カール・ロジャーズの傾聴がすごい!(2)
カール・ロジャーズとシルビアのカウンセリングの続きです。前記事はこちらをご覧ください。
ここまでの対話の要約
シルビアは、シングルマザーとしてフルタイムで働くことへの不安、仕事と家庭の両立に対する恐れや、孤独感や無力感を涙ぐみながらカウンセリングで話し始めました。
ロジャーズは、彼女の感情に寄り添いながら、クライアントが自分自身を深く掘り下げるのを助けています。
シルビアは、ロジャーズの傾聴によって自分のネガティブな感情が満たされた気持ちになり、新生活の別の側面について話し始めます。
カウンセリング パート2
以下、スクリプトの和訳を本文にし、私の感想やコメントを枠内に書きます。そうした方が見やすいですので。なお、和訳中の [ ]内は、実際のカウンセリング中の会話ではなく、カール・ロジャーズ(以下、C)やシルビア(以下、S)の後日感です。
C21: 「これは新しい冒険になりますね。でも、それに対していろいろな感情を抱いているようですね。」
S22: 「うん、そうです。それが、私が問題だと思って一番考えていることです。(C:うん、うん。)私が泣き始めたとき、なんだかここに来てすぐ泣きたい気持ちが抑えられないような感じでした。(C:うん、うん、うん。)ちょっとドラマチックな感じでしたね。」
C22: 「だって、それは本当に悲しい見通しですからね。そして、あなたはきっと、他の人にはあまり見せていないのでしょうね。この悲しい側面を。」
S23: 「そう、私はあまりそれをうまくできません。(C:うなずく。)私は強くあろうとするのに忙しくて、(C:うん。)無意識にそうしているんです。それに、同時に落ち込んでいることもあります。(C:うん。)(シルビアは微笑む。)私は、悲しみや恐れが問題に取り組む方法だと信じてきました。(C:うん、うん。)」
C23: 「うん、あなたが直面しようとしていることに対する恐れや、自分自身が失うことへの悲しみですね。(S:うなずく。)それはどちらも非常に現実的な感情です。」
カウンセリングの冒頭から、いきなり感情を発露して泣き出すのですから、ロジャーズは、これまでに悲しみの感情をシルビアが十分に表現できていなかったことに対して、改めて理解を示しています。
S24: 「それと、(間を取る)恐れや興奮の一部は、私が何か新しいことをすることに対するものだとも思います。私は今まで、自分の職業で(C:うなずく)自信を持って働いたことがなくて、(C:うん、うん。)シングルの自立した女性として、若い子供たちを育てながらうまくやっていく。(C:うん。)それが、私が自分のために求めていることなんです。(C:うん。)(シルビアは笑う。)」
C24: 「それが、あなたが目指してきた目標ですね。(S:うなずく。)うん。(3秒の沈黙。)子供たちはこのことについてどう感じているんでしょうか?」
[カール:ここでは、単に自分の衝動に従って、彼女の子供たちのことを考え始めたので、その質問を投げかけました。これがカウンセリングの観点から見て良い判断だったかどうかは、これからの展開次第です。これを見ている人は、「ここに欠けている部分がある。彼女がまだ話していないことがある」と私が考えて、質問をしたと思うかもしれません。実際にはそういうプロセスではありません。私は自分の中に湧き上がってくるものに対してオープンであろうとし、それを口に出し、プロセスを考えるよりも、内なる感情に従って行動しようとしています。]
コーチングでは、この「子供たちはこのことについてどう感じているんでしょうか?」といった他者視点からの質問をすることで、クライアントが気づきを得るきっかけとしますが、ここで、ロジャーズは非常に正直な人だな(笑)と私は感じました。
要するに、そういった計算されたものではなく、あくまでも、ロジャーズもロジャーズ自身の感情に素直に対話を進めていることを説明してくれています。物事を計算して進めようとしているカウンセラーや私のようなコーチに対して、良いお叱りをしてくれているようです。
S25: 「私の末っ子は、私に仕事に行って欲しいと思っています。(C:うなずく。)もっとお金が入って、(C:うん。)自分のお小遣いも増えるから。そして、長男はまだ一緒に住むことに同意していません。(C:うん。)でも私は、彼がその時には一緒に住んでくれることを願って準備を進めています。(C:うん。)彼は夏の間は私と一緒に住む予定です。」
C25: 「それも新しい展開ですね。」
「それも新しい展開ですね(So that’s another new part of the…)」との返しは、私としてはやや計算があったのかな、と邪推してしまいます。要するに、悲しみの感情を満たしたので、別の感情に目を向けられるように、という想いがひょっとしたらあったのかもしれません。ロジャーズが聞いたら否定しそうですが。
