【異世界×ダーツ】ダブルブル・リスタート 第3話「歪んだ的、いびつな矢」
朝の光が、埃っぽい窓から差し込んでいた。
見慣れない、木組みの天井。
俺は、しばらくの間、それをぼんやりと眺めていた。
――ああ。夢じゃ、なかったのか。
昨日の出来事が、じわじわと蘇ってくる。
石造りの遺跡で目を覚まし、獣人の男たちと対峙し、リタと出会い、この潰れかけの酒場に転がり込んだ。
全部、現実だった。
軋む階段を降りると、リタが、もう起きていた。
「あ……お、おはよう、ございます。翔真、さん」
ぺこり、と、ぎこちなく頭を下げる。
白い耳が、朝の挨拶の緊張のせいか、少しだけ落ち着かなげに揺れている。
「ああ、おはよう」
まだ、他人行儀だ。
当たり前だ。
昨日会ったばかりの、素性も知れない男が、家に転がり込んでいるのだから。
簡単な食事――固いパンと、薄いスープ――を挟んで、俺は切り出した。
「さて。今日から、この店を、なんとかしていくわけだが」
「は、はい」
「まずは、道具だ。まともな道具が、いる」
俺は、昨日リタから借りた、ガレンの形見の的と矢を、テーブルの上に並べた。
あらためて、明るいところで見る。
……ひどい。
正直、これはひどい。
的は、木の板を丸く切り出しただけの代物で、面が硬すぎる。
これじゃ、矢が刺さらずに弾かれる。
矢は矢で、重心の位置がバラバラだ。
羽根に当たる部分もない。
これでまっすぐ飛ぶ方が、奇跡だ。
「これじゃあ、遊びにはなっても、勝負にはならない」
「そう、なんですか?」
「ああ。……悪いんだが、リタ。何か、書くものと、紙を、貸してもらえないか」
「あ、はい! ええと……これで、いいですか?」
リタが、奥から持ってきてくれたのは、羊皮紙の切れ端と、木炭のかけらだった。
上等なものじゃないが、十分だ。
「助かる」
そこに、線を引いていく。
理想の的の、寸法。
同心円の配置。
ブル、シングル、ダブル。
それぞれの幅。
刺さりやすく、跳ね返らない、盤面の素材。
続けて、矢を描く。
バレルの長さ、太さ、重心の位置。
フライトの形。
何万回と握り、何万回と投げて、身体に染み込んだ、理想の一本。
無心で描いていた。
気づけば、リタが、俺の手元を、じっと覗き込んでいた。

「翔真さんって……頭、いいんですね」
「……いや」
俺は、少しだけ、苦笑した。
「頭がいいんじゃない。これだけを、ずっと、考えてきただけだ。ほかに、何もなかったからな」
自嘲のつもりだった。
だが、口に出してみると、思ったより、みじめには聞こえなかった。
一つのことを、ずっと。
それは、そんなに、悪いことじゃないのかもしれない。
俺は、描き上げた設計図を、リタに見せた。
「――なあ、リタ。こういうものを、どこかで、買えないか。店とか、市場とか。売ってそうな場所に、心当たりは」
リタは、その絵を、まじまじと見つめた。
そして、困ったように、首を傾げる。
「うーん……こんなに、ちゃんとしたものは……見たこと、ないです」
「ない?」
「はい。この街の酒場にあるのって、だいたい、うちみたいな、手作りの、粗末なやつばっかりで。……こんな、精巧なの、売ってるお店なんて、たぶん、どこにも」
そうか、と、俺は腕を組んだ。
考えてみれば、当然かもしれない。
ダーツが、酔っ払いの余興、下品な賭け事、と見なされているような世界だ。
誰も、本気で、道具を作ろうなんて、思わない。
売り物になるほど、需要もない。
売っていないなら――作るしかない。
だが、この設計図どおりのものを作れる職人となると、話は、また別だ。
金属を、精密に削り出す技術。
微妙な重心を、寸分違わず調整する腕。
そんな職人が、この街に、いるだろうか。
俺が、腕を組んで、考え込んでいると。
