ウチの潜入捜査くん【第1話】
【あらすじ】
自由な校風が売りの私立才駆論高校に、転校生・添光成がやってきた。
この男、正義感は強いけど、力加減がバグってる! 転校早々、不良をぶっ飛ばし、生徒会に呼び出されるハメに。
だがそこで、校内で不審な事件が相次いでいることを知った添は、なぜか捜査を申し出る。真っ直ぐな眼差しは、まるでそれが使命であるかのようで――
気弱な男子・戸井風斗、学校のマドンナ・南條まどか、才色兼備の生徒会長・芽ヶ谷寧音とともに、添は事件の謎に迫る。
容疑者は、一癖も二癖もある生徒や教師たち。そして捜査の先には、殺人事件が待っていた。
正義の拳が、真実も校舎もぶっ壊す!
笑いと破壊、そして謎が交錯する、青春学園ミステリー!
第1話 嵐のような転校生
~私立才駆論高校 校舎前~
5月の連休明け、たくさんの生徒が登校している朝。
一人の男子生徒が、小柄な男子生徒・戸井風斗に詰め寄っている。
男子生徒「おいトイプー、連休は楽しかったかよ?」
戸井「う、うん……」
戸井 風斗
(ニックネーム:トイプー)
才駆論高校2年2組
男子生徒「そりゃよかったなぁ。ところでさ、俺も遊びまくって金がなくてよ。ちょっと貸してくんねぇか?」
戸井「い、いやだよ……ボク、そんなにお金ないし……」
男子生徒「ちょっとでいいからさぁ!」
嫌がる戸井。凄む男子生徒。
すると、男子生徒の背後に何者かが現れ、その頭を左手で鷲掴みにする。
???「おい」
ドスの効いた低い声がした。
???「お前、何をしている」
戸井がおそるおそる見上げると、見慣れない顔の男がいた。黒い短髪、猛々しい太眉、精悍で真っ直ぐな瞳。たくましい肉体からは只者ではないオーラが出ており、その姿はまるで学ランを着た格闘家だ。
男子生徒「な、なんだよ! お前だれだよ!」
???「素逸流、繰武拳……」
男子生徒の質問を無視し、男はつぶやいた。そして、右手をゆっくりと引き、グーにしながら勢いよく突き出した。
???「砲一布!」
ズドォォォォォーーーーーン
男の拳を食らい、男子生徒は吹っ飛んだ。そして、校舎に激突し、壁に大きな穴が開く。当然、その場は騒然となった。
戸井「えええええ」
ビビり散らかす戸井。すると男が話しかけてきた。
???「大丈夫か?」
戸井「えっ、あっ、はい……」
???「そうか。では、俺はこれで」
男は、何もなかったかのように校舎の中へ入っていった。
戸井「な、なんだったんだ……」
~私立才駆論高校 2年2組教室~
朝のホームルーム。担任の田佐井が教室に入ってきた。50歳半ばの彼は、バーコード頭にメガネ、小柄で痩身という地味な外見。その見た目と名前から、陰で生徒に「ダサいオヤジ」と呼ばれている。
田佐井「えー、朝のホームルーム始めるぞー」
田佐井 親次
才駆論高校 数学教師/2年2組担任
田佐井「このクラスに転校生が来た。入りなさい」
田佐井に呼ばれて入ってきたのは、先ほど校舎前で男子生徒をぶっ飛ばした男だった。
添 光成
才駆論高校2年2組/転校生
戸井「あれって……さっきの……?」
転校生の見た目は、先ほどと少し変わっている。髪は乱れ、学ランはボロボロで汚れており、顔や両手には無数の生傷があった。
田佐井「ていうか君、えらいボロボロだけど大丈夫?!」
添「大丈夫です。まだ着れます」
田佐井「いや制服じゃなくて体の傷の方を心配してるんだけど?!」
戸井(校舎の中に入ってからなにがあったんだろ……)
田佐井「本当に大丈夫なんだね?!」
添「はい」
田佐井「じゃあ、とりあえず自己紹介して。えーっと、名前は……テン・コウセイ君だったかい」
添「添光成です」
添はにべもなく訂正した。
田佐井「ああ、すまない。添光成君か。わからないことがあったら、いつでも聞きなさい。じゃあ、戸井の隣の席が空いているから、そこに座ってくれ」
添「はい」
添はつかつかと歩き出し、戸井の左隣――窓側の一番後ろの席に座った。
戸井「よ、よろしく……」
ビビりながらも、挨拶をする戸井。
添「ああ、さっきの」
戸井「うん。あ、さっきはありがとう。ボク、戸井風斗。みんなは『トイプー』って呼ぶんだ」
添「そうか。よろしく頼む、戸井風斗」
戸井(あっ、呼ばないんだ……)
この添という男、かなり破天荒ではあるが、悪い人間ではなさそうだ。戸井はなんとなくそう思い始めた。
