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第十章「self-sacrificing spirit」(自己犠牲精神)Act.2「見えない事もある」 学園小説relationship

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Act.2「見えない事もある」

一方、稔之は、バスケ部引退後、学校帰りに大学の合同練習に参加する、かなり忙しい日々を過ごしていた。 インターハイでの実績が認められ、付属大学への入学が決定した稔之にとって、それは将来を見据えた一歩だった。部活動をしていた頃よりも帰宅は遅い。 卒業後の進路が確定しているため、生活としては安定しているのだが、稔之はわざと自分を多忙へと追い詰めていった。 勿論、綾香と会わないようにする為。綾香の事を考えないようにする為であった。

インターハイ予選決勝以来、綾香の稔之に対する拒絶は決定的な物となっていた。ならば、もう出来るだけお互い会わない方が良い。とにかく、距離を置く事が最善のように思われた。 卒業まで、後半年足らず。大学の寮に入る事が決定していたので、同時にアパートを出る事になる。綾香とは一切関わりを捨てて、新しい生活になれば、綾香よりも好きになる人が現れるかも知れない——。 しかし、稔之は、そう願いつつも。それが綾香に対する強い未練から発している事に気付いていた。 (俺はこのままでいいのか……?) 何度も、稔之は自分に問い掛けた。

数週間後。 立華大学付属高校写真部室。 文化祭に向けてのミーティングが終わった後の事である。 部員の堀田と悠平は終わるなり、疲れたらしくさっさと出て行ってしまい、後に綾香と西谷だけが残った。

(あー。バインダーを一冊、彩賀君の病室に忘れてきちゃったよ。今度、取りに行かなきゃ……)

自分のそそっかしさを省みながら、綾香も鞄を机の上に引っ張り出して、帰り支度を始めた。その時、ホワイトボードの文字を消していた西谷が言った。

「今日は、彩賀の所に寄っていかないのかい?」

学園小説 relationship 佐藤真弓 決定ビジュアル アニメ調 100%再現 西谷武久(童顔・緑の瞳・ホワイトボードを消す動作) 水瀬綾香(紫の瞳・ストレートヘア・赤面) 写真部部室 夕陽 同一性の死守 [cite: 25, 2026-02-02]
夕暮れの写真部室。
彩賀亮哉の秘密を言い当てた
西谷武久と、驚きに頬を染める水瀬綾香

綾香は、その言葉にビクっとなって、西谷の方を向いた。西谷はいつもの落ち着いた調子で、黒板消しを縁に置いた。 (やっぱり、西谷君は気付いていたんだ……) 亮哉は頭能明晰で芯が強い。親友の西谷にも病気の素振りは一切見せなかった筈だ。しかし、西谷の洞察力はそれより上回っていたみたいだ。

「……いつから、気付いていたの?」

「決定的なのは、春の始業式に彩賀が倒れてからだよ」

だとしたら、かなり前から勘付いていたのである。観念した綾香は、素直に亮哉の病気について知っている事を述べた。

「病気が病気だから良くはないよ。でも、彩賀君と同じクラスの、浜崎君っていうのが作った、『スーパー特効薬A』というのを密かに飲んでいるから、お医者さんも、驚く位健康体なんだって」

以前、スタンガンを作成した科学部の勝田といい、特別進学科は強物揃いばかりである。ちなみに、浜崎君は薬学部志望。そして、将来ノーベル医学賞を獲る人物であった。 (そんなもの勝手に飲んで大丈夫なのか……?) 西谷は、病気とは別の意味で友人を心配した。西谷の深刻な表情を、綾香は「余程、彩賀君を心配しているんだ」と受け止めた。 さすがに、綾香も自分だけに見せた亮哉の動揺を西谷に教える訳にはいかなかった。

夕方 18時前。 亮哉は、いつも欠かさず行っている予習にも手をつけずに、ベッドで仰向けになって寝そべっていた。 ぼんやりとしている、亮哉の頬に、この間の綾香の胸の感触がぶり返して来る。みるみる亮哉の顔が赤くなってきた。

(あーっ、僕は思わず、あんな事をしてしまったんだ……!)