「あ……」
リタが、何かを思い出したように、顔を上げた。
「作れそうな人、なら。……一人、知ってます」
「本当か」
「はい。ガレンさんが、鍛冶を頼んでた、お家の子で。……ドワーフの」
「ドワーフの、鍛冶職人か」
いいじゃないか、と思った。
ドワーフといえば、鍛冶の名手。
俺の頭の中には、自然と、そのイメージが浮かんでいた。
分厚い胸板。
逞しい腕。
顔の半分を覆う、立派な髭。
炉の前で、無愛想に槌を振るう、頑固一徹の親父――。
その職人のもとへ、案内してもらうことにした。
道すがら、リタは張り切っていた。
案内役として、役に立とうとしているのが、伝わってくる。
「こっちです、翔真さん! 近道、しますね!」
そう言って、意気揚々と細い路地に飛び込んだ次の瞬間。
「わっ!?」
積んであった木箱に、思いきり足を引っかけて、リタは、すってんと、転んだ。
「だ、大丈夫か」
「だ、大丈夫です! ぜんぜん、平気ですっ」
真っ赤になって、ぴょこんと立ち上がる。
白い尻尾が、恥ずかしそうに、ぶわっと膨らんでいた。
……なるほど。
責任感は強いが、少し、そそっかしいらしい。
思わず、笑ってしまった。
この世界に来て、初めて、自然に笑えた気がした。
* * *

たどり着いたのは、街の外れの、煤で黒ずんだ工房だった。
中からは、カンカン、と小気味よい槌の音が響いている。
「ごめんくださーい! ネロちゃん、いる?」
リタが声をかけると、槌の音が止んだ。
「はいはーい! って、リタじゃん! 久しぶりー!」
奥から、元気な声とともに、ぱたぱたと駆け出してきた人影。
俺は、それを見て――思わず、固まった。
……子供、いや、女の子だ。
小柄で、俺の胸くらいの背丈。
煤で汚れた頬。
作業用のエプロン。
腕まくりした腕は、細いのに、無駄なく引き締まっている。
くりくりとした大きな瞳が、好奇心で、きらきらと輝いていた。
髭も、胸板も、頑固親父も、どこにもいない。
「……あの。ドワーフの、職人って」
俺が、つい、口を滑らせると。
「あ? なにおじさん、あたしがドワーフに見えないって言いたいわけ?」
彼女――ネロは、腰に手を当てて、ぷくっと頬を膨らませた。
「ドワーフだって、いろいろいるの! ちっちゃくて可愛い子だっているんですー! 失礼しちゃうなー、もう」
「……悪かった」
「まあ、いいけどさ。で、そのおじさん、誰? リタの新しい男?」
「ち、ちがっ……!」
リタの尻尾が、ぶわっと膨らむ。
耳まで真っ赤だ。
「翔真さん、っていって……その、店を、手伝ってくれる人で……」
「ふーん?」
ネロは、じろじろと、俺を見上げた。
値踏みするような、職人の目だ。
「で、そのおじさんが、あたしに何の用? まさか、ひやかしじゃないよね」
俺は、答える代わりに、懐から、あるものを取り出した。
――マイダーツ。
この世界に、ただ一本だけ持ち込まれた、俺の相棒。
「これと、同じようなものを、作ってほしい」
その瞬間だった。
ネロの目の色が、変わった。
「……ちょっと、見せて」
さっきまでの、からかうような口ぶりが、消えていた。

彼女は、俺の手からダーツを、そっと受け取ると、食い入るように見つめ始めた。
指先で、バレルの溝をなぞる。
光にかざす。
重さを確かめるように、手のひらで転がす。
「……なにこれ」
声が、震えていた。
「なにこれ、なにこれ……! こんなの、見たことない……! この、金属の削り出し……刻みの、細かさ……! 手で、こんなの、できるわけ……どうやって……!」
職人の血が、沸騰しているのが、手に取るように分かった。
「作れそうか?」
「……作りたい。作らせて。ぜったい、作りたい!」
ネロは、目を輝かせて、俺を見上げた。
