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Writer式・AIアプリ企業の勝ち筋:巨大PFが手を出さないラストワンマイル

  • AIはタスクの時間短縮ではなく、工程圧縮が本丸

  • 社員の生産性向上は巨大プラットフォームが奪いに来るので分が悪い

  • ハイパースケーラーが手を出さない【ラストワンマイル】に勝ち筋が残る

ChatGPTが登場してからというもの、一週間前には出来ないと思われてたことが、今日はできるようになった、ということが日々起きています。

インターネットによって世界が大きく変わったように、生成AIによって新しい事業・サービスがでてくる瞬間にいる、と言っていいと思います。一方で「SaaS is Dead」と言われるように、自社がどの領域にポジショニングするかも非常に重要になってきています。

これまでもこのnoteで書いてきましたが、生成AIアプリケーションレイヤー企業が勝負すべきなのは「数時間短縮する便利ツール」を作ることではなく「仕事の工程を丸ごと圧縮できるか」であると考えられます。

今回は、企業向けにマーケ、セールス、法務等の文書業務におけるすバーティカルAIスタートアップの Writer, Inc. のCEO:May Habib(メイ・ハビブ)氏のインタビューから、市場見立てと具体戦略をベースに、AIアプリケーションレイヤーの勝ち筋を考察します。

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■Writerの紹介

Writerは、元々はTransformerで翻訳を手掛けていた企業でしたが、LLMが出てきたことをきっかけに、企業の業務にAIを本番運用できる形で組み込むためのフルスタック生成AIプラットフォームに転換をした企業です。

前回取り上げたSierra共同創業者 Bret Taylor は「Writerはマーケ向けの垂直AIアプリ」と位置づけていますが、Writer自身は、マーケに限らず、社内の複数部門でAIエージェント/ワークフローを動かすAI企業と位置付けています。

  • 自社で用途別の18種類のモデル(LLM)を作っている

  • 自社のナレッジグラフRAGにより高品質な出力

  • 企業導入で詰まりやすいセキュリティ、ガバナンスを前提に、業務へ埋め込む思想

運営企業:WRITER, Inc.(アメリカ、サンフランシスコ)
共同創業者:May Habib / Waseem AlShikh
サービス開始時期:2020年(公式「2020年にWRITERをローンチ」)
従業員数:LinkedIn上は「Company size:201–500 employees」
売上・ARR:公式プレス等でARR金額の明示なし
評価額:19億ドル(約3,002億円、2024年11月時点)※WRITER公式
※ 1ドル=158円換算。

Writer

■AIアプリケーションレイヤー企業のかかえる市場構造課題

Writerが事業展開しているAIアプリケーションレイヤーの戦い方として、最初に考えなければいけない点は、OpenAIやAnthropicなど巨大なモデルプロバイダーがおり、MicrosoftやGoogleなどの巨大プラットフォーマーがいる中で、彼らが入ってこない領域で戦わないと、あっという間にやられてしまうということです。

この事はインタビューの中で下記のように語られています。

ChatGPT が登場した頃、私たちのチームには根本的な認識が生まれました。私たちはメモにまとめて全員に送り、投資家にも共有しました。
それは「高品質な消費者向けマルチモーダルLLMは無料になる」ということです。焼け野原(scorched earth)になる。これは明確で、実際そうなりました。
私たちが15か月前に書いたもう一つの“真実”は、「あらゆる system of record(基幹システム)が AI の隣接領域を作り始め、社員の生産性向上市場は Microsoft に食われる」ということでした。

Writer Co-founder and CEO May Habib|筆者訳

社員一人ひとりの生産性を向上させる席数課金のSaaSツール市場は、GoogleやMicrosoftのような巨大プラットフォームが既存サービスにAIを載せて奪いにくるため、簡単に喰われてしまう市場であるということ言っています。

これはポーターの競争戦略で語られている5フォース分析で見ても構造的に利益が薄くなる場所です。

生産性向上ツールは、①既存契約の同梱で代替可能無ため買い手(企業)の交渉力が強い、②代替品の脅威が極大、③既存競争が過熱、という条件がそろい、価格交渉力が弱く、利益も薄くなります。