叫びたくなるのを堪えて、亮哉は掛け布団を頭から被った。病身の身でありながら、こんな事を考える自分は異常なのか? 自分の生死の恐怖よりも、綾香の前でどんな行動をしてきたのかが気になるなんて。 案外、自分はいい加減な人間なのだろう。同じ病院の中だけでも、必死に病気と闘っている人間は大勢いるのに。

学園小説 relationship 佐藤真弓 決定ビジュアル アニメ調 100%再現 彩賀亮哉(センターパート・眼鏡なし・鳶色の瞳・顔を真っ赤にした表情) 病院のベッド 白パジャマ 毛布 同一性の死守 [cite: 24, 25, 2026-02-02]
病院のベッドにて。
水瀬綾香との接触を思い出し、
あまりの恥ずかしさに赤面して
布団にくるまる彩賀亮哉

一人、布団の中で身悶えしている亮哉の耳にノックの音が届く。 返事をすると、恐る恐るドアが開いた。亮哉の担当医である。

「亮哉君。……ちょっと話があるんだけどいいかい?」

密かに、先程から亮哉の様子を窺っていた担当医は、傍目から見て亮哉の謎な行為に内心引きながらも、努めて、真剣な表情を作りながら亮哉に歩み寄っていった。 担当医は、勉強机の椅子に座ると黙って亮哉を見つめた。亮哉もすぐに只ならぬ担当医の様子を察し、顔を引き締めると、上体を起こして乱れた布団の皺を伸ばした。亮哉が聞く体勢に入ると、担当医は口を開いた。

「……今まで、手術を行わず、薬で病状をコントロールする手段をとっていたんだが、亮哉君の意志さえ確認がとれれば、やはり、手術を行う方が良さそうなんだ」

亮哉は黙って、次の言葉を待った。

「……これまでの治療が無駄だった訳じゃ、決して無い。現に発見以来、進行はほとんどない。が、この方法だと完全に治る見込みはないんだ。すると、いつかは……」

恐らく、病に倒れる事になるのだろう。しかし、今まで手術をしなかったのには何か訳があるはずなのだ。担当医は、そのリスクを説明した上で、亮哉に手術の可否を決める事を促す為に、部屋に訪れたのである。

「手術をするのに何か不都合があるんですね?」

亮哉は先回りして、担当医に質問した。担当医は、大きく頷いて話を続けた。

「君の心臓の病。今の時点では命に別状はないのだが、亮哉君は若いし、何かのきっかけで容態が急変するかも知れない。問題は、病変の位置だ」

担当医は、レントゲン写真を亮哉に見せた。

「極めて、心臓の中枢に近い。しかも、大動脈部分に非常に近いんだ。ここにメスを入れる事は、かなり危険な事なんだよ。勿論、こちらでも最大限の努力はする。だが、君の強い意志も必要なんだ」

担当医の額には汗が滲んでいた。医者にとって、患者に辛い現実を伝えることは、相当な精神力を要する。

「……少し考えさせて下さい」

治す為には、一刻もはやく手術を受ける事が一番だろう。しかし、即答は出来なかった。担当医は亮哉に視線を向けた。

「……しかし、君は強いね。最初、入院して来た時、『病気にかかっているのは僕ですから、正確な情報をすべて直接僕に言って下さい』と言われた時は度肝を抜かれたよ。君位の年齢だと、普通ご両親と話し合って、それから、本人に伝えるかどうか決めていくものだが」

(君の潔さに、逆に病状を伝える僕の方が、重圧に耐えられなくなってしまうよ)という言葉を医者は呑みこんだ。 亮哉の脳裏に一瞬、祖父の姿がよぎった。

「……僕は、昔から、例え、どんな結果になっても、自分の事は、自分で決めるという考え方なんです」

「……そうか……君は本当にしっかりしているよ」

担当医は亮哉に笑いかけると病室を出て行った。

担当医が遠ざかる足音を聞きながら、亮哉は目の前が真っ暗になるような錯覚を覚えた。

僕は全然強くなんか無い。弱い自分を見せたくないだけだ。 いつも衝撃は、後から後から湧き出てくる。亮哉は布団の端を握り締めた。 最近は特にそうだ。以前より、『弱く』なった気がする。 再び、綾香の柔らかな感触を思い出す。 水瀬さんを好きになってから。 僕は、失いたくない物が出来てしまった。 水瀬さんから離れたくない!

思わず、感情的になった亮哉は握り締めた掛け布団を引っ張り上げると床に叩きつけるのであった。

小説 relationship 佐藤真弓 決定ビジュアル アニメ調 100%再現 彩賀亮哉(センターパート・眼鏡なし・鳶色の瞳・白パジャマ) 病院の病室 夜 月光 毛布を床に投げつける描写 同一性の死守 [cite: 24, 25, 2026-02-02]
深夜の病室。月明かりの下、
死への恐怖と水瀬綾香への想いの間で、
激しい感情を爆発させる彩賀亮哉

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