もう、おじさん呼ばわりのからかいは、どこにもなかった。
だが、俺は、あえて釘を刺した。
「言っておくが、ただ似せて作れば、いいってもんじゃない」
「……え?」
俺は、床に、あの設計図を広げた。
「ダーツには、決まりがある。矢の、長さ。重さ。的までの、距離。全部、意味があって、決まってるんだ」
ネロが、ごくり、と唾を飲む。
「重すぎれば、腕を痛める。軽すぎれば、風に流される。長すぎても、短すぎても、指から離れる瞬間が、狂う。……この、寸法の中に、収める。その制約の中で、いかに完璧なものを作るか。それが――」
俺は、言葉を切って、彼女の目を、まっすぐに見た。
「それが、職人の、腕の見せどころだ」
しん、と、工房が静まり返った。
ネロは、しばらく、俺の顔と、手の中のダーツと、床の設計図を、交互に見つめていた。
そして。
ぱあっと、顔を輝かせた。
「――おもしろい」
にっと、歯を見せて、笑う。
「おもしろいじゃん、それ! やってやる! あたし、ぜったい、作ってやるから!」
そして、ぐっと、拳を握った。
「三日。三日、ちょうだい。三日後に、また来て。……あたしの、最高傑作、見せてあげる」
その目は、まっすぐで。
かつて、俺が、鏡の中に見ていたのと、同じ目だった。
* * *
工房からの帰り道、俺の胸には、久しく忘れていた、温かいものが灯っていた。
同じものに、夢中になれるやつが、いる。
身分も、種族も、姿かたちも、関係ない。
ただ、同じ的に、心を燃やせる。
ガレンの言葉が、また、胸の中でこだました。
店に戻ると、俺たちは、掃除に取りかかった。
三日後、道具ができたとして、店がこのありさまじゃ、話にならない。
まずは、この埃と、淀んだ空気を、なんとかしなければ。
リタは、張り切って、水の入ったバケツを運んできた。
「まかせてください! 掃除は、得意なんですっ」
そう言った、直後だった。
「きゃっ!?」
濡れた床に、つるん、と足を滑らせ、バケツの水を、盛大にひっくり返した。

「……」
「……ご、ごめんなさいっ! すぐ、拭きますっ!」
わたわたと、雑巾を探して駆け回るリタを見て、俺は、また笑ってしまった。
「慌てなくていい。時間は、たっぷりあるんだ」
「う……はい」
しゅん、と、耳が垂れる。
けれど、その顔は、どこか、嬉しそうでもあった。
二人で、黙々と、手を動かした。
窓を磨き、床を拭き、椅子を並べ直す。
埃をかぶった酒瓶を、一本一本、拭いていく。
その途中、ふと、リタが、手を止めた。
一脚の、古い椅子。
カウンターの、一番端の席。
その背もたれを、リタは、愛おしそうに、そっと撫でた。
「ここ……ガレンさんの、指定席だったんです」
俺は、雑巾を動かす手を止めて、耳を傾けた。
「毎晩、ここに座って。お客さんたちと、笑って。……あの的に向かって、みんなで、わいわい、投げてて」
その瞳が、遠い日を、映していた。
「昔は……にぎやかだったんですよ。この店」
「そうなのか」
「はい。すっごく。毎晩、満席で。いろんな人が、来てました。人間も、獣人も、ドワーフも。身分の高い人も、その日暮らしの人も。……みんな、あの的の前じゃ、対等で」
リタの声が、少しずつ、熱を帯びていく。
この店を、心から、愛しているのが、伝わってきた。
「ガレンさんが、亡くなって。……それでも、常連さんたちは、しばらく、通ってくれてたんです。あたし一人になった店を、心配して。『リタ、頑張れよ』って」
その顔に、微笑みが、浮かぶ。
だが、それも、束の間だった。
「……でも」
リタの手が、止まった。
「ある日から……ぱたって、来なくなっちゃったんです」
「……来なく、なった?」
「はい。あんなに、毎日来てくれてた人たちが。……ある時期を境に、急に、みんな。まるで、示し合わせたみたいに」
