第二章「立華大学付属高校 写真部」Act.2「部活は頑張っていますか?」 学園小説relationship
← 前回の話:Act.1「部長、西谷の見解」
初めての方へ 目次へ 各話ダイジェスト
キャラ紹介 Side Story目次
Act.2「部活は頑張っていますか?」
体育館の正面玄関。 ガラス張りのエントランスは、学校施設とは思えないほど瀟洒な趣を持っており、日差しの照り返しが眩しい。その自動ドアを、二つの人影が潜り抜けた。
気分を悪くし、力なく下を向く綾香と、その細い肩を支える堀田だ。 堀田もまた、全身汗だくになりながら歯を食いしばっている。綾香をここまで連れてくるのが精一杯だったのだろう。玄関の隅にある黒い合成皮革のベンチに綾香を降ろすと、彼はすぐに眼鏡を外して汗を拭った。
「気分はどう……? 保健室が閉まっていて、とりあえずここしかないけど」 綾香は帽子を脱ぎ、ベンチに仰向けになった。薄目で堀田を見上げ、消え入りそうな声で答える。 「……ありがとう。だけど、今はちょっとしんどいよ」 「待ってて。何か冷たいものを買ってくるから」 「……プリンシェイク、買ってきて」 こんな状況でも、綾香は妙なこだわりを口にする。 「今そんな甘ったるいの飲んだら、余計に気分が悪くなるよ。他ので我慢して」 堀田は忙しなく小銭入れを取り出すと、踵を返して外の自動販売機へと走っていった。 「……プリンシェイクが飲みたかったのに」 自分の体調を棚に上げ、綾香は微かに唇を尖らせた。
やがて堀田がスポーツドリンクを二本手に戻ってきた。一本を綾香の枕元に置き、自分の方は一気に飲み干す。 「僕はまた西谷君のところに戻るから。ここは涼しいし、少し休んで。気分が良くなったら部室に顔を出してくれって、西谷君が言ってたよ」 「……わかった」 堀田は一瞬、彼女を一人にすることに躊躇いを見せたが、体育館の奥から漏れ聞こえる激しい足音と声に意識を引かれたようだった。彼はそのまま中庭へと戻っていった。
冷たいシートの感触が、綾香の意識を少しずつ明瞭にしていく。 横たわったまま顔を向けると、開け放たれた内扉の向こう、体育館内でバスケットボール部が「3on3」を行っているのが見えた。
綾香は自然と、その中にいる稔之の姿を追い続けていた。 稔之はマークに付いているガードの内側へ潜り込むと見せかけ、一瞬でその背後を抜けてゴール下へと走り込む。同時に、パスを受けたチームメイトが逆方向を向いたまま、鋭いワンバウンドパスを稔之へ通した。 虚を突かれた相手を尻目に、稔之はスピードを落とさず跳躍し、ボールをバックボードへ当てた。
跳ね返ったボールが、吸い込まれるようにネットを揺らす。
![学園小説 relationship 佐藤真弓 決定ビジュアル アニメ調 100%再現 関谷稔之 漆黒の瞳 明るい色の髪 精悍な体躯 バスケットボール部 体育館 シュートシーン 同一性の死守 [cite: 5, 2026-02-02]](/https://assets.st-note.com/img/1770108126-twXyQLaRDS0IOoT9ErHq5eYN.jpg?width=1200)
明るい色の髪と精悍な体躯
(……すごい。やっぱり上手いな) バスケの知識がない綾香の目から見ても、そのコンビネーションと判断力は見事だった。何より、稔之が放つシュートは、彼女が見始めてから一度もリングに嫌われていない。
それは単なるセンスではないことを、綾香は思い出す。
半年前、この地方では珍しく雪が深く積もった朝のことだ。 列車状況が気になって、いつもより早く起きた綾香は、ダイニングで異様な熱気を感じた。 「今日くらい、のんびりしたらいいじゃない。こんなに積もっているんだから」 心配そうに声をかける母・晶子に対し、朝食を終えた稔之は、窓の外の白銀の世界を冷徹に見やりながら答えた。 「これくらい、どうってことねーよ。行ってくる」 稔之は毎日、誰よりも早く登校し、一人でシュート練習を続けていた。テスト期間中でさえ、彼はそのルーチンを崩さなかった。
「試合で勝つためには、シュートした数の半分は成功させなきゃいけないんだ」 ソファでニュースを聞き流していた綾香の耳に、稔之の重い言葉が届いた。 「そのためには、練習で最低でも五千本、ゴールを『通過』させないと駄目なんだよ」
五千本の、通過。 放った数ではない。ネットを潜り抜けた数だ。その膨大な時間を想像し、綾香は絶句した。 稔之は一年にしてスタメン入りを果たしたが、それは天賦の才以上に、こうした執念に近い「一生懸命さ」の結果だったのだ。その結晶を、今、綾香は目の当たりにしている。
それに比べて、自分はどうだろう。 西谷に誘われて写真部に入ったものの、満足のいく作品は未だに一つも撮れていない。 シャッターボタンを半押ししてピントを合わせる。そんな初歩的な動作を無意識にこなせるようになるまで、二ヶ月近くかかった。 自分のイメージと、現像されてくる現実はいつも食い違う。その歯痒さに、何日もカメラを触れなくなることさえあった。
部内では明るく振る舞っているが、内心では常に自分の才能のなさに苛立っている。 (本当に、私は写真が好きなのかな……) 自信のなさは、特に実力者である西谷の前では、自分を受身にさせた。 今日もそうだ。結局、西谷に頼り切りで、自分はただ掃除をしていただけ。 (……西谷君は何も言わないけれど。本当は、私にがっかりしてるんじゃないかな)
体調の悪さが、思考をどこまでも悲観的にさせる。 いつもは前だけを向いて突っ走っている分、ふと立ち止まると、自分の未熟さが泥のようにまとわりついてきた。 (……色々考えていたら、また気分が……)
指の間から見える光景が、徐々に緑がかった色に変質していく。 霞んでいく視界の端で、稔之が鮮やかなミドルシュートを決めるのが見えた。
![学園小説 relationship 佐藤真弓 水瀬綾香の視点 視界の変質 決定ビジュアル アニメ調 関谷稔之(漆黒の瞳・明るい色の髪) 体育館 意識の沈濁 同一性の死守 [cite: 5, 2026-01-22, 2026-02-02]](/https://assets.st-note.com/img/1770108275-RFLhYdaWKBOwuI8kGqJ92ZzC.jpg?width=1200)
緑色に霞む中で捉えた関谷稔之の残像
それを最後の一瞥として、綾香の意識は深く沈み込んでいった。
次の話へ↓
初めての方へ 目次へ 各話ダイジェスト
キャラ紹介 Side Story目次
