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SideStory⑪:本編五章後-久々の巡回。亮哉が感じた壁の違和感と、悠平の恐怖 学園小説relationship   

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Act.1:影を落とす食卓と、遠い日の残像
十二月下旬。午後八時。水瀬家の食卓。

温かな食卓の空気と、煮魚から立ちのぼる醤油の甘い香りに包まれながら、稔之はどこか影を落とした横顔のまま、静かに箸を動かしていた。

キッチンで明日の下ごしらえを済ませた綾香の母、晶子がスポーツブランドの名前の入った大きな包みを食卓のテーブルの上に置いた。

「稔之。はい、これ。この間の庭掃除のお礼も兼ねて……クリスマスプレゼントよ。早速開けてみて」

ペンダントライトに照らさせた笑顔がいつもより眩しく見えた。

無言で包みを開く稔之だったが、中身を見た途端、切れ長の眼が大きく見開かれた。

彼の気に入っているスポーツブランドのパーカーとバックパックが現われたからだ。

「うわ……どちらも凄く欲しかったものです。ありがとうございます!」

ここしばらく沈んでいた気持ちが一瞬吹き飛び、自分でも頬が紅潮しているのが分かった。

「どちらも結構値段だったんじゃないんですか?」口角を片方あげて、パーカーの袖口を触る稔之に晶子は満足気に話し出した。

「良いのよ。気にしなくて。綾香も今回、期末テストでだいぶ成績あげたから最新式のiPad買ってあげたのよ」

パーカーに触れていた稔之の手が止まった。晶子は笑顔のままお茶を淹れるために、キッチンへと向かった。

「『彩賀君のおかげだ』って言ってたわ。確かにあの子、相当頭が良そうだったものね。……それに、佇まいもどこか凛としていて品があったし」

一度切り出すと止まらないのか、ポットの湯を急須に注ぎながら話を続ける晶子。

「綾香、彩賀君に出会ってから何だか変わったわね。最近、襟元やネクタイが歪んだりしていないのよ」

稔之は、皺一つ許さない白いカッターシャツと、微塵の緩みもないネクタイをきっちりと締めた亮哉の姿を思い出した。

一瞬、二人の制服姿が稔之の脳裏で重なった。

稔之が思わず、空になった茶碗をいつもより強く置いたことに、晶子は気づかなかった。

十二月下旬の夜、水瀬家の温かな食卓に一人で座る、跳ねた金髪の関谷稔之(稔之)を描いた学園小説relationship挿絵イラスト。稔之は、ビジュアル三原則に基づいた、白の丸首Tシャツの上に立華高校のジャージを羽織っている。彼の切れ長の緑色の瞳は俯きがちで、焦燥と嫉妬が入り混じった暗く強張った表情を浮かべており、ペンダントライトの光がその横顔に影を落としている。彼は右手で空になった茶碗をテーブルに強く押し付けており、茶碗はすでにテーブルに接触している。左手は箸を持ったままテーブルに置かれている。食卓の上には、晶子(綾香の母)が置いたクリスマスプレゼントの包み(スポーツブランドのロゴが入ったパーカーとバックパックが見える)と、食事の食器類が並んでいる。稔之の視線の先、背景には笑顔でお茶を淹れている晶子の背中が少し見え、彼女が亮哉について話している。温かな食卓の空気と対照的な、稔之の心の中の崩壊と孤独が、暗めのトーンで表現されている。
本編五章.Act.5より少し後。
水瀬綾香の母親、晶子から
綾香の変化を聞き
動揺する関谷稔之