俺の中で、何かが、引っかかった。
――おかしい。
長年通った、常連が。
しかも、一人二人じゃない。
それが、そろって、突然に。
まるで、潮が引くように、いなくなる。
そんなことが、あるだろうか。
客商売を、三年やった。
潰した店だが、それでも、客足というものの流れは、身体で知っている。
客が離れるときは、理由がある。
味が落ちた。
値が上がった。
もっといい店ができた。
あるいは、じわじわと、少しずつ。
こんな、ある日を境に、ばっさりと。
まるで、蛇口を、閉められたみたいに。
……何か、ある。
だが、俺は、それを、口には出さなかった。
まだ、何の確証もない。
ただの、俺の勘だ。
それに、今、それを言ったところで、リタを、不安にさせるだけだ。
「あたしが……ちゃんと、できなかったから、だと思います」
リタは、うつむいて、ぽつりと言った。
「あたしじゃ、ガレンさんの、代わりに、なれなくて。だから、みんな、がっかりして……」
自分を、責めていた。
健気な、その姿に、俺は、胸が、痛くなった。
「……そんなこと、ないさ」
俺は、静かに言った。
「お前は、よく、やってるよ。一人で、この店を、守ろうとしてる。それだけで、大したもんだ」
「翔真、さん……」
「大丈夫だ」
俺は、店の中を、ぐるりと見回した。
埃は減り、窓から差す光が、少しずつ、明るさを取り戻し始めていた。
「もう一度、あの頃みたいに、この店を、にぎやかにしよう。二人で……いや」
工房で見た、あの、きらきらした目を、思い出す。
「三人で、な」
リタの顔が、ぱっと、明るくなった。
「……はいっ!」
その返事は、今日、一番の、元気な声だった。
* * *
そして、三日後。
約束どおり、俺たちは、ネロの工房を訪ねた。
扉を開けると、ネロが、待ち構えていた。
目の下には、うっすらと、隈ができている。
少し、やつれて見える。
だが、その顔は――誇らしげに、輝いていた。
「……来た来た! 待ってたんだから!」
「調子は、どうだ」
「ふっふーん。聞いて驚け! めーっちゃくちゃ、苦労したんだから!」
ネロは、腰に手を当てて、胸を張った。

「あんたの言った通り、寸法の中に収めるの、ほんっとに大変だった! 重心の位置、何回やり直したと思ってんの! 三日、ほとんど寝てないんだからね!」
まくしたてながらも、その口元は、隠しきれない、達成感で、緩んでいた。
「でも……できた」
彼女は、作業台に置かれた、布を、そっと、取り払った。
そこに、あったのは。
数本の、ダーツ。
そして、真新しい、円い的。
俺は、息を、呑んだ。
まだ、粗削りだ。
俺のマイダーツと比べれば、仕上げの精度は、及ばない。
だが。
――これは、間違いなく、ダーツだ。
金属のバレル。
刻まれた、滑り止めの溝。
取り付けられた、フライト。
手に取ると、重心が、ほとんど、理想の位置に、来ていた。
「……すごいな」
思わず、そう、こぼれた。
「三日で、ここまで。……本当に、すごい」
「で、でしょ!?」
ネロの頬が、赤く染まる。
照れているのを、隠すように、そっぽを向いた。
「ま、まあ? あたしにかかれば、これくらい、当然っていうか……」
俺は、一本を、手に取った。
的は、工房の壁に、立てかけられている。
距離を、目測する。
――少し、投げてみるか。
構える。
息を、吐く。
このダーツで投げるのは、初めてだ。
癖も、重心の微妙なずれも、まだ分からない。
それでも。
投げた。
新しいダーツは、す、と、まっすぐに飛び。
的の、中心近くに、小気味よく、突き刺さった。
「……!」
ネロが、息を呑む。
リタが、ぱあっと、顔を輝かせる。
ガレンの、あのいびつな矢とは、比べ物にならない。
