成果を生む構造とは?研究に必要な6要素〜リケトレ!#5
こんにちは。理系院生に特化したキャリア教育に取り組んでいる三木尭紘と井本裕顕です。
このnoteでは、「研究を頑張りたいけれど将来のキャリアや就活が不安」という理系院生のためのキャリアトレーニング「リケトレ!」を、連載形式でお届けしています。
前回は、「研究で成果を出すために必要なことは何か?」について考えました。
専門知識、英語力、論文を読む力などがまず浮かぶかもしれませんが、実際に大学院生へ聞いてみると、それ以外にも、さまざまな答えが返ってきました。
教授や先輩に相談すること、発想力、伝える力、メンタルケア、研究室で良い人間関係を築くこと…etc。
たしかに、どれも研究で成果を出すために大切そうです。
では、これらの要素を、私たちはどのように整理して考えればよいのでしょうか。
というわけで、今回のテーマは「成果を生む構造とは?」です!

<成果につながる要素は多い。何から考えればいい?>
研究で成果を出すには、専門知識だけでなく、さまざまな力が必要。そのことを多くの理系院生が経験的にわかっている、ということを前回確かめることができました。
ところが、こうした力について、普段から意識して考える機会はほぼないでしょう。
大学の授業では、専門知識や実験技術について体系的に学ぶ一方で、「周囲を巻き込む力」や「自分の心の状態を整える力」について学ぶ機会はほとんどありません。
では、授業で扱われていないから重要ではないかというと、そうでもない。
むしろ、研究成果を大きく左右するのに、重要性も伸ばし方も考えたことのない力がたくさんありそうです。
とはいえ、そんなの挙げたらキリがなさそう…。何から手をつければいいのかわからないという気持ちになるかもしれません。
その結果、就活が始まって突然、主体性や課題発見力、コミュニケーション力といったことを求められたように感じてしまう。
しかし、本当に「突然」求められ始めたのか。
実はそれらの力は、日々の研究で成果を出す上でも、すでに使っている力だったのではないか。それが前回の話でした。
学校で習うこと以外も含め、成果を出すために必要なことを体系立てて捉える「地図」のようなものが欲しいところです。
<成果を出す人の構造を示す「成果創出モデル」>
成果を生む構造とは?
世の中には、物理や化学を研究し続ける人がいるように、「飛び抜けた成果を生み出す人の背景には何があるのか?」を調査し、考え続けている人たちがいます。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズでは、個人の能力構造や成果を生み出す過程、そこに影響する要素を「成果創出モデル」という形で整理しています。
「リケトレ!」では、このモデルをベースに、大学院生の研究活動やキャリアに当てはめやすい形にアレンジして紹介しています。

成果創出モデルとは、簡単に言えば、人が成果を出すまでに関係する、さまざまな要素を構造化したものです。
このモデルを通じて知ってほしいのは、用語の細かい定義や厳密な分類ではなく、以下の二つです。
成果は、目に見える行動だけで生まれているわけではない。
成果につながる要素には、比較的変わりやすいものと、短期間では変わりにくいものがある。
<成果を支える6つの層>
成果創出モデルでは、成果に関係する要素を、6つの層に分けて考えます。
上から順に見ていきましょう。
行動

行動とは、外から見える具体的な動きです。
研究でいえば、「論文を読む」「実験する」「教授に相談する」「学会で発表する」「専門分野の異なる人と話す」といったもの。
成果と直接つながっているため、上手くいかないとき、私たちはまず行動を変えようとします。
論文を読む量を増やす。実験時間を延ばす。先生に相談する回数を増やす。
もちろん、それで解決する問題もあります。
一方で、行動だけを変えても解決しないことも多いのではないでしょうか?
メンタリティ

メンタリティとは、行動を起こすときの心の状態です。
同じ知識や能力を持っている人でも、「また失敗するかもしれない」「先生に怒られるのが怖い」とビクビクしていては、出せる実力も出せません。
寝不足や強い焦りによって、普段なら気づけるミスを見落とすこともあります。
行動だけを見ると「相談しなかった」という同じ結果でも、相談すること自体を忘れていたのか、相談するのが怖かったのかによって、解決すべき要因は変わってきます。
知識・スキル・専門性

これは、大学院生にとって最も馴染みのある層と言えます。
研究分野の専門知識、実験技術、英語力、統計解析、プログラミングなど、特定の場面で必要となる知識や技能です。
学校教育で体系的に学びやすく、本人も「足りている・足りていない」を比較的認識しやすい領域です。不足していることがわかれば、本を読む、授業を受ける、練習するといった方法で伸ばすことができます。
ただし、豊富な専門知識を持っていれば、それだけで必ず成果が出るわけではありません。
そこには、次の「実践的能力」が大いに関係します。
実践的能力(Can)