「でもね、綾香には彩賀君は収まらないと思うの。あの子、平凡な日常じゃ抱えきれないようなところがあるわ」

母親としての直感を滲ませながら、お盆にお茶を乗せて振り返ると稔之はすでに荷物を持って玄関へと向かっていた。

「あら?もう帰るの?」

「……明日も早いんで」

外に出ると、風はなかったが、星一つない空であった。冷気に当たる頬が強張った。

アパートへ向かう途中、稔之は入学式の時に新入生代表として壇上に立つ亮哉の姿を思い出していた。

入学式の会場は、緊張と期待が入り混じった初々しいざわめきに満ちていた。

だが、亮哉が壇上に歩み出た瞬間、その場の温度がひとつ変わったのを稔之は覚えている。

壇上に立った彼が視線を上げた時、その静かな眼差しの奥にある“圧倒的な知性”が、会場全体を一瞬で黙らせたのだ。

言葉を発する前から、空気が締まるような緊張感と、近寄りがたいほどの威圧感がそこには漂っていた。

まるで、そこだけ別の重力が働いているかのように。

だが、稔之はあの時の自分は、亮哉を関わることもない遠い存在として見ていた。

それが、まさか。

そこでちょうどアパートの扉の前に辿り着き、稔之の思考は中断した。

扉を開け、中に入る。外よりもさらに冷え込んでいた冷気が稔之の全身を刺した。

同時に視界の前に広がった明かりのない暗闇に、稔之は吸い込まれるように落ちていく感覚に襲われていた。

Act.2:八畳間の不穏な解析

翌日の放課後。立華大学付属高校の西門近くにある、写真部唯一の一年生・悠平の住むコーポの一室。

久々に後輩の様子を見に来た部長・西谷は、部屋の中央のソファに悠然と座り、文庫本を読んでいる亮哉の姿を見つけて驚きの様子を隠せず、思わず声を発した。

「おいおい……彩賀。いくらなんでも、部屋に上がり込むなんて悠平君に失礼だろう?」

(僕だって本当は、むやみに後輩のプライベートに踏み込みたくないんだから……)

「彩賀さん、プレミアムドリップ珈琲淹れましたよ!」

西谷の困惑を余所に、悠平が恭しく、かつ満面の笑顔でデミタスカップに入れた珈琲をトレイで運びながら、キッチンから出てきた。

十二月下旬、阿佐見悠平のアパートの一室で、写真部一年生の悠平が、ソファに座る彩賀亮哉(亮哉)に恭しく、満面の笑顔でプレミアムドリップ珈琲のデミタスカップをトレイに乗せて差し出す学園小説relationship挿絵イラスト。亮哉は、ビジュアル三原則に基づき眼鏡をかけていない端正な顔立ちで、鳶色の瞳を悠平に向け、カップを受け取ろうと手を伸ばしている。悠平はくっきりとした非常に太い二重まぶたで、喜々とした表情。トレイには珈琲の気配が満ちている。横では、碧色の瞳の西谷武久(部長)が、悠平の現金な態度に呆れ、困惑しつつも内心で突っ込みを入れている表情でその様子を見ている。部屋は悠平の生活感が漂う雑多な様子で、珈琲の温かな香りと三人の日常の緩やかな空気が表現されている。三人称視点。
彩賀亮哉のお陰で小テスト満点。
お礼を兼ねて亮哉に珈琲
を淹れる阿佐巳悠平

同時に濃い香りが一気に立ちのぼり、部屋の空気が珈琲の気配で満たされた。

「早速頂くよ」亮哉はカップを受け取ると口に運ぶ。

「……この味と風味はグァテマラだな。今日みたいな寒い日には合う。悠平君、淹れるのが上手いな」

亮哉の言葉に、悠平は照れたように頭を掻いた。

(悠平君、僕たちが訪問する時と全然態度が違うよっ!)

西谷が内心で突っ込みを入れるのも構わず、悠平は得意げな表情で続けた。

「自分、彩賀さんの指導のおかげで、この間の小テスト満点取れたんですよ!」

悠平の現金な態度に西谷が呆れていると、悠平は感謝と尊敬の眼差しを亮哉に向けて申し出た。

「彩賀さん、何か食べたいものありますか? 僕、買ってきますよ!」

「なら、駅ビルの2階に売っているバターサンドをお願いする」

清涼な笑みを崩さないまま、亮哉はさらりと高価な菓子を頼んだ。

(さりげなく高いものを頼んでる……)

亮哉の厚かましさに西谷が閉口する間もなく、悠平は元気よく外へと駆け出していった。

「早速買ってきます! その間、テーブルのiPadに写真が入っているんで、見ておいてください!」

「俺は武ちゃんの負担を減らすことを考えての事だが?」

西谷の批判を込めた視線に気づいていたのか、先に亮哉が不服そうに口を開いた。

「大体、武ちゃんは人が良すぎる。だから理事長が悠平君のアパートの様子見や、校内設備の撮影なんかに平気で利用してくるんだ。見ろよ、あの体育館エントランスの贅沢な造りを。式典時の来賓への見栄だな。いかにもあの男が考えそうなことだ」

「それ、絶対に学内で言わないでよ……」

亮哉は西谷の言葉には返さず、悠平のiPadを手に取ると、画面をスクロールしながら複数の写真を確認し始めた。

ふと、画面上の亮哉の指がある写真の上で止まった。体育館の南側横にある、ハンドボールコートの施設写真だった。

(あーあ……悠平君、工事中の体育館の壁まで写しちゃっているよ……)

西谷の内心の苦味が静かに滲んだ。

亮哉は西谷の内心が聞こえたかのように、体育館の壁の部分を拡大した。

外壁の側面に設置されている足場のシートは、冬のこの地域特有の強風に煽られぬよう単管へと捲られていた。そのおかげで、体育館の壁の様子が写真からもはっきりと窺い知ることができた。
「どうかしたのか?彩賀」

