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ひとりでうどん屋に行けないはなし

息子が午前保育だったその日。
自転車の後部座席に抱き上げながら「カフェかうどん屋、どっちがいい?」と尋ねた。

これが8歳の娘だったら、被せ気味に「カフェ!」と即答するのだろうけれど、息子が選んだのはうどん屋だった。


今住んでいるのは”うどん県”。
徒歩圏内だけでもいくつものうどん屋がある。ママ友といっしょに行ったことがあるセルフうどん屋に行くことにした。


店の前に置かれた立て看板を見る。

「あれなんだっけ。えっと、つめたいやつ」
「ざるうどん?」
「それ!」

わたしは釜玉うどんと悩みながらも、結局いつでもどこでも肉うどんを選んでしまう。


13時前だからか、普段よりはやや空いていた。

まずはお盆を手に取る。カウンターの向こうから、若いおにいさんが「らっしゃい!」と目を細めて言った。

「ざるうどんの……1玉、つめ……いや、ひとつと……」
「海苔かけますか?」
「海苔いる!」

息子が答えた。薬味ありでいいのは珍しい。

「へい、おまちー!」

とん、とざるにのったやや細めのうどんと、空のカップが置かれた。

「ぶっかけだしです」

(???)

「えっと、あと……肉ぶっかけの、1玉で、つめたいので……」

「へい、おまちー! あと肉ですね」

肉は別な場所でもらうのかと思ったら、その場で待つスタイルだった。
引き止められて戻る。顔がぼっと熱くなる。

天ぷら用の割り箸を手に取る。角皿を持って、ずらりと並んだ揚げものに目をやった。

「天ぷらどうする? コロッケ? お芋?」

「芋にしよっかな。どこにあるの? 選ぶ!」

わたしは後ろのほうにお客さんがいないかを確認する。もたもたしてはいけない気がするのだけれど、幸い次の人は、まだおにいさんのところで注文をしていた。

「お芋、揚げたてだよー!」

カウンターの奥から、おじいさんに声をかけられる。

「大きいやつ選んで、シェアしよう」

おじいさんはそう言うと、トングで二つのお芋の天ぷらを指して、どっちがいい?と聞いた。息子がひとつ、指差す。

「ちょっと膨らんどるけど。茄子もそろそろ揚がるけどいらん?」

「あ、だ、だいじょうぶです」

わたしはそういうと、ひとつだけ残っていた半熟卵の天ぷらを取って、大きなお芋のとなりに並べた。


しばらくいくと「ぶっかけ」と言う張り紙がある。ドリンクバーみたいな銀色の機械に添えられていた。

「あ、これか」

わたしはおずおずと、空っぽのカップを、機械の下に差し入れて、レバーを下げた。じゅわっと湯気と一緒に、黒い液体が出てくる。

「あれ、熱い……?」

そのままレーンを進んでいくと、あった。

「冷ぶっかけ用」
「冷かけ用」

(こ、こっちだったのか)

仕方がないので、熱々のおつゆは自分用にして、息子のものを新しく用意する。このあたりの区別がよくわからずに、ドキドキした。


お会計を終える。小さい子がいると、お菓子やら飴やらをくれるお店が多い。息子はほくほくしながら受け取った。

お盆ひとつには収まりきらず、息子に天ぷらの入った角皿を渡した。

「ごめん、ちょっと好きなところに座ってて」

そう言うと、小さなふたつの手で皿を大事そうに抱え、傾いて滑り落としたりしないように留意しながら、あたりを見回していた。
その顔には困惑が浮かんでいる。

近くのテーブルに置くように言って、お会計を終えたわたしもそこに向かった。


まだ食べられない。

水やらフォークやらを持ってくる。
自分のうどんには、バイキングのように設置された薬味のコーナーから、天かすと檸檬を選んだ。

そうしてようやく食べはじめる。


偏食5歳児。物心つく前に香川に来たからか、うどんは大好物。

「ぶっかけうどん」派だったけれど、最近は「ざるうどん」に夢中だ。自分でつゆにつけて、加減して食べられるのがたのしいみたい。

器用にフォークにうどんを絡めてつゆにつけ、ちゅるちゅると啜った。


まだ湯気を立てる熱いつゆを、うどんにかける。お肉は、豚バラ肉を重ねて茹でているみたい。ボリュームがある。
食べ進めるうちにお腹が苦しくなってきた。

県外から香川に来たママが「どのうどんがおいしいとかはわからないけど、不味いうどんはわかるようになるよ」と話していた。

わたしも、このうどんが特別においしいのかはわからない。けれども、決して不味くはないと思った。

普段行く店のうどんは、コシがすごい。しっかり噛んでやっと飲み込めるので、今日食べたものは柔らかめだと思った。

そしてつゆはあっさりしている。いつもの店のうどんは、濃くて、そうして甘めの味つけなのだ。


うどん店もいくつか行ったけれど、そういう違いがわかってきたあたり、わたしも”うどん県”の人になりつつあるのだな、と思った。


食べ終えて食器を戻すと、息子が入口と逆のほうに立っている。

「なにしてるの」

尋ねると、息子は肩をすくめた。

「ママ、出口、こっちだよ」

ふたたび顔が熱くなる。


カフェには一人で行けるけど、セルフうどんに一人で行くのはハードルが高いのだった。




(2,000字)


セルフうどん、何回行ってもドキドキします。
後のひとのじゃまにならないかなとか、どの出汁だっけとか。店によっても方式は違うからなおさら。

カフェやファミレスなど、何でも一人で行けるのだけれど、セルフうどんだけはドキドキしてしまう。

なんかうどんだけでもいくつも書けそうだなって思いました。


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三條 凛花 最後までお読みいただき、ありがとうございます♡

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