エンタープライズ企業の仕事は、すでに Salesforce / Microsoft / SAP / Google のような「本丸の道具」の中で回っています。

そして生成AIが普及すると、その「本丸の道具」が AI機能を標準装備してくるようになります。そうなると、これまでSaaSスタートアップが売っていた、文書作成・要約自動化、議事録まとめCRM登録、社内FAQチャットボットのような生産性向上ツール市場は、本丸ベンダーに同梱されて置き換えられやすくなります。

特に Microsoft、Google は、Office系、企業内ID、権限管理、ファイル管理があり、かつ膨大な利用者数を握っているので、社員の生産性向上ツール市場はMicrosoft or Google が一番取りやすいのです。

この領域は、巨大PFの参入障壁が極めて低く、今後入ってくることが予測されるため、事業の競争力が保てる期間が極めて短くなります。具体的な例としては下記の様なものです。

  • 以前:議事録要約ツールをスタートアップが別途売る

  • 今後:Teams が録音→文字起こし→要約→タスク化まで標準で提供

  • 企業側:追加ツールを買わなくても足りる、既に契約してる範囲で済む

  • SaaS スタートアップ側:差別化が難しくなり、単価も下がる

こういった中で残る戦場は、MicrosoftやGoogleといったハイパースケーラーが取り切れないラストワンマイルにあります。それはデータ整備、ワークフローへの埋め込み、ガードレール整備、組織変革など、ユーザー企業に入りこまないと解決できない非常に泥臭い領域です。

直近このnoteで取り上げた、リーガル領域のHarvey、サポートセンター領域のSierraも、バーティカルAIアプリケーションレイヤー企業として、特定の領域に対して泥臭く、深く企業に入り込んでAIエージェントを作り込むスタートアップでした。

印象的なのが、各バーティカルAIアプリケーションレイヤー企業のCEOは、異口同音に「このレイヤーまではハイパースケーラーは非汎用的すぎて、かつ手間がかかりすぎて入って来れない」と口にしていることです。

泥臭く深く特定領域に入り、様々なユースケースを分解・AIエージェント化し、組織変革を合わせて進めていく、これがAI時代のアプリケーションレイヤーの勝ち筋として最も重要だと思われます。

■Writerが解決しようとしている課題

一方でWriterが顧客にしているエンタープライズ企業の抱えてる課題(=Writerが解決している課題)は下記のようなものです。

エンタープライズ企業の課題は、生成AIを導入しようとする多くの企業がPoC(概念実証=検証プロセス)止まりになってしまい、本番導入に至らないということです。これには3つの壁があります。メイ・ハビブ氏のインタビューでは次のように語られています。

①ハルシネーションなどの品質の課題

1つ目は品質です。アプリが賢くなければ、なにもできません。規模が大きくなっても賢くいられるか、時間が経っても賢くいられるか、鮮度を保つ手段があるか。期待値は非常に高くなります。アプリの動作品質を維持できなければ、成功するのは難しいし、スケールできるという確信も持てません。

Writer CEOメイ・ハビブ氏との対談:ジェネレーティブAIによる企業変革の成功|筆者訳

②失敗リスク、責任取りたくない課題

次に、コンプライアンスとリスクという山が出てきます。最初のPOCを出すための最初の承認を取った後でさえ、「最後にYesと言った人になりたくない」という心理が働き、新しいゲート(承認段階)が追加されていくのが見え始めています。そこには別の人員とプロセスが絡みます。

Writer CEOメイ・ハビブ氏との対談:ジェネレーティブAIによる企業変革の成功|筆者訳

③組織変革・再編の行わなければならない課題

3つ目の山は、POCをスケールする上で重要なのは色々なものを「止める」ための勇気です。不要だった人員配置、必要になった組織再編、必要になったリスキリング、外部代理店の縮小、請負業者の整理、契約の組み替え。そうしたことが求められます。

Writer CEOメイ・ハビブ氏との対談:ジェネレーティブAIによる企業変革の成功|筆者訳

AIスタートアップと言うと、AI関連の技術面に目が行きがちですが、品質は最初の壁ではあるものの、こうみてみると、多くは人と組織のチェンジマネジメントが重要だということがわかります。

