見出し画像

Side Story⑦:本編第四章前-稔之、情熱の自覚と、忍法「空気と同化する術」 学園小説relationship 

←Side Story⑥
初めての方へ(SideStory用)    Side Story目次
relationship (本編)目次へ  キャラ紹介

Act.1:虚飾の波紋。尽きぬ心配

九月上旬。終礼のチャイムが鳴り響いた直後の、重く湿った空気。雨上がりのアスファルトから立ち上る熱気が、校舎の輪郭を陽炎のようにぼんやりと滲ませていた。

荷物を取りに体育科の教室に入った稔之は、クラス内でも折り合いの悪い一団が、先週発売されたばかりの地元密着型情報誌『街の天使たち』を囲んでいるのを視界の隅に捉えた。彼らは、高嶺の花を仰ぎ見るような、熱を帯びた憧憬の眼差しを誌面に向けていた。

その瞬間、心臓の奥がざわつくのを感じた。彼らが熱心に見つめているのが、あの「偽りの美少女」として現像された綾香であることを、本能が察知していたからだ。
(こんなもん軽い気持ちで載ったら、どんな面倒に巻き込まれるか分かんねぇだろ……。)

学園小説relationship挿絵イラスト。学校の教室の入り口(引き戸の前)に立ち、鋭く険しい視線を向けている男子高校生・関谷稔之のイラスト。躍動感のあるツンツンと跳ねた金髪(ブロンド)と、野性的で力強く、挑発的な緑色の瞳を持つ。普段の不敵な笑みは潜め、口を固く結び眉をひそめた不機嫌で刺すような表情だが、彼特有の圧倒的な「色気」と熱量を放っている。バスケットボールで鍛え上げられた生のエネルギーの塊のような逞しい体格をしており、服装は彼の奔放さを象徴するシンプルな白の半袖Tシャツに青色のジャージパンツ姿。背景にはスチールロッカーや掲示板が並ぶ廊下や教室の風景が描かれている。
折り合いの悪いクラスの一団が
水瀬綾香の写真を憧憬の眼差しで
見るのを面白くない関谷稔之

自分の席へ向かうため、そのグループの前を通り過ぎようとした時、わざとらしく突き出された誰かの荷物が、稔之のつま先に当たった。

「……っ」

足をもつれさせ、前のめりにグループの中へと倒れ込みそうになる。一瞬、教室内を冷え切った静寂が支配した。稔之の内に眠る、剥き出しの殺気が湿った大気を震わせる。

「おい、稔。先生が通るぞ」

中田の低く、冷静な声に弾かれたように我に返った。稔之は忌々しげに舌打ちすると、踵を返して教室を飛び出した。

(……綾香。安易に雑誌の取材受けたりするなよ! 全く!)

胸の奥で爆発的に膨れ上がったその怒りを、稔之はまだ、単なる苛立ちだと思い込もうとしていた。焦燥を打ち消すように、彼は写真部部室へと全力で走り出した。

学園小説『relationship』挿絵。関谷稔之(toshiyuki.pngの顔立ち・髪型を100%トレース)が、9月上旬の暑さの中、精悍でありながら綾香が心配で我を忘れて写真部部室に向かって全力で走る上半身のイラスト。白Tシャツに体育着ジャージ。
雑誌の影響が校内にも
広まり水瀬綾香
不意に心配する関谷稔之

Act.2:忍法「空気と同化する術」

「綾香! 居るか……って、おい!」

乱暴に扉を跳ね上げた稔之は、予想を裏切る光景に眼光を鋭くした。

そこにいたのは、ブラウスの首元のボタンを外し、リボンをだらしなく緩めたまま、頬をプリンで膨らませている綾香だった。
綾香イラスト(写真部・プリン間食Ver.)

「な……何だ、その恰好は!」

その無防備さに、稔之の常識が警鐘を鳴らした。

「お前……女である前に、一人の人間としての羞恥心ってものがないのかよ!」

「え? 誰も居ないよ? どうしたの、突然?」

綾香は大きな瞳を見開き、不思議そうに稔之を見つめた。

しかし、この部室には、稔之の殺気を察知した瞬間に「忍法・空気と同化する術」を極めた二人の気配が、確かに存在していた。堀田と悠平は、雑誌の販売期間中の稔之が「猛獣」と化すことを事前に予測し、もはや存在そのものを背景の機材ラックへと同化させていたのだ。

「まずは、その口回りを拭け!」

差し出されたティッシュを受け取り、綾香は「あ、プリン付いてた? ごめんごめん」と照れ笑いを浮かべながら口元を擦った。

「大体、部活をもっと真剣にやれよ。襟元を直せ……こんなのと身内だと思われて、こっちが恥ずかしいぜ」

稔之は吐き捨てるように言ったが、その眼は、綾香の緩んだ襟元から覗く、陶器のように白い首筋のラインに釘付けになっていた。

(……っ)