戸井「あのさ……」
添「なんだ?」
戸井「さっきの、技? すごかったねぇ。何かの格闘技?」
添「素逸流繰武拳だ」
戸井「すいつりゅう……? くりむけん……?」
添「さっきのは『砲一布』といって、繰武拳の中で最も初歩的な技だ」
戸井「ほういっぷ……?」
添「拳に闘気を込め、相手を弾き飛ばすように突く技だ。初心者にも覚えやすく、非常にシンプルな技でありながら奥が深い。さらに素逸流の教えには『砲一布を制する者は繰武拳を制する』という格言まであってだな……」
戸井「あ、うん、もういいや」
戸井は、質問したことを少し後悔した。
田佐井「じゃあ、出席とるぞー」
田佐井がいつものように出席確認しようとしたとき、教室の前のドアがコンコンと鳴った。
???「失礼します」
廊下から可愛らしい声がした後、ドアが開いた。そこには、ストレートボブがよく似合う、容姿端麗な女子生徒がいた。生徒会副会長を務める才駆論高校のマドンナ、南條まどかだ。
まどか「田佐井先生、お時間少々よろしいでしょうか?」
南條 まどか
(ニックネーム:ナンマド)
才駆論高校3年3組/生徒会副会長
男子生徒「おい、ナンマドさんだぜ!」
女子生徒「ナンマドさん、今日もかわいい~!」
戸井(ああっ! ナンマドさんだぁ……!)
まどかの登場にクラス中がざわつく。
田佐井「南條か。どうした?」
まどか「今日こちらのクラスに入った転校生をお借りしたいのですが。生徒会室まで連れてくるよう、生徒会長の芽ヶ谷に指示されたので」
才駆論高校は、自由な校風が売りである。その特徴の一つが、“校内のあらゆる裁量権が生徒会に委ねられている”というもの。自分たちの学校を自分たちで作り上げていくことが、学校の理念として掲げられているのである。
田佐井「ああ、生徒会長の指示ならしかたないな」
まどか「転校生はどなたですか?」
添「俺だ」
立ち上がる添。まどかはその席まで歩いていき、添の目の前にやってきた。
まどか「君がテン・コウセイくんね」
添「添光成だ」
まどか「君ねぇ、転校初日から問題起こし過ぎなのよ!」
まどかの語気が強くなった。
まどか「校舎前で生徒をぶっ飛ばして校舎ごとボロボロにするわ、階段の踊り場でたむろしている生徒数人を蹴り飛ばすわ、廊下を走る生徒を天井にめり込ませるわ、やることめちゃくちゃなのよ!」
戸井は心の中で(ボクのとき以外にも余罪があったんだ……)とつぶやいた。
添「俺はただ、不良生徒を懲らしめただけだ。カツアゲや迷惑行為をする方が悪い」
まどか「暴力も同じくらいダメだから! だいたい、どうやったら人を天井にめり込ませられるのよ! 逆犬神家みたいになってたじゃない!」
添「あれは素逸流繰武拳の技の一つ『地出』といって、相手を蹴り上げる上級者向けの技で、非常に高度な技術に加え瞬発力を必要とする……」
まどか「技の説明はいいから! とにかく、生徒会長が呼んでるから、生徒会室まで来てもらいます!」
添の腕を引っ張るまどか。すると、戸井が口を挟んだ。
戸井「あ、あの、ナンマドさん」
まどか「なぁに、トイプーくん?」
戸井はいじめられっ子ということもあり、よく生徒会の世話になっている。そのため、まどから生徒会役員とは面識があった。
戸井「じ、実は、ボク、さっきカツアゲされているところをこの人に助けてもらったんです。だから、悪気はなかったんじゃないかなって……」
添「そうだ。悪気はない」
まどか「ちょっと黙ってて」
まどかは添を押しのけた。
まどか「あのねトイプーくん。君の言ってることはわかるけどねぇ、これは生徒会長命令なの。まぁ、とはいえ問答無用で罰するわけじゃないから。とりあえず二人とも生徒会室まで来てくれない?」
戸井「え、ボクもですか?」
まどか「だって友達なんでしょ?」
添「友達だ」
戸井「初対面だけど?!」
添「いいから行くぞ」
戸井「キミが言うな!」
まどかの後を、添と戸井がついていく。
~才駆論高校 生徒会室~
まどか、添、戸井がやってくると、生徒会室の中から声がする。
男子生徒「だから! オレは被害者なんだって!」
まどか「あら、だれか来てるみたい」
まどかは、ドアをノックした。
コンコン
???「どうぞ」
先ほどの男子生徒のものではない、知的な印象の女性の声が返ってきた。
まどか「失礼します」