日本でAX(AIトランスフォーメーション)をエンタープライズ企業で進めようとした場合、DX自体がなかなか進まない中では、これらの課題全てが非常に重くのしかかって来ることは容易に想像できます。

その意味では、日本においては中堅中小の事業会社や、事業サイドのスタートアップがAXを迅速に進めることで、大きな競争力を手に入れることが可能性があります。

■Writerの戦略・戦術

ここまで書いてきた市場構造課題と、エンタープライズ企業の抱える課題へのWriterの解は以下のようなものです。

□数時間の効率化でなく工程圧縮

Writerでは、営業する前に、業界ごとに反復回数の多い、AIで一番ROIの出る価値のある仕事を体系的に抽出し、勝ち筋のユースケースを見定めるといいます。

  • どんな部門に、どんな反復業務があるか

  • どの業務が「データが揃っていて」「品質要件が高く」「自動化余地が大きい」か

  • どの業務は浅い自動化で終わりがちで、やる価値が薄いか

  • どの業務は深い変革により工程圧縮が可能か

また、このようにして特定部門でインパクトを出すと、既存顧客が更新して終わり、ではなく、導入後に利用範囲・部署・用途が急拡大して、既存顧客からの売上が猛烈に増えるビジネス構造にWriterなっていると語られています。

ポストセールス側では、私たちは「エンドツーエンドのオーナー」を探しています。Customer Success では、更新が取れたとか、必要な DAU/MAU 比率を超えたとかで満足して、チェックボックスを埋めるだけの運用になりがちです。でも私たちは 200% の NRR(既存顧客内での年間増減)のビジネスで、近いうちに 400% の NRRになるはずです。

Writer Co-founder and CEO May Habib|筆者訳

□ラストワンマイルの泥臭い領域の解決

ハイパースケーラーが入ってきにくい「ラストワンマイルの課題」に対して、Writerは下記の要素により対応をしています。

①品質向上:
Writerはアプリケーションレイヤーの企業と書きましたが、自前のモデル(LLM)を開発しています。精度を上げ、VPCの中で動かせるようにするため、自ら18個の特定要件に合わえたモデルを作っています。

72B規模のモデルのためプライベートクラウドの中に置けて、膨大な計算資源を必要としないモデルになっています。

またベクトルDBではエンタープラズ企業の要求に答えられないため、自前でナレッジグラフDBを作ってもいます。インタビューの中では下記のように語られています。

たとえば 50 ドキュメント程度のアプリ、つまりデジタルアシスタントとして、100〜200ページの範囲をいくつか横断して問い合わせる、という程度なら、ベクタDB+埋め込みのアプローチで問題ありません。ですが、多くの企業データはそうではありません。

もしあなたが、看護師向けのデジタルアシスタントを作るとして、ある患者の10年分の医療履歴、患者固有のポリシー、ベストプラクティス、治療に関する政府規制、その患者が服用している薬について製薬会社が言っていること――これらを同時に参照させるなら、文章をチャンクに分割して、プロンプトに詰めてモデルに渡すやり方では、正しい答えが出ません。

一方で、ナレッジグラフベースのアプローチが取れると、はるかに多くの詳細が得られます。

Writer Co-founder and CEO May Habib|筆者訳

②深く入る:
Writerでは、顧客企業のCIO、業務責任者、現場、IT、法務・コンプラなどへのヒアリングし、何が本当の痛みか、どこで止まるか、承認・政治・リスク等を把握しにいっています

また顧客や社内が実際に作ったり試したAIアプリの実例を調査し、どれが当たったか、どれが外れたか、品質劣化のパターン、運用負荷のパターンを学習をし、勝ち筋のユースケースを見定めているのです。

かなりコンサル的なアプローチから入り、実際のプロダクトづくりから運用、組織変革までをやっていることがわかります。これらの話を聞くと、こういった領域では最近話題によく上がるFDE(Forward Deployed Engineer)の重要性もよくわかります。

