 「ええ。男性の話に行きましょう。(C:わかりました。)それが、このフィルムで話すのが一番怖いことです。(C:うん。)なぜなら、私が知っている人たち、そして男性たちも、これを見ることになるかもしれないからです。(4秒の沈黙)私自身を、ええと、この話は私の頭の中で散らばっていて。(ため息)散らばっていて、(微笑みながら)いろんな方向に考えが向かっています。(C:うん。)ええと、私は多くの男性と知り合いになって、一人だけじゃなく、たくさんの男性と時間を過ごしてきました。(C:うん。)そして、しばらくその人と一緒に過ごすと、彼らが私に興味を失ったり、私が彼らを遠ざけてしまったように感じます。そして自分に言い聞かせるんです。『会うすべての男性があなたに恋に落ちるわけじゃないんだから』って。(C:うん。)それから、ええと、何だったかな…(微笑みながら)他に何があったかな?(C:でもあなたは…)ああ、そう、それから私はもっと合理的なことを自分に言い聞かせます。『もちろんこの男性は私のことが好きじゃないわけだ、私はこうだし、ああだし…』といった具合に。でも、私はその男性との時間を楽しんだのに、『彼は私と一緒にいて楽しくなかったんじゃないか』という失望や混乱をあまり感じないんです。彼から連絡が来なかったり、来たとしても物事がうまくいかなかったから、そう感じてしまうんです。」
C45: 「それは、あなたにとってちょっとした謎のように感じるんですね。(S:ええ。)なぜ男性があなたに興味を失うのかということが。」
シルビアとしては、異性との関係性を楽しみながらも、それが長期的な関係にまでたどり着かないことについて、ちょっと、理解を整理できないでいる。そこに対して、ロジャーズは共感的に理解の助けとして代弁しています。
S46: 「ええ。それに、ある友達の男性からのフィードバックで、私自身が男性たちを遠ざけているんだと言われました。だから、結局はすべて私のせいなんです。(C:うん。)でも最近、どうやって(7秒の沈黙)長く続く、成功した関係を持つべきなのか、わからなくなって無力感を感じています。成功というのは、完璧な関係という意味ではなくて、(C:そうですね、うん。)うまく機能するという意味です。(C:うん。)そして、うまく機能することが、今の時代では成功だと思います。(微笑む)そうですね。」
C46: 「それは、あなたの人生の中で、あなたが望んでいたような成功を手にしていない部分ですね。(うん、うん。)何か大切な欠けているものがあるように感じる。」
S47: (うなずく)「今、私たちがこの話を以前にもしたことを思い出しています。」
C47: 「少しだけね。」
ロジャーズとしても、この話を以前に「少しだけ」聞いていたので、そこが気にかかっていたのでしょう。
S48: 「少しだけ、そうですね。(ため息)(7秒の沈黙)そして、私は分析してしまいます。例えば、『私はこういう習慣があって、一人でいるのが好きだし、あまり気前が良くなくて、(C:うなずく)他人の面倒を見るようなタイプじゃない』といった感じです。そして、一緒に住んでいる女性は、『そんなことないわよ。あなたは全然そんな人じゃない。お客さんを迎えて夕食を作ったり、いろいろ世話を焼くタイプじゃない』と言います。(C:うなずく)でも、私は困惑してしまうんです。親しい関係を築くためには、そうする必要があるのかどうか。私は自分を犠牲にしてまで、楽しまれたり、必要とされたりするべきじゃないと思うんです。(C:うん。)」
C48: 「あなたが言う『自分を犠牲にする』というのは、つまり、もしあなたが少し無理して自分を出すような感じになってしまったら、それは望んでいないということですね。そういうことですか?」
[カール:これは、クライアントが混乱を経験している良い例です。彼女は理性的に話そうとしていますが、彼女が実際に感じているのは混乱そのものです。もし私が彼女の「男性との関係において自分には力がない」という感情をもっと深く理解していれば、より良い反応ができたかもしれません。彼女は、単に持続可能な関係を築くための能力が自分にはないと感じています。この「自分には何か根本的な欠陥があるのではないか」という感情は、カウンセリングの場面で非常によく見られるものです。ほとんどの人が時折、『自分に何か重大な欠陥があるからこそ、こんな問題が起きているのだ』と感じることがあるのです。]
ああ、なるほど。「自分に欠陥があるから問題が起きている」という、クライアントのよくある「混乱」があり得ることを念頭に置いていれば、そこの問題についても言及ができるのですね。
S49: 「そうですね、私がすべてのことを男性のためにして、それで彼が私を求めるようになるんです。」
C49: 「つまり、彼の好意を買うような感じですね。(S:うなずく、うん。)でも、あなた自身はそういうことをしようとは思っていないし、やりたくないと思っているんですね。」
S50: 「あるいは、やりたいとも思っていない。(C:うん、うん。)(S:うなずく)それに、もう一つ、自分にとって難しい質問を自分に問いかけます。『私が関係を持とうとしている男性たちは、私が求めるような形で与えることができない人たちなんじゃないか』って。(C:うん、うん。)それから、また考え始めます。(微笑みながら)『ああ、簡単だ。違う選択をすればいいだけだ』って。(C:うん。)でも、周りを見渡してみると、それほど簡単ではないんです。」
C50: 「うん。あなたは分析しようとしていて、『自分に何の欠陥があるんだろう?』とか、『どんな欠陥があるんだろう?』と考えているんですね。たぶんあなたが自分に問いかけているのは、『なぜ自分は、男性との長続きする関係を築けないのだろう?』(S:うん。)ということですね。」
ここで、ロジャーズは前述のシルビアの「混乱」をきちんと織り込んで、シルビアの代弁者になっていますね。また、きちんと問題の本質(長期的関係を築けない)に戻していますね。
