さぬきうどんを食べ続けた青森県民の末路
いつものうどんと違う──!
柔らかくてもちもち。
夫とわたしはなにかを伝え合うように目を合わせた。
うどん屋さんはいつも"ついでに”寄る場所だった。でも今は違う。お昼に「うどん行くー?」と話すことが増えた。
香川に移住して5年近い月日が流れた。
「うどん県」というネーミングは伊達じゃない。一体、いくつのうどん屋さんが徒歩圏内にあるのだろう。ぱっと思いつくだけでも5店舗……。
香川歴1年目のころ。
先に移住したという人から「おいしいうどんはわからん。でもね、おいしくないのはわかるようになった!」と言われた。
うどんってそんなに違いがあるのだろうか。
はじめのうちはわからなかった。けれども、自分でも子どもたちを連れて歩きだったり自転車だったり、電車やバスに乗っていろいろ食べてみるようになり、わかった。
(これは……おいしくない……)
心のメモに、次は来ないかも、と記録する。
香川のうどんは収集癖がある人にきっと刺さる。
店ごとに特色があり、いろいろ試してみたくなるのだ。
香川歴2年目のころ。夫が妙な顔をして帰宅した。
「今日、昼めしから戻ったらな、会社の人が『うどん行ってきたんですね』って言うんよ」
「え、なんでわかるの?」
「それがな、においやって。うどん屋のにおいがあるらしい」
そうして香川歴?年目。
夫の休みに高松市内にオープンしたばかりの「はなまるうどん」へ車で向かった。
じつは、香川には、ほかにはない「はなまるうどん」がある。
県内の直営5店舗を、1店舗ごとに異なるコンセプトを持ったうどん店として刷新する試みがはじまったのだ。
向かったのはその第1号店だった。
店内に入った夫は、困惑したようにあたりを見回した。
「前とぜんぜん変わっとる」
この店舗には、仕事の昼休みに来たことがあるのだという。夫は仕事で県内をいろいろ回っている。わたしが行ったことのないうどん屋さんにもいくつか行っているようだ。
中は、わたしが香川で行ったことのあるうどん店とは、かなり様相が違っていた。
まず、セルフじゃない。
並んでその場で注文するのではなく、ファミレスのようにタッチパネルのメニューがある。水も取りに行かなくていい。運ばれてくる。
家族みんながしん、とした。慣れない。
わたしは事前にリサーチするのが趣味なので、プレスリリースをしっかり確認していた。この店舗のオリジナルメニューは3つ。
・骨付鳥っぽい味のかしわ天うどん
・白黒つけないかけ・白黒つけないざる
・茶のしずく天
「白黒つけない~」は、うどんと綾川そばを盛り合わせたものだ。「茶のしずく天」は、香川の銘菓で、蜜入りミルク饅頭の「茶のしずく」を天ぷらに仕立てたもの。
わたしは迷わず「骨付鳥っぽい味のかしわ天うどん」を選んだ。
かけ・ざる・ぶっかけから選べるのだけれど、ふたりとも「ぶっかけ」。うどんと別に天ぷらの盛り合わせと天つゆが添えられて届いた。

「ボリュームある……」
食べ切れるかな。1玉にしてよかった。ふと見ると、夫も同じものを頼んでいる。
「……」
夫は答えずに微細な表情の変化で肯定した。
やっぱり名物から。
骨付鳥っぽい味のかしわ天を口にする。サクッと衣が弾けた。スパイシーで濃いめの味付けの肉の味がじゅわりと広がる。おいしい。
骨付鳥は香川の名物。この店舗のすぐそばに骨付鳥専門店があるのだけれど、いつでも行列なのだとママ友が言っていた。
クリスマスになるとスーパーに骨付鳥が大量に並ぶので、わたしも一応は食べたことがあるのだけれど、スパイシーでやわらかく、とってもおいしい。
その味つけを再現したような天ぷらだった。
うどんは、もっちりしたやわらかめの麺。
「あ」
娘が顔を上げる。
視線の向こうには透明な硝子張りの部屋。中には男性が立っていて、麺を手打ちしている。
はなまるうどんでは、工場製麺を採用しており、手打ち麺の提供はここがはじめてらしい。
値段は天ぷらの盛り合わせ込みで1,100円。ボリュームたっぷりで、後半は食べきるのがつらいくらいだったことを考えると、最近のランチにしてはお値打ちかもしれない。
全部おいしく感じるが、そろそろわたしにも「おいしいうどん」を見出す目が覚醒するだろうか。
このごろ、たくさんの文章を読む機会がある。いろいろな人の文章を読むことで微細な違いに気づくようになった。
人によって、漢字とひらがなの使い分けや、改行、言葉選びといったものがよく見るとぜんぜん違うのだ。
そう考えると「同じものをたくさん摂取すること」こそが「味わい方」を知る近道なのでは。
そんな何の話かわからないことを思いながらスーパーで人とすれ違ったわたしは、ふと足を止めた。
この人うどん食べてきてる!
うどん屋さんに行くと、髪の毛や服ににおいがつく。ずらりと並んだ天ぷらの油っこいにおい。それにふわりと香る出汁が混ざったような、うどん屋さんのにおいがある。
わたしはついにうどん県民の嗅覚を手に入れた。
(2,000字)
▼セルフうどんと人見知りは相性がとても悪い
▼自己紹介
▼参考
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