まどかがドアを開ける。すると、そこには二人の生徒がいた。
一人は、騒いでいた男子生徒。細いつり目が特徴的で、どこか高慢で嫌味な印象を受ける。
もう一人は、奥の生徒会長席に座っている女子生徒。腰まで届く艶やかな黒髪、知性を感じる細フレームの眼鏡、整った中性的な顔立ち。まどかを学校一かわいい生徒とするならば、彼女は学校一の美人と言える。
彼女こそ、才駆論高校の生徒会長、芽ヶ谷寧音その人だった。
まどか「メガネネちゃん、例の転校生を連れてきたよ」
寧音「ありがとう。ご苦労だったな、ナンマド」
芽ヶ谷 寧音
(ニックネーム:メガネネ)
才駆論高校3年2組/生徒会長
まどか「取り込み中だった?」
寧音「構わないさ。この男がさっきから『オレは被害者だ』ってうるさいだけだ」
男子生徒「ほんとなんだって! 見慣れない顔の奴にいきなりダブルチョップ食らわされたんだって!」
戸井・まどか「それってもしかして……」
二人が添の方に振り返る。
男子生徒「ああー! こいつ! こいつがオレにダブルチョップしたんだよ!」
男子生徒が添を指差す。
戸井・まどか「やっぱり……」
添「ダブルチョップではない。あれは素逸流繰武拳『双斧闘』という両手を素早く振り下ろす技で、一般的なチョップとは一線を画す特殊な手の使い方があってだな……」
戸井「技の説明はいいから!」
寧音「どうしてそんなことになったんだ?」
添「こいつがなんか変な顔をしながら『オレのパパは大企業の社長だぞ』と周りの生徒に自慢して回っていたんだ」
男子生徒「顔関係なくない?! お前のせいで、一瞬息が止まったんだぞ!」
添「うるさい」
添が男子生徒に向かい、壁ドンの要領で生徒会室のキャビネットを殴る。
男子生徒「ひぃぃぃっ! もう勘弁してくれぇ!」
男子生徒は、逃げるように走り去っていった。
寧音「やれやれ、とんだトラブルメーカーだな」
添「まったくだ」
戸井「たぶんキミのことだよ……」
戸井がつぶやく。
寧音「添光成といったか。お前は転校初日からどれだけ問題起こしているのかわかっているのか?」
添「校舎の破壊だけだ」
戸井「それは認めるんだ」
寧音「校舎の破壊も今のキャビネット破壊も含めて4つだ。こんなことは創立以来初めてだ。前例がないから処罰に悩み、こうやって呼び出したのだ」
添「それはご苦労なことだな」
戸井「何様だよ」
寧音「はぁ、どうして今年度はこんなに事件が多いんだ……4月分の調査も終わっていないのに……」
頭を抱える寧音。
添「4月にも事件があったのか?」
寧音「ああ、今年の4月に入ってからもう何件も起きている」
戸井「どんな事件なんですか?」
寧音「3年のとある剣道部員は帰り道に屋上から植木鉢が落ちてきて大怪我するところだったし、別のとある女子生徒は体育館の器具庫に閉じ込められてその恐怖で不登校になるし、男子ラグビー部に至っては部室に大量のゴミが捨てられているという嫌がらせまであったな」
まどか「それでみんな辞めちゃって廃部になったんだよね」
寧音「この学校は個性的な生徒が多くトラブルは日常茶飯事だが、不審な事件がこんなに起きるのは初めてだ」
寧音の端正な顔が、少しだけ歪んだ。
添「外部犯の仕業ではないのか?」
寧音「それは考えにくい。事件はすべて学校の敷地内で起きているから、構造をよく知った者でないと犯行は難しいだろう。卒業生の線もなくはないが、ほとんどが卒業と同時に別の地方へ転出しているから、内部の人間による悪質なイタズラだと思われる」
戸井「なるほど……」
寧音「とはいえ、だ。さすがにここまで多発すると、今の生徒会執行部だけではとても手に負えん」
ため息をつく寧音。そのとき、添が提案をした。
添「なら、俺がやる」
寧音「何?」
添「俺がその不審な事件を捜査する。校舎を壊してしまったのは悪かったと思っているから、その謝罪がしたい」
寧音「断る」
寧音は添の提案を却下した。
添「なぜだ」
寧音「転校したばかり、それもいきなり問題を起こしまくった者に、おいそれと重要な任務を与えるわけにはいかない」
寧音の正論に(そりゃそうだよね……)と心の中でつぶやく戸井とまどか。しかし、添は食い下がる。
添「いや、俺は大丈夫だ」
寧音「いや、こっちが大丈夫じゃないんだが」
添「いや、俺は大丈夫だ」
寧音「話を聞け」
添と寧音のいたちごっこが続く。