実践的能力とは、専門分野や置かれた環境が変わっても、ある程度持ち運んで使える力です。
課題を発見する力
計画を立てる力
試行錯誤を続ける力
自分の考えを伝える力
周囲に働きかける力
などなど。
こうした力は、研究テーマが変わっても、企業で働くようになっても活用できます。そのため、「トランスファラブルスキル」「ポータブルスキル」と呼ばれることもあります。
たとえば、ある学生が卒業研究で培った計画力や課題発見力は、その研究テーマでしか使えないものではありません。
リケトレ!で今後特に扱っていくのが、この実践的能力です。
志向・価値観(Will)

志向・価値観とは、自分が何を大切にし、どちらへ向かいたいのかという方向性です。
「まだ誰も知らないことを明らかにしたい」
「自分で開発した製品で社会を豊かにしたい」
「理系の素養を活かして、コンサル職に就きたい」
など、同じ能力を持っていても、何をしたいのか、何に意味を感じるのかによって、選ぶ行動や環境は変わります。
志向・価値観は、昨日と今日で大きく変わるものではありません。
しかし、新しい人や環境との出会い、さまざまな経験を通じて、少しずつ変化していきます。
性格(Must)

性格とは、その人固有の感情や意志の傾向です。
「三つ子(3歳)の魂百まで」ということわざがありますが、おおよそ中学生頃までに形作られる性格特徴だと言われています。
慎重に考えて動く人もいれば、動きながら考える人もいます。目立ちたい人、競争で燃える人、気分屋な人。色々いますよね。
性格そのものに、良い・悪いはありません。が、置かれる環境との相性はあります。
だからこそ、自分の性格を無理に変えることだけでなく、その特徴が生かされる環境を考えることも大切です。
井本からの一言
成果創出モデルを普段の研究・教育で取り入れているという話は聞いたことがありません。ただ、このモデルを意識しながら日々の研究指導にあたることで、「いま学生に何を伝えればよいのか」「この指導はどの領域を向上・改善させるためのものか」を明確にすることができます。
学生さんにとっても、成果創出モデルを理解することで、自分のやるべきことが見えやすくなると思います。
<社会に出て苦労する3つのケース>
成果創出モデルは、研究活動だけでなく、就職後に感じる悩みを整理するときにも使えます。
ここでは、社会に出た後に起こりえる三つのケースを考えてみましょう。
①実践的能力(Can)の不足

これは、環境が変わっても使える実践的能力(Can)が不足していると言えるでしょう。
実践的能力(Can)には、人によって得手・不得手があります。
新しい情報を集める力や、周囲を巻き込む力など、自身に足りていない実践的能力を考えることが大事です。
②志向・価値観(Will)のズレ

これは、能力不足というより、志向・価値観(Will)のズレかもしれません。
業務のテーマを変えることで解消できるか。
異動は可能か。それとも転職すべきか。
そもそも、どんな仕事に意味を感じているのか。
自身の志向・価値観(Will)を改めて考える必要があります。
③性格(Must)の不一致

この場合は、本人の性格(Must)と環境の不一致が関係しているかもしれません。
対処方法はいろいろありますが、環境に自分を合わせるよりも、環境を変えることも一手です。性格(Must)は最も変えにくい要素だからです。
3つのケースは、どれも「会社で活躍できていない」という同じ問題に見えます。
しかし、実践的能力(Can)の不足なのか、志向・価値観(Will)のズレなのか、性格(Must)の不一致なのかによって、取るべき行動は変わります。
井本から一言
私は民間企業で2年余り働いた後で、アカデミアに転職しています。会社では早くから活躍の場を与えてもらい、周囲の人たちとは良い関係で過ごしていました。
それでも、基礎研究が大好きな私にとって、ビジネスの中で行う研究とはどうしても「志向・価値観(Will)のズレ」を起こしてしまいました。
アカデミアで10年以上働いてみて、Will/Can/Mustを理解したうえでのキャリア形成が重要だと改めて感じています。
<研究でもキャリアでも、問題を正しく切り分ける>
成果が出ないとき、問題を何に求めるか。
成果創出モデルを使って各要素を構造で捉えると、具体的かつ的確に考えられると思いませんか。
研究もキャリアも一緒。問題を正しく切り分けられれば、「何から手をつければよいかわからない」と途方に暮れることはなくなります。
では、理系院生がキャリア(就活)において成果を得ようと思った時、成果創出モデルのどこから考え、何から準備すればよいのでしょうか。
何となく不安だからと、いきなり面接対策やES対策を始めるのがよいのでしょうか。
次回は、就職活動やキャリア形成で迷わないための「考える順番」を扱います。
<今回のリケトレワーク>
今回の内容を、日々の研究に活かすためのワークをご用意しました。ぜひ活用してみてください。

最後までお読みいただきありがとうございます。
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次回の記事もお楽しみに!