湿った熱気が、稔之の喉の奥を焼く。吸い寄せられるように、精悍な腕から伸びた手が綾香の細い首筋へと伸ばしかけた、その時だった。

「関谷。勝手に部室に入られては、困るな」

入口に立っていた西谷の咳払いが、部室の静寂を切り裂いた。

学園小説relationship挿絵イラスト。「写真部」というプレートが掲げられた引き戸の入り口に立ち、右手を口元に当てて「コホン」と静かに咳払いをしている男子高校生・西谷武久のイラスト。柔らかい質感を思わせる短く整えられた栗色(チェスナットブラウン)の髪と、年齢よりも若く見える親しみやすい「童顔」の持ち主。普段の温厚で柔らかな微笑みは鳴りを潜め、碧色(エメラルドグリーン)の大きな瞳には、対象の本質を射抜くような鋭い知性と冷徹な観察力が宿っている。服装は清潔感のある白の半袖ワイシャツに、落ち着いた赤色のネクタイを端正に着こなしている。背景には木枠のガラス引き戸と、夏の終わりを感じさせる青空が描かれている。
咳払いで関谷稔之の暴走を
牽制する西谷武久
西田の懸念は本編第四章Act.1へと。

Act.3:観測者の憂鬱

「クッ……!」

西谷の冷徹な声に、稔之は弾かれたように手を引っ込めた。自らの暴走じみた衝動に、顔が熱くなるのを感じる。

西谷は穏やかな笑みを浮かべていたが、その瞳は冷静なままだった。

「ここは写真部の部室だ。すなわち、僕の管轄。関谷、ここでの水瀬さんの行動に対して意見があるのなら、僕を通すのが筋ではないかい?」

「……俺がどうかしていたよ。綾香、悪かったな」

稔之は西谷の正論に抗う術もなく、気を取り直して部室を後にした。

「君が直したという公園の写真は、文化祭で展示する予定だ。都合がつけば見に来てあげて」

すれ違いざま、耳元で囁かれた西谷の言葉にも、稔之は応えることができなかった。

西谷は急に真顔になり、去りゆく稔之の背中を、深淵を覗き込むような瞳で見つめた。

(……これまでの殺気とは違う。関谷はついに、自分でも気づかなかった思いを自覚し始めたのか)

西谷の心に、不穏な影がよぎる。理性を凌駕し、一人の少女を呑み込もうとする程の情熱は、これからの学園生活を根底から揺るがしかねない危うさを予感した。

「西谷君、ごめんね。私のせいで……」

学園小説relationship挿絵イラスト。写真部の部室に立ち、両手を体の前で軽く組んで申し訳なさそうにしている女子高校生・水瀬綾香のイラスト。髪型は艶のあるストレートのサラサラのセミロングヘアで、服装は夏の白の半袖ブラウスに赤いリボンを着用しており、豊かな胸(巨乳)の膨らみが確認できる。透明感のある深い紫色の大きな瞳には、知性と本能の間で揺れる繊細な意志が宿っている。少し困ったように眉を下げているが、表情は穏やかで清廉な微笑を浮かべており、内面の葛藤(アンビバレンツ)が頬の柔らかな朱色の火照りとして現れている。背景には、複数の一眼レフカメラや現像液のボトルが並ぶスチール棚、風景写真が飾られたコルクボードなど、写真部らしい空間が描かれている。
自分の無防備さが招いた
出来事に謝罪をする水瀬綾香

「別に気にしなくていいよ。ここでは、水瀬さんが楽しくいられることが一番だから」

一年の入部当初と比べ、ずいぶんと打ち解けて明るくなった彼女の笑顔を思い浮かべながら、西谷は努めて明るい声で言葉を重ねた。

『西谷さんの言う通りですよ。僕たちも、水瀬先輩がここで伸び伸びできるのが一番です』

何もなかったはずの空間から、堀田と悠平の姿がヌッと浮き上がってきた。

「うわっ! 居たんだ、二人とも!」

「忍法、マスターしましたから」

(……君たちの生存本能も、なかなかのものだね)

西谷は、静かに溜息をついた。

エピローグ:多忙な境界線


九月も終盤に差し掛かった頃。特別進学科の大量の課題、後期予算折衝に向けた膨大なデータ分析、および文化祭の準備。西谷の「観測」すべき領域は、限界を超えて多忙を極めていた。

「大丈夫か、武ちゃん。明らかに疲労が顔に出ているぞ。何か俺に出来る事はないか?」

放課後の教室。予習ノートを閉じた亮哉が、心配そうに西谷の顔を覗き込んだ。

学園小説relationship挿絵イラスト。夕暮れの光が差し込む教室で、机に向かって座り、心配そうな表情でこちらを覗き込んでいる男子高校生・彩賀亮哉のイラスト。襟足を整えた端正な茶髪と、物事の本質を射抜くような落ち着いた鳶色(ブラウン)の涼やかな瞳を持つ。普段の傲岸不遜な態度は鳴りを潜め、学年一の秀才らしい理知的で冷静な顔立ちの中に、親友を気遣うように眉をひそめた真摯な色が浮かんでいる。服装は清潔感のある白の半袖シャツに赤色のネクタイを端正に締めている。両手は机の上に開かれたノートに添えられ、背景には黒板や整然と並んだ空席の机、夕日が差し込む窓が描かれている。
心配そうに尋ねる
彩賀亮哉

「そうだね……。本当に困ったら、頼むよ……」

少し虚ろな目で答える西谷。

彼が見つめる静かな日常の先には、崩落の予兆を孕んだ稔之の執着と、まだ何も知らない綾香の笑顔が、危うい均衡で現像されていた。

(Side Story⑦ 終わり)
次の話へ↓

初めての方へ(SideStory用)    Side Story目次
relationship (本編)目次へ  キャラ紹介


いいなと思ったら応援しよう!