S26: 「そして、長男との関係はすごくぎくしゃくしています。彼はこの2年間、私と一緒に住んでいません。ですから、これも私が話していることの難しい部分です。(C:うん。)彼との関係を改善したいと強く願っていて、カウンセリングのためのお金があればいいなと思っています。私たちには第三者の助けが必要だと思っているんです。(C:うん。)そして、家族療法のような形で一緒に取り組めることを願っています。(C:うん。)私たちには助けが必要だと思うんです。(C:うん。)それに、彼との疎外感を感じることが、これからの秋や新しい年に対するもう一つの不安材料なんです。」
C26: 「『彼が本当に私を母親として受け入れてくれるだろうか』と考えているんですね?」
[シルビア:ええ、『彼が本当に私を母親として受け入れてくれるだろうか』と言ってくれたことで、彼が私の話を聞いてくれているんだと感じました。(C:うん。)そして、その時はどうだったかわかりませんが、それが、私がその問題についてどう考えているのか、自分で理解し、明確にするために、助けになったかもしれません。]
S26でシルビアは、カウンセリング、家族療法、疎外感など、やや知的にこの問題から感情的に逃げているのかもしれません。そこに対して、ロジャーズは、要するに「彼が本当に私を母親として受け入れてくれるだろうか」なのでは、と代弁しています。そこに対して、シルビアも、ロジャーズが彼女の真の懸念をきちんと理解してくれている、と感じています。
S27: 「彼の母親として、(C:そうですね。)彼を愛し、彼のことを気にかける者として。」
C27: 「それもあなたにとっての大きな心配事ですね。」
S28: (うなずく。)(3秒の沈黙。)「ええ。私たちうまくやっていけるのかしら。一緒に暮らせるのかしら。私たちは今まで一緒に住んでいなかったし、彼はとても違った生活スタイルを送っていました。」
C28: 「『本当に二人が望むような関係を築けるのだろうか』と自問しているんですね?」
S29: 「何ですって?」
C29: 「あなたは『本当に二人が満足できる関係を築けるのだろうか』と自問しているんですね?」
S30: (うなずく)「ええ、そして幸せに暮らせるのかって。(C:うん。)ええ…」(8秒の沈黙)(微笑む)「それが重要なことですね…私自身ではそれについてあまり考えていなかったけれど、あなたが子供たちのことを言ったことで、セネットのことを思い出しました。それが私がよく考える非常に重要な部分です。(C:うん。)そして、彼が夏の間私たちと一緒にいることが嬉しいです。(C:うなずく。)私たちには時間が取れそうです。」
C30: 「その関係を築き始めることができそうですね。うん。」
「彼が本当に私を母親として受け入れてくれるだろうか」の問いかけの次として、ロジャーズとしては、シルビアが「本当に二人が満足できる関係を築けるのだろうか(Can we really form a relationship that both of us will like?)」を考えているのではないか、と問いかけました。
そこに対して、シルビアはやや沈黙をしますが、ロジャーズが子供の事に言及をしてくたおかげで、そこが自分の「欲しかった状態」であることを認識できたようです。
更にロジャーズは、「その関係を築き始めることができそうですね。(You can get a start on that.)」と、シルビアが進んでいる方向に向けて、そっと背中を押してあげています。
S31: 「そうですね。ええ。(C:うん。)例えば、私が仕事をしていないときに。(微笑んでうなずく)(24秒の沈黙。)私は、この撮影に対してすごく固くなっていたように感じます。(C:うなずく。)体の中でそれをすごく感じていました。でも、私たちが話し始めてからは、もっとリラックスできた気がします。」
C31: 「うん、うん。(4秒の沈黙)本当に難しいことですね。」
S32: 「ええ。(間を置く)でも同時にワクワクしています。(C:うん。)この旅に出て、あなたに再会することも。(C:うん。)でも、それと同時にすごく怖いんです。(C:うん。)誰がこれを見るんだろう?そして、彼らはどう思うんだろう?(C:うん。)それはどんなふうに見えるんだろう?(C:うん。)私は自分に厳しすぎるのか、それとも自分に良くしているのか、それがわからないんです。こういう立場に自分を置くのが良いことなのかどうか…(C:そうですね。)それが私の意味です。」
C32: 「そうですね。(沈黙)あなたは『本当にこれをすべきだろうか?誰が見るのだろう?(S:うなずく。)彼らは何を言うだろう?私は賢明なのだろうか?』という葛藤を抱えているんですね。」
シルビアとしても、彼女のプライベートな問題についてのカウンセリングが撮影され、公開されることに対してナーバスになっています。ロジャーズもそこの気持ちを代弁しています。
S33: 「うん。完成したものがどうなるんだろう?(C:うん。)」(咳払い)「私はそれを見ることがあるんだろうか?」(C:うん。)(お互いに微笑む。)(10秒の沈黙)