インタビューではビジネスサイドに求める人物像を次のように語っています。

求めるのは、成長マインドセット、謙虚さ、そして顧客ビジネスを深く理解しようとする本物の好奇心です。それが最終的に、顧客業務に関する真の専門性・知識に結びつく。

Writer Co-founder and CEO May Habib|筆者訳

③最初にワークショップを行う:
顧客と継続的に関わるために、初期段階において、継続改善の型を作ることが語られています。何を正解とするかの品質基準、どのデータを正としてみるかの責任所在の明確化、誰が承認するかというリスク統制、どこまで自動化し、どこに人を残すかなどの現場導入の取り決めを最初に合意形成しているとのことです。

④手順への落とし込み:
AIを「チャットで使う」だけだと価値は出ません。価値が出るのは、既存業務の中にAIを組み込んだ具体的な手順まで落ちたときです。

「誰が」「いつ」「何を入力し」「どこを参照し」「どの形式で出し」「誰が承認するか」、人が判断するポイント、例外処理、監査ログ、エビデンス添付、差分管理等のワークフローを整備しているわけです。

⑤LLMOps環境構築:
ビジネスユーザーとエンジニアが共同できるプラットフォームを構築し、継続改善の体制を作ることで品質向上を図っています。(インタビューの中ではLLMOpsという単語では語られていませんが、やっていることはLLMOpsそのものです。)

共同プラットフォーム上では、ビジネスサイドが文章差し替え、ルールの更新、失敗例登録等をし、エンジニアがコネクタ設計、ログ監視、評価設計、チューニング等をおこない、両者が連携しながら改善プロセスを回します。

企業AIの品質は、モデル自体の品質より「最後の詰め」で決まります。そのためWriterでは、現場のビジネスサイドとエンジニアが一緒にデータ・業務手順・評価ルールを継続的に更新できる仕組み(LLMOpsが回る仕組み)を用意し、導入初期にその運用の型足を作ることを重視しているのです。

これらの結果、具体的な数字はありませが、かなり高いROIを達成できていることを伺わせる話がインタビューの中でありました。

ROIの数字があまりにすごすぎることがあるので、私たちはかなり削って提示します。CIOは50倍のROIなんて信じません。これまで何度も痛い目に遭っているからです。だから少し控えめに言って、実務的な話に落とします。

Writer CEOメイ・ハビブ氏との対談:ジェネレーティブAIによる企業変革の成功|筆者訳

これらによって、社員一人ひとりの生産性を上げるのではなく、特定の工程を丸ごと圧縮し、そのタスクに関しては最初から最後までAIエージェントが行うことで圧倒的なROIを叩き出しているのです。

■まとめ

こうしてみると、生成AIを幅広く社会に実装していくためには、個別の領域に特化した生成AIに強い伴走型のSIer(AIインテグレーター = AIerといえるかもしれません)のような存在が必要と言うようにも見えます。

ただし、その場合ウォーターフォールではなく、プロンプト/ルール/ツールの更新が速いため、改善サイクルは「週次〜日次」になり、成果も「工数」や「納品」ではなく「完了率・品質・収益貢献」などアウトカム課金になると思われます。そのため、SIとは文化的にはだいぶ異なる可能性は高いといえます。

米国のベイエリアでは、リーガル領域のHarvey、サポートセンター領域のSierra、そして今回取り上げたマーケ・ライティング領域のWriterは全て同様に、バーティカルに深く泥臭く各領域・各企業に入り込んでAIエージェントや運用改善の仕組みを構築しています。

「ハイパースケーラーが支配する」と言われがちですが、彼らがが絶対に手を付けない「ラストワンマイル」の仕事が膨大に残ります。私たちもすべてのユースケース、すべての業界、すべてのサブ業界に集中できるわけではない。だからこそ、まだまだ作られるべき会社がたくさんあります。

Writer CEOメイ・ハビブ氏との対談:ジェネレーティブAIによる企業変革の成功|筆者訳

メイ・ハビブ氏の「まだまだ作られるべき会社がたくさんあります」という言葉がとても印象的です。ここにAIアプリケーションレイヤー企業の勝ち筋があると言えます。


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