???「話は聞かせてもらった!」
突然、朗らかな声がしたと思えば、生徒会室のドアがいきおいよく開いた。
ドアの前には、立派な眉毛とヒゲを蓄えた好々爺が立っていた。左手を腰に当て、右手のピースサインを高々と上げている。
是津「わし絶好調!」
是津 延泰
才駆論高校 校長
四人「……」
是津「あ、これは『是津校長』と『絶好調』を掛けて言ったんじゃ。笑うところじゃよ君たち」
寧音「何の御用でしょうか、校長」
是津「相変わらず冷たいのう……」
一瞬しょんぼりしたフリをして、是津は続けた。
是津「芽ヶ谷くんや、ここは添くんに任せてもよいのではないか?」
寧音「しかし……」
是津「犯人がどんな人間かわからないんじゃろ? ならば彼のように強い者が調べてくれれば心強くはないかね?」
寧音「それはたしかにそうですが」
是津「彼一人だとなにをしでかすか不安なら、目付け役がいるとよいな。ほれ、そこのトイプードルみたいな彼なんかぴったりじゃろ」
是津が戸井の方へ向く。
戸井「ぼ、ボクですか?!」
是津「だって友達なんじゃろ?」
添「友達です」
戸井「都合のいいことばっかり!」
是津「あと、女子生徒も欲しいのう。もしかしたらトイレや更衣室を調べることもあるかもしれんからな。というわけで、南條くんも協力してくれんかの?」
まどか「わ、わたし?!」
寧音「校長。お言葉ですが、少々介入の度が過ぎませんか? これは生徒会で決める事案だと思うのですが」
寧音が諫言した。が、是津は首を縦に振らない。
是津「すまんな、芽ヶ谷くん。これは校長命令じゃ。君たちの学校生活が静かに脅かされている今、我々指導者がなにもしないわけにもいかないじゃろ。ほれ、なかなか頼もしそうな男じゃないか」
添の二の腕あたりをもみもみする是津。
是津「彼の転校を認めたのはわしじゃ。やや暴れん坊だが、悪い奴ではない。どうか信じてもらえんかの?」
先ほどまでの陽気な雰囲気とは打って変わって、是津はていねいな口調で――それでいて毅然とした態度で話した。寧音も、さすがに本気モードの校長には逆らえない。
寧音「校長がそこまでおっしゃるなら……」
是津「サンキューじゃ! 事件のことは、わしの方でも調べておる。なにかあったらすぐに教えてくれい。では頼んだぞ!」
是津は、生徒会室を後にした。
寧音「……というわけだ。ナンマド、すまないがよろしく頼む」
まどか「わたしはいいんだけど、トイプーくんは大丈夫なの?」
戸井「いや、まあ、はい。この人、放っておくと大変そうですし……」
戸井が添の方に目をやる。添は、さっき自分が殴ったキャビネットを触りながら「ほう、なかなか頑丈な素材だ。俺の拳何発で壊せるだろうか」などとつぶやいている。
寧音・まどか「確かに……」
寧音「とにかく、私もできる限り捜査に参加するから、よろしく頼む。そういえばまだ名乗ってなかったな。芽ヶ谷寧音だ」
添に自己紹介をする寧音。
添「添光成だ。芽ヶ谷寧音、お前がこの学校の親玉だな」
寧音「だれが親玉だ。生徒会長だ」
まどか「わたしは南條まどか。『ナンマド』って呼んでね」
添「よろしく頼む。南條まどか」
まどか(呼ばないんだ……)
寧音「ひとまず、生徒会長である私が指揮を取らせてもらう。まずは情報を集めたい」
添「わかった。ではこれから校内を見回ってくる」
戸井「いや授業は出なよ。学校をなんだと思ってんだ」
今にも出発しそうな添に、戸井が冷静にツッコむ。
寧音「トイプーの言うとおりだ。我々は捜査チームである以前に学生だ。授業はしっかり受けなければならない」
まどか「じゃあ、昼休みとか放課後に集まる感じかな?」
寧音「そうだな。昼休みにここでランチミーティングしよう。私はそれまでに現状できる範囲で情報収集をしておく。みんなはあやしい者がいないか目を光らせてくれ」
添「わかった。手始めにこれから校内を見回ってくる」
戸井「全然わかってないだろ!」
まどか「あの子たち大丈夫かな、メガネネちゃん……」
寧音「さあな……先が思いやられるのはたしかだ」
こうして、添、戸井、寧音、まどかの四人で構成される捜査チームが結成された。
しかし、この先に待ち受けている事件を、彼らはまだ知らない。
(つづく)
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