第二章「立華大学付属高校 写真部」Act.1「部長、西谷の見解」 学園小説relationship
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Act.1「部長、西谷の見解」
一学期終業式の翌日。 夏本番の熱気に包まれた校舎の片隅、文科系クラブハウス棟の東端に位置する写真部室。 室内にはスチール棚が並び、古い機材や部員たちの作品パネルが所狭しと置かれている。中央に並べられた二つの会議用長机では、水瀬綾香と部員の堀田正樹(ほりた まさき)が、二十冊近い漫画本に囲まれて読み耽っていた。
「西谷君、打ち合わせ長引いてるみたいだね」 綾香がふと顔を上げ、腕時計に目をやる。九時を少し過ぎたところだった。
「じきに来ますよ。準備は終わってるんだし、ゆっくり待ちましょう。どうせ今日の撮影も、ほとんど西谷君が撮ることになるんですから」 銀縁眼鏡を外し、こめかみの汗をハンカチで拭いながら、堀田が早口で答えた。 「それにしても蒸し暑いですね。今朝の予報じゃ、この夏最高の気温になるそうですよ」 「そう……」 年代物の扇風機が、生温かい風で綾香の髪を揺らす。
今日は校内施設の撮影日だ。来年度の学校案内パンフレットに使用する写真の一部を、学校側から依頼されていた。部長の西谷武久(にしたに たけひさ)が今、職員室で詳細を詰めている。
高校から写真を始めた綾香や堀田とは違い、西谷には七年近いキャリアがあった。中学時代に入賞経験もある実力者で、成績優秀、温厚な人柄から教師たちの信頼も厚い。事実上、彼がこの三名だけの写真部を切り盛りしていた。
やがて、ゆっくりとドアが開いた。
![学園小説 relationship 佐藤真弓 西谷武久 決定ビジュアル アニメ調 100%再現 童顔 穏やかな笑み 茶髪 写真部部長 第二章 同一性の死守 [cite: 4, 2026-02-02]](/https://assets.st-note.com/img/1770106631-DHRt0XqGY7u3IwlUysE2C5ch.jpg?width=1200)
温厚な笑みを湛えた入室の瞬間。
「おはよう。じゃあ、撮影に行こうか」 高校生にしては童顔で穏やかな笑みを浮かべた西谷が顔を覗かせる。 綾香と堀田は漫画を閉じ、手慣れた様子で機材を手に取って立ち上がった。
部室から少し離れた体育館の入り口付近。 基礎練習を終えた男子バスケットボール部の部員たちが、コンクリートの階段で休憩を摂っていた。
全国からスカウトで集まった精鋭が揃うこの学校において、運動部は常に高い実績を求められる。バスケ部も県内有数の強豪だが、先日の予選決勝では宿敵に敗れ、全国への切符を逃していた。ウィンターカップに向け、彼らの練習は日増しに厳しさを増している。
「今日はぶち暑いのう……」 中田伸道(なかた のぶみち)が広島弁のイントネーションで呟き、ペットボトルのお茶を半分ほど一気に飲み干した。ふと、中庭の一点に目を留める。 「稔、あれ、水瀬さんじゃないか?」 隣でタオルを首にかけ、汗を拭っていた関谷稔之に声をかける。
稔之は中田の視線の先――中庭で撮影準備を進める写真部の一団に目を向けた。 そこには、白いキャップを被り、大きな瞳を細めて日差しを避ける綾香の姿があった。 学科が違うため、運動部の部員の多くは彼女の「実体」を知らない。中庭を動く彼女の姿を、数名の部員が密かに目で追っている。
「…………」 稔之は何も答えなかった。 不意に、額を伝った汗が目に入った。視界が一瞬、熱に浮かされたように歪む。蝉の声が耳の奥で、異様なほど大きく響いた気がした。 稔之は顔を伏せ、タオルの端でゆっくりと目を拭う。
![学園小説 relationship 佐藤真弓 関谷稔之(明るい色の髪・漆黒の瞳・精悍な体躯) 中田伸道(広島弁の友人) アニメ調 決定ビジュアル バスケットボール部 休憩シーン 100%再現 同一性の死守 [cite: 4, 2026-02-02]](/https://assets.st-note.com/img/1770106684-ez8iv9gCIO5LsKHMUcl61Rbh.jpg?width=1200)
関谷稔之と、親友の中田伸道。
「……稔?」 急に黙り込んだ稔之を、中田が怪訝そうに覗き込んだ。
中庭では、西谷がファインダー越しに構図を練っていた。 無機質な校舎。そこにハナミズキの枝の繊細さと、芝生の濃い緑をどう調和させるか。西谷の頭の中には、光線とアングルの組み合わせが幾通りも浮かび上がる。
「西谷くーん。ここも掃いておいた方がいい?」 校舎に近い木陰で、綾香が箒を持って声をかけた。強い日差しのせいか、彼女の白い肌は一層透き通って見える。 「うん、お願い」
西谷は箒を振り回して足元のゴミを掃き出す綾香の姿を見ながら、ふと苦笑した。 (……本当に、変わった女の子だよな)
綾香を写真部に勧誘したのは西谷だった。 きっかけは、彼女の友人である美樹に見せてもらった一枚のスナップ写真だった。中学三年生の春休みの旅行で、霧深い古寺の桜を写したその一枚。 西谷もその場所へ行ったことはあったが、彼女の撮った写真はまるでフィルターがかかった別世界のようだった。どこか寂しげで、幻想的な光景。西谷はその「眼」に深く惹かれた。
実際に会った綾香の印象は、可憐で繊細な先入観とは大きく異なっていた。 仕草はどこか漫画的で、良く言えば面白いが、悪く言えば常識が抜けている。 だが、長年の人物撮影で培われた西谷の観察眼は、それが彼女の表面的なものだと気づいていた。
表情豊かな彼女の瞳は、西谷を誤魔化せなかった。 西谷は密かに感じていた。綾香のあの独特な性格や仕草は、何かから自分自身を守るための「防壁」なのではないかと。そして、その壁の向こう側には、最初に予感した通りの感受性の強い少女が隠れているのではないかと。 西谷は、その推測を誰にも話したことはない。
(……まあ、部活を続けてくれているだけでいいか) 一学期の間、綾香からあの写真のような心にくる作品はまだ生まれていない。だが、この一年あまりで、三人には確かな仲間意識が芽生えていた。
再び、ハナミズキの下に立つ綾香に目を向けた時、西谷は異変に気づいた。 綾香の顔色が、一段と白くなっている。 「水瀬さん、大丈夫か?」
西谷が駆け寄ろうとしたのと、綾香がその場にうずくまったのは、ほぼ同時だった。
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