S51: 「今思い出してすごく怖かったことの一つは、私が話していた時のことです。私は8年間夫と暮らしていて(C:うなずく)、彼に拒絶されていると感じて、彼のもとを去りました。(C:うなずく)そして、とても愛していた男性のもとへ行きました。その男性とは5年間とても親しい関係にありました。(C:うん。)でも、彼とも…私は彼から離れましたが、彼にも捨てられたように感じました。(微笑む)そして、ある友人の男性が私に言ったんです。『どうしてあなたは男を引き留められないんだ?』と。それが、ええと、それが私の内面を本当に怖がらせました。なぜなら、実際にその状況を現実的で合理的に見ると、そうは思えなかったんです。(C:うん。)でも、それが本当かもしれないと思うこともあります。」
C51: 「彼がそう言ったことが(S:彼が。)本当にあなたに響いたんですね。『私には何か問題があるのか?』(S:ええ。)と。」
S52: 「自分では気づいていない何かが。(C:うん。)そして、その言葉が私にとても強く響いたという事実自体が、何かがあることを示しているんです。」
C52: 「そうですね。(S:ため息)もしそれがあなたに関係していなければ、それほど気にすることもないでしょうし、それについてそんなに考えることもなかったはずです。」
ここは、シルビアの感じた違和感のようなものを、ロジャーズはしっかりと受け止めていますね。「それほど気になるのであれば、自分に関係する何かがあるはずだ」と。それが次の会話への展開を生み出しています。
S53: 「ええ。(うなずく)それに、(ため息)私は母のことをよく思い出します。母も男性との成功した関係を築くことができず、それが私のモデルになってしまっていて…(3秒の沈黙)なぜできないんだろうと。」
C53: 「つまり、あなたは『もしかしたら、私はただ母のパターンをたどっているだけかもしれない』と言っているんですね。」
S54: 「ええ、その点ではそうですが、私はそれが嫌です。(C:うん。)それに、私は自分がしたくないことを無理にやるつもりもありません。(C:うん。)(6秒の沈黙)今は(微笑みながら)一人暮らしをしていて(C:うん)、何も無理なことはしていません。(C:うん。)それに、とても良い人間関係もあります。(微笑む)でも、それは白黒のニュアンスなんです。(8秒の沈黙)ただ、親密な関係を築くことについては、すごく混乱しています。(C:うん。)一対一の関係(C:うん、うん。)や主要な…」
C54: 「だから、楽しい時間を過ごすことはできるけれども、依然として心に引っかかる質問や疑問があるんですね。『私は母のパターンをただ繰り返しているだけなのか?』『なぜ私は男性と永続的な関係を持てないのか?』という。」
見ていると、シルビアはやや「無理をして」自分の生活の良い面に目を向けようとしているように思いますが、ロジャーズとしては、それでも本質的な課題が心に引っ掛かっているのではないですか?と再度問いかけをしています。
[シルビア:私はカールが私を理解していないと感じたことは一度もありません。もしそう感じたとしても、その場で彼にもっと理解してもらうためにできることがありました。だから、私は理解されていると感じました。彼の意図は、私と一緒にいることに非常に集中していて、もし彼がそうでないと感じたら、それについて話し合うことができました。]
[カール:このインタビューは、関係が良好なとき、クライアントがますますリスクを冒すことができるという事実の良い例だと思います。シルビアは、自分の意識に強く存在する話題から始めましたが、インタビューの終わりには、彼女が完全に理解していない、表現するのが少し怖いと感じている話題にまで触れています。彼女はインタビューを通していくつかのレベルで深く掘り下げました。これは、長期的に成功するセラピーのプロセスの特徴だと私は思います。このインタビューを通して、クライアントの体験を追い、彼女がどんな状況にあってもその伴走者であり続けることが、新たな懸念や探求の領域を開くことにつながり、彼女を新しい未知の領域に導くのだということが明らかです。]
ロジャーズは、クライアントとの信頼関係があるからこそ、シルビアがまだ完全には消化できないかもしれない話題すら開示することができるのだ、としています。
まとめ
ここで、ロジャーズとシルビアのカウンセリングから、ロジャーズが彼の唱える三原則に、どのように沿っていたかを振り返りたいと思います。
三原則って何?という方は、下の二つの記事をご参照ください。一つ目が簡潔に、二つ目が詳細も含めて解説をされています。
① 共感的理解
ロジャーズは、シルビアの感情に寄り添うことで、彼女が言いそうなことまで代弁をして、シルビアのネガティブな感情を満たすことができました。
その結果として、シルビアは彼女の子供との関係性構築や、彼女自身がまだ完全には理解できていない異性との関係性に目を向けることができています。
② 無条件の受容
ロジャーズは、カウンセラーとして、シルビアとの対話の方向付けをするような場面も幾つかありますが、一方で、彼女の感情や考えに批判的になることはなく、あくまでも彼女の感情に身を置いたうえで、「こういう問いかけを自分自身にしているのではないか」という立場を一貫してとっています。
③ 自己一致
シルビアは、ロジャーズの著作に目を通したうえで、ロジャーズは現行が一致しており、そこに信頼を置いている、と表明しています。そういった側面があるからこそ、ロジャーズはシルビアとの関係構築と、彼女から深い話を引き出すことに成功しています。
ロジャーズの三原則を見ても、正直、ピンと来ていない部分も多々あったのですが、こういった形で実際のカウンセリング動画を見ることができ、深い理解ができたように感じています。改めて、こういった機会を与えてくれたシルビアに感謝をしたいと思いました。
