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第十章「self-sacrificing spirit」(自己犠牲精神)Act.1「生きる意味」 学園小説relationship

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Act.1「生きる意味」

眠りにつく前、亮哉はいつも思い出す。 三年前、自分と同じ病気で死んだ祖父の事を。

亮哉の祖父は地元でかなり力を持った名士だった。倒れる寸前まで、仕事に没頭していた。聞こえは悪いが、権力を司る事にも貪欲だった祖父は、意味の無い延命に興味を持たなかった。 思うように動く事が出来ず、ベッドに縛り付けられたまま、残りの命を費やす事よりも。最後まで「地元の有力者」である事を選んだのだ。 地位を保つ為、強引な事をやってのけた祖父を嫌う者は多い。しかし、亮哉の目には、命を越えてもやり遂げたい事がある祖父が羨ましく思えた。潔ささえ感じられた。 亡くなった祖父に倣って、亮哉も、どうせ生きるなら。誰がどう思おうと、自分のしたいように、堂々と生きる事を目指した。

そして、今。 祖父と同じ病気にかかった自分。何時、人生が終わるかも知れない恐怖に辛うじて冷静でいられるのは、亮哉の目に強く焼き付いた祖父の生き様であった。

季節は夏から、秋へと移り変わっていた。 10月中旬。ある土曜日の午後。 市内中心部にある総合病院の廊下。 綾香は病室の長い廊下を静かに歩いていた。向かう先は、勿論亮哉の居る病室。今回が初めての訪問だった。 先程、受け付けで部屋番号を尋ねた時の看護師の表情が頭をよぎった。若い看護師が綾香に向けた眼差しは、明らかに嫉妬と羨望が入り混じっていた。 (彩賀君は、病院でもモテるんだな) 時々擦れ違う看護師と目を合わせないように、綾香は下を向いたまま、病室へと向かった。

亮哉が居る病室の前まで来た綾香は、ノックしようとする手を一瞬、躊躇した。 毎日、変わらない亮哉の姿を学校で見ているのに、病院では違う亮哉の姿を見そうで恐いのだ。背骨が硬くなったような緊張を覚えた。 だが、何時までも立ち尽くしているわけにはいかない。悪い想像を振り切って、綾香は扉を叩いた。

「どうぞ」

聞き慣れた、よく通る声が応えた。 ノブを回して、ドアを押し開くと、ベッドの脇の事務机に座っている亮哉がこちらを向いていた。 学校で会う時と少しも変わらない亮哉の元気な様子に、綾香は安堵を覚えた。

「突然、どうしたんだ?」

座ったまま、亮哉は意外そうな声を上げた。いきなり綾香が病院を訪ねてきたので、驚いたのであろう。 「あ……迷惑だったかな?」 自分自身が深入りを好まない綾香は、かなり遠慮がちの態度だ。 「いや、水瀬さんが来てくれた事は……嬉しいよ」 亮哉の口元が思わず緩む。それを見て綾香は照れから、微かに赤面した。 亮哉は綾香が鞄と一緒に包みを持っている事に気が付いた。 「あ……これね」 亮哉の視線に気付いた綾香は、包みを亮哉の前に差し出した。 「お母さんが編んだんだ。気に入らないかも知れないけど……」 後半の声は小さくなっていった。亮哉は綾香がわざわざ病院まで訪ねてきた理由を悟った。礼を言いながら、亮哉は包みを受け取ると早速、中を開いた。

「中々いいじゃないか」

亮哉はカーディガンを目の前にかざしながら喜んだ。 「嬉しいよ」

学園小説 relationship 佐藤真弓 決定ビジュアル アニメ調 100%再現 彩賀亮哉(センターパート・眼鏡なし・鳶色の瞳・白のパジャマ) 病院のベッド 紺色のカーディガン 同一性の死守 [cite: 24, 2026-02-02]
病院のベッドにて。綾香が持参した
手編みのカーディガンを手に、
嬉しそうに微笑む彩賀亮哉

綾香の方は慣れぬ状況から、相変わらずぎこちない。 ふと亮哉は綾香が先程から、ずっとこちらを観察している事に気が付いた。その理由に気付いた亮哉は、苦笑した。

「水瀬さんは心臓病という病気に先入観があるだろう?」

図星な綾香は、申し訳ない気持ちから黙っていた。 「心臓の病気は非常に個人差が本当はあるんだ。ある日、突然倒れてしまう人もいれば、適切な処置をしながら何年も病気と付き合っていく人もいる。ドラマとか観ていると、病気にかかって急激に変わり果てる人が居るけれど、あれはあくまで極端な例であってね。医学が進歩した今は、日常生活を維持しながら治療を続ける方法も増えているんだよ。ただ、さっきも言った通り個人差も非常に高いから、その人にあった生活のバランスを見つけるまでは、少し慎重にならざるを得ないんだけどね」

「……そうなんだ」

納得した綾香は、自分の無知を恥じた。本来は自分が励まさなければならない立場だと思うのに。いや、そう思う事は、実は健康な者の傲慢か。

そんな自分の気持ちを亮哉に見抜かれないように、綾香は通学鞄の中から、アルバムバインダーを引っ張り出した。 「また文化祭で色々出展するんだ。今年は最後だからね。時間の合間をとって色々撮って来たよ」 綾香は机の横に回りこむと、バインダーを開いて、亮哉に写真を見せた。夏休みの間に撮ったのだろう。写真は海や川。深緑に囲まれた水辺の風景が多かった。去年に比べると一段と作品に深みを増している。少しずつ、自分の世界に自信を持ってきた証拠か。

「受験生……といっても、私は持ち上がり希望だから」

同じ付属の大学にそのまま入るのが、綾香の第一志望だった。 「まぁ……水瀬さんがそう決めたんだったらいいんじゃないのか?」 亮哉は写真に目を通しながら応えた。

しかし、自分の言った言葉とは裏腹に、ページをめくる度、微かに寂しさが積もっていく。病気が治る治らないにしても、亮哉が目指す大学は東京。いつかは離れ離れになる。 勿論、遠距離でも本当に絆が強ければ、縁は切れない。だが、今の所、自分と綾香の間に決定的な繋がりを確証できるものはなかった。ページをめくる手が段々速くなっていく。

「彩賀君、どうしたの? 寒いの?」

亮哉の『異変』に気付いた綾香が、少し先回りをして、ベッドの上に置いてあったカーディガンを拾い上げ、亮哉の肩にかけた。 「あっと」 上手く肩にかからなかったカーディガンがずり落ちそうになる。慌ててカーディガンを掴んだ綾香の両手を、亮哉はいきなり力強く、握り締めた。

「!!」

綾香は反射的に手を抜こうとしたが、動かない。それに、何のつもりで亮哉がそうしたか理由が分かったからだ。綾香の手を握り締めたまま、亮哉は頭を綾香の胸の方に寄せた。

「本当は……俺も恐いんだ。自分がいつ死ぬか……」

亮哉は泣きたいのを堪えて、綾香に訴えた。初めて人に見せた、亮哉の弱音であった。

学園小説 relationship 佐藤真弓 決定ビジュアル アニメ調 100%再現 彩賀亮哉(センターパート・眼鏡なし・苦悶の表情) 水瀬綾香(紫の瞳・制服姿・驚愕の表情) 手を握る抱擁 病院の病室 魂の同一性死守 [cite: 24, 2026-02-02]
初めて見せた弱音。
水瀬綾香の両手を強く握りしめ、
その胸に顔を寄せて死への
恐怖を打ち明ける彩賀亮哉

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