狙った場所へ、素直に飛んでいく。
俺の顔に、笑みが、浮かんだ。
この世界に来て、初めての――手応えの、笑みだった。
「……いい。すごく、いい。ネロ、お前、天才だな」
「て、てて、天才っ!?」
ネロが、真っ赤になって、ぶんぶん、首を振る。
「そ、そんな、天才だなんて……! で、でも、まあ、そこまで言うなら、そうかも……いや、そう!」
現金なやつだ。
だが、その笑顔は、まぶしかった。
「ねえねえ! それ、あたしにも、やらせてよ! どう投げるの!?」
ネロが、ぴょんぴょん、跳ねながら、せがんでくる。
自分の作った道具が、どう使われるのか。
作り手として、知りたくて、たまらないのだろう。
俺は、笑って、頷いた。
「ああ。教えてやる。……お前も、リタも、な」
こうして。
歪んだ的と、いびつな矢しかなかった、俺の再挑戦は。
一人の、天才職人を仲間に加えて。
ようやく、本当の、はじめの一歩を、踏み出した。
第3話「歪んだ的、いびつな矢」おわり
* * *

◆ 盤面(ボード)
ダーツの、的のこと。
矢が刺さり、かつ、抜きやすい、絶妙な硬さが求められる。
硬すぎれば弾かれ、柔らかすぎれば、すぐに傷んでしまう。
◆ 重心の再現
同じ長さ、同じ重さでも、重心が1mm違うだけで、飛び方はまるで変わる。
狙った位置に、寸分違わず重心を持ってくる。
それが、ダーツ作りの、一番の難所だ。
◆ ソフトとハード
一つ、話しておかなきゃならないことがある。
俺が、前の世界でプロをやっていたのは、「ソフトダーツ」ってやつだ。
先端が、樹脂でできた矢を、電子ボードに投げる。
刺さると、機械が勝手に点数を数えてくれる。手軽で、今の時代の主流だった。
だが――これから、この世界で作ろうとしているのは、「ハードダーツ」。
金属の、鋭い先端を持つ矢を、麻を固めた盤面に、突き立てる。
古くて、硬派で、競技の原点みたいなやつだ。
この二つ、似ているようで、実は、ルールが少し違う。
投げる距離も、的の高さも、微妙に、違うんだ。
俺の身体に染みついているのは、ソフトの間合い。
だが、これから作るのは、ハードの世界。
この、わずかな「ずれ」を、身体に、覚え直させなきゃならない。
……まあ、それも、また一興、ってやつだ。
◆ 矢(ダーツ)の重さ
一本あたりの重さには、上限が定められている。
ハードダーツの基準では、一本、50gまで。
もっとも、実際に多くの投げ手が使うのは、20g前後だ。
たったこれだけの重さの中に、投げやすさも、狙いやすさも、飛びの安定も、すべてが詰まっている。
1g変われば、感覚はまるで別物になる。
◆ 矢(ダーツ)の長さ
長さにも、上限がある。
全長で、30cmまで。
だが、これも上限の話で、実際はもっと短い。
長すぎれば、指から離れる瞬間が乱れ、短すぎれば、握りが安定しない。
この一本の中で、いかに自分の理想を突き詰めるか。それが投げ手の腕であり、作り手の腕でもある。
◆ 的の高さ
盤面は、ただ壁に掛ければいい、というものじゃない。
床から、盤面の中心――ブルまでの高さが、きっちり決まっている。
ハードダーツでは、床からブルの中心まで、1m73cm。
この高さが変われば、狙う角度も、身体の使い方も、すべて狂ってしまう。
◆ 投げる距離(スローライン)
そして、投げ手が立つ位置。
盤面の、真下から測った、水平の距離。
ハードダーツでは――2m37cm。
ちなみに、俺が慣れ親しんだソフトダーツだと、2m44cm。
たった、7cm。
されど、7cmだ。
この差が、投げ手の感覚を、大きく狂わせる。
この一本のラインの手前から、あの小さな的まで。
この距離こそが、ダーツという競技の、すべての始まりだ。

