『鬱病という深い闇を生きる』第4話
第4話
治療という戦い
──薬では治らないと、私は知っている
私は、鬱になっても抗うつ薬は飲まなかった。
処方はされた。でも、どうしても飲めなかった。
体育大学を出ていて、身体の仕組みや薬理についての知識があったからこそ──
それが、逆に私の“ブレーキ”になった。
効き方、副作用、依存性、離脱症状……
知っているからこそ、怖かった。
それはもう、無知よりずっと強い恐怖だった。
唯一、私が使ったのは睡眠導入剤。
でもそれさえ、決してそのまま飲むことはなかった。
半分に砕いて、時にはさらにその半分だけ。
それを、水で溶かして、ごく少量だけを口に含む。
──まるで“薬を飲むふり”をしているような、そんな飲み方だった。
なぜなら、
「効くこと」が、怖かった。
「眠れるようになる」=「それがないと眠れなくなる」
──そんな恐怖が、ずっと心の中にあった。
心の病に、薬は必要だと思う。
それで救われる人がたくさんいることも、もちろん知っている。
でも、私は──
薬で治るほど、私の鬱は“単純”じゃなかった。
壊れていたのは、脳の伝達物質じゃなくて、
「自分を信じる力」と「安心できる場所」だった。
眠れない夜に、導入剤のシートを指でなぞる。
「今日は飲むか、飲まないか」
それを考えるだけで、30分が過ぎる。
砕く。飲む。
それでも、罪悪感のようなものが胸に残る。
──「薬を使ってしまった自分」を、私はどこかで責めていた。
けれど、ある夜──
たまたま眠れた日があった。薬を使わずに。
その日は風が涼しくて、窓の外から虫の声が聞こえて、
布団がやけに心地よかった。
「眠れるって、こんなに自然なことだったんだ」
……そう思ったら、少しだけ泣けた。
私は薬で治ったわけじゃない。
眠れるようになったのも、心が軽くなったのも、
“自分で自分を少しずつ許せるようになったから”だ。
眠れない夜も、自分を責めない。
薬を飲んでも飲まなくても、どちらでも責めない。
「今日は、今日なりに生きた」
そう思えるだけで、明日は少しだけ、違って見える。
薬じゃない。
正しさじゃない。
回復って、“ありのままの自分と共に生きる許可”なんだと思う。
🔻第5話に続く
光を探す旅ではなく、闇と共に生きる術
🕯心の治り方に、正解はない
薬に頼らなかった人も。
薬に頼ったことを責めている人も。
どちらでも、あなたは間違っていない。
このシリーズでは、“正しさ”ではなく“あなたの感じたリアル”に寄り添います。
➤ こんなあなたへ
• 薬に頼ることに迷いがある
• 知識が逆に自分を苦しめている
• 自分の“治り方”が誰とも違う気がして、孤独を感じている
• 「治す」より「生きる」に目を向けたい
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