できた日の小さな火を、心の奥で守ってくれる子がいる。#この作品に帯をつけるなら【創作大賞感想】
帯なので、いいことしか書きません。

創作大賞2026に応募されている作品に、私が読者として「帯」をつけるなら。そんな気持ちで、感想を書かせていただく企画をしています。
今回読ませていただいたのは、波 香月さんときょうたのさんの合作。
『ろうそく守りのトム』
文は、波 香月さん。
絵は、きょうたのさん。
共同制作の絵本記事です。
まず、タイトルからとてもやさしいです。
ろうそく守りのトム。
「ろうそく」でもなく、
「ろうそくを灯す人」でもなく、
「ろうそく守り」。
この「守り」という言葉が、作品全体の温度を表している気がしました。
何かを無理に燃やすのではない。
消えそうな火を叱るのでもない。
ただ、そこにある火を大切に見守る。
そのやさしさが、トムという存在に込められています。
この作品では、私たちが「自信」と呼んでいるものが、心の部屋にあるろうそくとして描かれています。
ひとりでボタンを留められたとき。
はじめてシャツの袖を通せたとき。
おもちゃを片づけられたとき。
そういう「できた」の記憶が、一本一本のろうそくになっていく。
この発想が、とても素敵でした。
自信という言葉は、少し大きく聞こえることがあります。
自信を持ちなさい。
もっと自信をつけなさい。
自信がないのはよくない。
そんなふうに言われると、かえって苦しくなることもあります。
でも、この作品の自信は、もっと小さい。
もっとやわらかい。
「ひとりでボタンを留められた」
そのくらいの小さなできたことから、自信の火は生まれる。
それを読んで、少しほっとしました。
大きな成功をしなくてもいい。
誰かにすごく褒められなくてもいい。
今日できたこと。
昨日できたこと。
前に一度だけできたこと。
そういう小さな火が、心の部屋にはちゃんと残っている。
そして、その火を守ってくれる子がいる。
それが、ろうそく守りのトムです。
トムは、ろうそくたちの嬉しい気持ちを聞きます。
すすで汚れたところをきれいにします。
欠けたり折れたりしたら、埋めたり、つなげたりします。
なんてやさしい仕事なのでしょう。
火が消えてしまったろうそくも、トムは捨てません。
大切に、丁寧に、お手入れをしてくれる。
またいつか火がついたときに、きれいな炎になるように。
この描写が、とても好きでした。
できていたことが、できなくなる日があります。
前は平気だったのに、今はできない。
本当はできるはずなのに、今日はめんどくさい。
頑張ろうと思っても、気持ちが動かない。
そういう日は、大人にもあります。
子どもにも、きっとあります。
そのときに、
「どうしてできないの」
「前はできたでしょう」
と言われると、ろうそくの火はもっと小さくなってしまうかもしれません。
でも、トムはそう言いません。
消えちゃったね。
だいじょうぶ。
そのうちまた火がつくよ。
そんなふうに、火が消えたことを責めずに、そっと受け止めてくれる。
ここに、この作品の大きな魅力があると思いました。
子育てをしていると、つい「できるようになったこと」に目が向きます。
ボタンを留められるようになった。
靴を履けるようになった。
片づけられるようになった。
あいさつできるようになった。
できるようになると、今度はそれを「いつもできること」として見てしまう。
でも、子どもだって毎日同じではありません。
できる日もある。
できない日もある。
甘えたい日もある。
自分でやりたい日もある。
全部いやになってしまう日もある。
この作品を読むと、その揺れを少しやさしく見られる気がしました。
自信は、ずっと同じ強さで燃え続けるものではないのかもしれません。
火が大きい日もある。
小さい日もある。
風で消えてしまう日もある。
もうその役目を終えて、静かにおやすみする火もある。
それでも、心の部屋にはろうそくがある。
そして、誰かがそのろうそくを守ってくれている。
そう思えるだけで、少し安心します。
また、トムはろうそくに火をつけない、というところも印象的でした。
トムは守るだけ。
火は、自信が生まれたときに自然に灯るもの。
ここも、とても大切だと思いました。
誰かの自信を、外から無理やり灯すことはできないのかもしれません。
親でも、先生でも、友達でも、完全に代わってあげることはできない。
でも、火が灯るまで、そのろうそくを守ることはできる。
すすを拭くことはできる。
風よけで囲うことはできる。
折れたところをつなぐことはできる。
また灯る日を信じて待つことはできる。
それは、子どもに関わる大人にとっても、とても大切な視点だと思いました。
そして、きょうたのさんの絵が、この物語のやさしさをさらに広げています。
赤い炎のような頭のトム。
あたたかいろうそくの部屋。
ひとつひとつの火の表情。
文章だけでも十分にやさしい世界ですが、絵があることで、心の中の部屋が本当に見える場所になります。
「自信」という見えないものを、ろうそくの火として見せてくれる。
「心の中にいる守り手」を、トムという子として見せてくれる。
波 香月さんの言葉と、きょうたのさんの絵が合わさることで、作品全体が一冊の絵本のように感じられました。
私は、この作品を読んで、娘のことも、自分のことも少し思いました。
子どもには、たくさんの小さな「できた」があります。
大人から見れば小さなことでも、本人にとっては大きな一歩。
でも、その火はとても繊細です。
怒られたり、失敗したり、友達とけんかしたり、うまくいかない日が続いたりすると、ふっと消えてしまうこともある。
そのときに、すぐに火をつけ直そうとしなくてもいいのかもしれません。
今は消えているんだね。
でも、ここにあるね。
また灯る日が来るかもしれないね。
そんなふうに見守ることができたらいいなと思いました。
そして、それは大人にも必要なことです。
自信をなくしたとき。
もう嫌だと思ったとき。
前はできたことが、今はできないと感じたとき。
自分の中のろうそくの部屋を、少しだけのぞいてみる。
そこには、過去の小さな「できた」が眠っているかもしれない。
その火を守ってくれている子が、いるかもしれない。
そう思えるだけで、心が少しあたたかくなります。
帯コピーを考えるとき、私は「小さな火」という言葉を入れたいと思いました。
この作品の自信は、大きな炎ではありません。
誰かに見せつけるような強さでもありません。
ひとりでできた日。
ほめられた日。
少し誇らしかった日。
うれしかった日。
そういう小さな日の火です。
そして、その火は、消えてしまっても終わりではない。
心の奥で、トムが守ってくれている。
だから、私がこの作品に帯をつけるなら。

この帯をつけたいです。
自信は、ずっと燃え続けなくてもいい。
消えてしまう日があってもいい。
役目を終えて、そっと眠る火があってもいい。
それでも、心の部屋には、たくさんのろうそくがある。
トムは今日も、その一本一本を大切に見守っている。
『ろうそく守りのトム』は、子どもにも、大人にも届く絵本だと思いました。
「できた」を喜ぶこと。
「できない日」を責めすぎないこと。
また火が灯る日を待つこと。
その全部を、あたたかいろうそくの光で包んでくれる作品です。
波 香月さん、きょうたのさん、素敵な合作を読ませていただき、ありがとうございます。
喜木 拝
紹介作品
波 香月さん・きょうたのさん
『ろうそく守りのトム』
文:波 香月さん
絵:きょうたのさん
創作大賞2026 オールカテゴリ部門 応募作品
作品URL:
きょうたのさんnote:
企画記事
喜木凛(ききりん)
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