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見えないものより怖いのは、見えた気になってしまうことだった。#この作品に帯をつけるなら【創作大賞感想】

帯なので、いいことしか書きません。

創作大賞2026に応募されている作品に、私が読者として「帯」をつけるなら。そんな気持ちで、感想を書かせていただく企画をしています。

そしてなんと、きょうたのさんとコラボさせていただけることに!!
私が考えた帯のことばを、きょうたのさんに描いていただています。

今回読ませていただいたのは、岡埜 由木古(偏光)さんの小説。

『身の内常夜灯』

恋愛小説部門に応募されている作品です。

作者さんからは、

「素材が敬遠されがちで、売り方が分からない」

というコメントをいただいていました。

たしかに、扱われている素材だけを並べると、少し身構える方もいるかもしれません。

怪談。
障害。
新興宗教。
差別。
身体。
恋愛。
欲望。
プロポーズ。

どれかひとつだけでも、書き方によってはとても重くなる題材です。

けれど、この作品は、それらを単なる刺激として並べているわけではありません。

むしろ、読んでいて強く感じたのは、
「人は、どれだけ簡単に見誤ってしまうのか」
という怖さでした。

物語は、深夜のファミレスから始まります。

箱崎皓夜と上田都詩。

大学時代のパラグライダー仲間だったふたりが、久しぶりに会い、微妙な距離感のまま、怪談話を始める。

この入り口が、とてもいいです。

怪談というのは、本来「見えないもの」の怖さを語るものです。

霊がいるかもしれない。
呪いがあるかもしれない。
説明できない何かが、こちらを見ているかもしれない。

でも、この作品で本当に怖いのは、そういう見えない怪異だけではありません。

むしろ、もっと身近で、もっと日常的で、もっと自分の中にもありそうな怖さです。

それは、
見えた気になってしまうこと。

この人はこういう人だ。
この団体はこういうものだ。
この障害はこういう不幸だ。
この関係はこう見えるはずだ。
この人たちはこう扱えばいい。

そうやって、相手のことを分かった気になってしまう。

本当は何も見えていないのに、見えていると思い込んでしまう。

その怖さが、この作品には流れています。

特に印象的だったのは、差別が「特別に悪い人だけがするもの」として描かれていないところです。

分かりやすい悪意だけが、人を傷つけるわけではない。

なんとなくの思い込み。
善意のつもりの決めつけ。
世間でよく聞く言葉。
自分では気づいていない偏見。

そういうものが積み重なったとき、人は誰かを簡単に追い詰めてしまう。

しかも、そのことに自分では気づかないままでいられる。

ここが、とても怖いと思いました。

この作品に出てくる怪談は、ただの怖い話ではありません。

怪談の形を借りて、人間の見方の歪みを照らしているように感じました。

「見えないものが怖い」のではなく、
「見えていないのに、見えたことにしてしまう自分たちが怖い」。

その視点が、この物語をただの怪談でも、ただの恋愛小説でもないものにしています。

一方で、この作品はやはり恋愛小説でもあります。

箱崎皓夜と上田都詩の関係には、きれいごとだけではない生々しさがあります。

戸惑いもある。
欲望もある。
言葉にしづらい距離感もある。
相手を大切に思うからこそ、どう触れていいのか分からない瞬間もある。

けれど、その不器用さごと、ふたりは少しずつ関係を結んでいく。

ここが、とてもよかったです。

この作品にある恋は、誰にでも分かりやすく祝福される形ばかりではないのかもしれません。

ハッピーエンドと言い切るには、読み手によって受け取り方が分かれる部分もあると思います。

でも、作者さんがコメントで書いてくださったように、
主人公ふたりは幸せです。

私は、そのことがとても大切だと思いました。

誰かが外側から決めた「正しい幸福」ではなく、
ふたりの身の内に灯っている幸福。

他人から見れば、分かりにくいかもしれない。
説明しきれないかもしれない。
簡単に美談にはできないかもしれない。

それでも、ふたりの間には確かに温度がある。

言葉があり、気配があり、触れ方があり、相手を確かめるための時間がある。

タイトルの『身の内常夜灯』という言葉も、とても印象的です。

常夜灯は、部屋全体を明るく照らすものではありません。

まぶしい光ではない。
すべてをはっきり見せる光でもない。

けれど、真っ暗な夜の中で、そこにあると分かるだけで少し安心できる光です。

この作品における恋も、そんな灯りなのかもしれません。

世界の偏見をすべて消すことはできない。
相手の痛みを完全に理解することもできない。
見えないものを、すべて見えるようにすることもできない。

それでも、ふたりの身の内には、消えない灯りがある。

その灯りを頼りに、相手へ近づこうとする。

そこに、この作品の恋愛小説としての強さを感じました。

帯コピーを考えるとき、刺激的な素材をそのまま前に出すこともできたと思います。

けれど、私はこの作品を「敬遠されがちな題材の小説」としてではなく、
人が人を見誤る怖さと、それでも人を愛そうとする物語
として届けたい。

怪談より怖いものがある。

それは、相手を知らないまま、分かった気になること。

障害も、宗教も、恋愛も、身体も、幸福も。
外側から見ただけで、簡単に語れるものではない。

だから、この帯にしました。

この帯をつけたいです。

『身の内常夜灯』は、読む人を選ぶ作品かもしれません。

けれど、それは弱さではなく、むしろこの作品の誠実さなのだと思います。

きれいな言葉だけでは照らせない場所に、ちゃんと踏み込んでいる。

怖さも、欲望も、偏見も、痛みも、幸福も、見えにくいものとして置き去りにしない。

そして最後には、誰かに決められた幸せではなく、ふたりの身の内に灯る光を見せてくれる。

そんな、強くて、濃くて、簡単には忘れられない恋愛小説でした。

岡埜さん、素敵な作品を読ませていただき、ありがとうございます。

帯のことばを素敵に描いてくださった、きょうたのさんにも感謝を。

喜木 拝


紹介作品

岡埜 由木古(偏光)さん
『身の内常夜灯』
恋愛小説部門

作品URL:

帯の文字

きょうたのさん


企画記事

喜木凛(ききりん)

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