写真を凝視する亮哉の目線が鋭くなったことに気づいた西谷が、思わず尋ねた。

亮哉はしばらく黙ったまま、画面をピンチアウトして細部を見つめていた。

違和感が深まっていくばかりなのか、その表情は一層険しくなっていく。

「壁に打設してあるアンカーの高さが……」

疑惑を込めた亮哉の低い声は、元気よく開いた扉の音に遮られた。

「彩賀さん、買ってきました!」

悠平が息を切らしながら、バターサンドの入った箱を抱えて部屋に飛び込んできた。

「ありがとう、悠平君」

亮哉はいつもの端正な笑顔に戻り、iPadを置いた。

「あ、このバターサンド、水瀬さんもお気に入りの銘柄だね」

西谷も空気を察して話題を変えたが、突然、綾香の名を聞いた悠平の瞳が、何かを思い出したように恐怖で見開かれ、呼吸が浅く速くなった。

「お願いです! 水瀬さんの名前をこの部屋で言わんといてください!」

鋭い殺気を込めて睨みつける稔之の容貌を思い出し、悠平はその場にうずくまり過呼吸気味になる。

「大丈夫か? 悠平君。俺たちはもう帰るから、今日はゆっくり休んでくれ」

西谷に背中をさすられて何とか正気を保つ悠平を気遣いながら、亮哉たちは帰り支度を始めた。

その亮哉も、数ヶ月後に稔之によって悠平以上の衝撃を与えられ、卒倒し病院に搬送されることになるとは、この時は予想だにしていなかった。

Act.3:図書館の残照と届かぬ真実

翌日の放課後。立華大学付属高校の図書館。
学校司書に体育館の既存図面の閲覧を申し出た亮哉は、探索までに数日かかるという返答を得て、図書館を後にした。

渡り廊下に出た時、ちょうど写真部部室へと向かう綾香に偶然出会った。

「彩賀君、深刻な顔してどうしたの?」

あどけない大きな瞳が驚きとほのかな親しみを映していた。

「あ、いや……そろそろ志望校も固まりかけたから、受験の準備で来ていたところだ」

訪れた本来の理由を悟られぬよう、亮哉は言葉を濁した。

「そうなんだ。じゃあ、時々ここに来ることがあるんだね」

亮哉との接点を見つけた綾香は、微かな期待を込めて嬉しさを表情に滲ませた。

「もちろんだ」
内心の動揺を覆い隠しながら、亮哉も微笑み返す。

丁度、夕暮れ時で橙色に変光した陽の光が、その秀麗な横顔に柔らかく差し込み、微かな揺らぎを綾香への憧憬の色へと見せていた。

一瞬、二人の視線が光の中で交差した時、淡い気配が静かに触れ合った。

十二月下旬の夕暮れ時、立華大学付属高校の渡り廊下で、向き合って視線を交わす彩賀亮哉(亮哉)と水瀬綾香(綾香)を描いた学園小説relationship挿絵イラスト。

90年代アニメ調のセル画スタイルで、窓の外から差し込む強い橙色の夕陽が、二人を逆光気味に照らし出し、空間全体に温かくも切ない情緒を与えている。

水瀬綾香(左): 艶のあるダークブラウン(栗色)のストレート長髪が肩にかかり、夕陽を透かして輝いている。大きな瞳は透明感のある深い紫色で、右隣の亮哉を真っ直ぐに見つめている。頬には柔らかな朱色の火照り(赤面)が繊細に描写され、嬉しそうにはにかむ穏やかな微笑みを浮かべている。服装は冬服の紺色ブレザーに、鮮やかな赤色のネクタイを着用。

彩賀亮哉(右): ビジュアル三原則に基づき眼鏡はかけておらず、理知的で涼やかな鳶色(ブラウン)の瞳を、慈しむような柔らかい眼差しで綾香に向けている。襟足を整えた端正な茶髪の横顔が、夕陽を受けて秀麗に現像されている。服装は綾香と同じ冬服制服のブレザー姿。

二人の距離は近く、視線が交差した瞬間に生まれた「淡い気配」が、静まり返った渡り廊下に定着(保存)されている。
水瀬綾香彩賀亮哉
一瞬、二人の視線は
交差した。これからの予感。
本編六章Act.1 へ)

「じゃあ、私、これから部活に行くから」

照れた表情を亮哉に見られぬよう、綾香は彼に背を向けて小走りに去っていった。

亮哉はその後ろ姿を切なげに目を細めて見送っていた。胸の奥で、綾香への想いが静かに広がり始めていた。

しかし、亮哉が図書館を訪れた本当の理由を、綾香が知ることは最後までなかった。

(SideStory ⑪ 終わり)
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