[シルビア:自分自身を、非常にプライベートなことを開示する立場に置いているわけで、誰がこれを見て、どんな判断をするのか全くわからない状態です。そして、自分をさらけ出すこと、それが難しいと感じます。しかし、その困難を乗り越えて学びやカールとの体験を得る機会に身を置くことは、自分自身にとって良いことだと思います。それが、自分にとってとても良いことだと感じています。]
[カール:シルビアは撮影のことをよく意識していましたが、それに対して非常に良い姿勢を持っていたと思います。インタビューではできる限り自然体でいることで、カウンセリングの分野に貢献できることを願っていました。1年前のインタビューでも、そして明らかに今回のインタビューでも、私との関係はシルビアにとって非常に重要なものでした。]
この後日感だけを見ても、ロジャーズとシルビアとの間の信頼関係の深さをうかがい知ることができますね。
C33: (10秒の沈黙)「あなたの目が何かを語っているように見えますが、それが何かはわかりませんね。」(微笑み、笑う。)
S34: 「ええと、去年の間に何度かあなたの声を聞いて、すごく感動したことを思い出していました。(C:うん。)そして今、私はここにいます。」
C34: 「それがあなたにとって大きな意味を持ったんですね。」
S35: 「この瞬間をしっかり受け止めたいと思っています。(C:うん。)ここにいるということを。」
C35: 「うん。」(3秒の沈黙)「あなたは、私があなたにとって大きな存在であると言っているようですね。」
S36: 「ええ、この時間があなたと一緒にあるということ。(うなずく。)そうです、あなたが。(微笑む)(12秒の沈黙)今、何を話したいか考えているところか、話すことに対してちょっと空虚な感じがしています。」(5秒の沈黙)
C36: 「私があなたにとってどんな意味を持つのか教えてもらえますか?」
S37: (微笑む)「ええ、教えられますよ。」(8秒の沈黙)「ええと、(4秒の沈黙)あなたについて一番好きなことは、あなたの書かれたものを理解する限りでは、私はあなたの書いたものをあまり多くは読んでいませんが、あなたが自分の書いたことを生きているということです。そして、私が理解している多くの有名な作家たちは、彼らが書いたことと、彼らが実際に生きていることが、どこかかみ合っていないように感じます。彼らは全く違うことを生きているんです。だから、私はあなたのことを(微笑みながら)素晴らしい人だと思っていますし、そういう意味であなたは…(3秒の沈黙)」
なるほど、シルビアは、ロジャーズの現行が一致していて、自分に対して嘘偽りがない人物だから信頼しているのですね。
C37: 「でも、それはあなたにとってどんな意味がありますか?」
S38: (ため息)(3秒の沈黙)「ええと、それは私がもっとなりたい自分ということです。(C:うん、うん。)価値観を持って、それを実践し、それに沿って生きることができるようになりたいんです。」
C38: (4秒の沈黙)「あなたは、自分の人生と信じていること、(S:うん。)価値を置いていることとの間に、良い一致を持ちたいと思っているんですね。(S:うん、うん。)」
そして、シルビア自身も、ロジャーズのように、自分の価値観に沿って行動をしていきたい、と思っています。そういった観点でのロールモデルとしてロジャーズを見ています。
S39: (3秒の沈黙)「それに、あなたについてもう一つ感じるのは、『忍耐』という言葉ではないんですけど、あなたは自分自身にとても落ち着いていて、私や他の誰が何を言ったりしても、(3秒の沈黙)あまり緊張しないように見えます。」
C39: (笑う)
S40: (笑いながら)「でも、実際にはそうかもしれませんね。(C:うん。)時々、そうなることもあるでしょう。だって、あなたも人間ですから。」
C40: 「確かに、そうですね。それはその通りです。」
S41: 「でも、あまりそう見えませんね。(C:うん、うん。)」
[カール:彼女が感じていた、私が関係の中で全く緊張していないという感覚について、私は完全には受け入れていなかったようです。ここで彼女が言っていることは、実際には私たちがセラピーで最も効果的だと見つけた態度の表明だと感じます。彼女は、私を真摯な存在として感じていると言っています。そして、私が彼女に対して共感的に理解していると感じていることも明らかです。これらの要素は、経験や研究の中で、カウンセリング関係において最も強力な要素として示されています。]
ロジャーズは、カウンセラーが真摯な存在であること(高い自己一致のレベルにあること)と、共感的理解を示していることが、カウンセリング上の関係構築にとって強力な要素(potent elements)である、と総括しています。要するに、カウンセリング技術ではなく、あり方が重要である、と話しているように私は感じました。
また、ロジャーズであっても、カウンセリングの中で緊張する(upset)ことはあると聞いて、安心もしました(笑)。
次の記事が、ロジャーズとシルビアの対話のラストになります。
