なぜ肉に赤ワイン、魚に白ワインが合うのか|WSETで学ぶマリアージュの科学
はじめに——「なんとなく合う」のには、ちゃんと理由がある
やっほー、ボルです!
突然ですが、こんな経験はありませんか?
「肉料理には赤ワイン、魚料理には白ワイン」ってよく聞くけれど、なぜなの?
「レモンを絞った唐揚げにスパークリングが合う」って言われても、どういう仕組み?
「チーズとワインって相性いいらしいけど、どのチーズとどのワイン?」
ワインとマリアージュ(食べ物とワインの組み合わせ)の話は、ワインを楽しむうえで避けて通れないテーマですよね。でも、「なんとなくそう言われているから」で終わってしまうことが多い。
私もかつてはそうでした。
特に恥ずかしかったのが、ハンガリーに赴任していたころです。
現地の会食で「ワインを選んでくれ」と頼まれたとき、メニューを見ても全く判断できず、「えー、じゃあこれで」と完全にカンで選ぶしかなかった(笑)。合っていたのかどうかも、正直よく分からなかったです。
転機になったのは、WSET®(Wine & Spirit Education Trust)という国際資格の学習です。ワインの「味わいを科学的に分析するフレームワーク」を学んだことで、「なんとなく合う・合わない」が、ちゃんとした理由のある法則として見えてきたんです。
この記事では、WSETで学んだ味わい分析の考え方をベースに、マリアージュの仕組みを「なるほど!」と腑に落ちる形でお届けします。
ワイン初心者の方も、ワインが好きだけど「合わせ方がよく分からない」という方も、ぜひ最後まで読んでみてください。
第1章——そもそも「マリアージュ」って何?
マリアージュ(mariage)はフランス語で「結婚」を意味します。ワインの世界では、食事とワインが互いの良さを引き出しあう、理想的な組み合わせのことを指します。
「食べ物とワインが合う」というのは、単純に「美味しいと感じる」というだけではありません。
より正確に言うと、お互いの味わいの要素が調和・補完・対比することで、単体で飲む・食べるよりも美味しく感じる状態のことです。
逆に「合わない」組み合わせは、どちらかの味わいを邪魔してしまい、食事もワインも美味しくなくなります。
では、その「合う・合わない」はどうやって決まるのでしょうか?
そのカギを握るのが、ワインと料理それぞれの「味わいの要素」です。
第2章——ワインの「味わいの構造要素」を知ろう
WSETが採用している「SAT(Systematic Approach to Tasting:体系的テースティング)」というフレームワークでは、ワインの味わいを「甘み・酸味・タンニン・アルコール・ボディ・風味の強さ・風味の特徴・余韻」という8つの要素で評価します。
※SATの分類・呼称はWSET公式教本に基づいています。ただし本記事の説明の仕方・具体例は筆者が受講した講座の内容と理解に基づく独自のかみ砕きであり、公式見解そのものではありません。正確な試験対策は必ず公式教材をご確認ください。
このうち、マリアージュを考えるうえで特に重要な「構造要素(Structure)」が、以下の4つです。
これらはワインと料理の相互作用に直接影響するため、まずこの4つを押さえると、マリアージュの法則が理解しやすくなります。
1.甘み(Sweetness)
完全に辛口のドライワインから、デザートワインのような甘口まで幅広いです。甘みは残糖(発酵後に残った糖分)から来ます。

2.酸味(Acidity)
ワインには大なり小なり酸味があります。
レモンや青リンゴを口に含んだときのような、キリッとした感覚です。
白ワイン

赤ワイン

3.タンニン(Tannins)
赤ワイン特有の「渋み」成分です。
ブドウの皮・種・茎に含まれるポリフェノールで、口の中をキュッと引き締めるような感覚があります。

4. アルコール(Alcohol)
アルコール度数が高いと、口の中に温かみや重さを感じます。
この「重さ」がボディ感にも影響し、料理との重量バランスを考えるうえで重要な要素になります。

マリアージュに関係する4つの構造要素まとめ

なお、SATの8要素についてはこちらの記事で詳細を説明していますのでご興味がある方は参照してください。
第3章——料理の「味わい要素」とマリアージュの法則
マリアージュは「ワインの要素」と「料理の要素」の相互作用で決まります。上記の構造要素をもとに、基本的な法則を整理します。
※以下で紹介する「法則」は、WSETで学ぶ味わいの基本原則をもとに筆者が独自に整理・命名したものであり、WSET公式の用語・見解ではありません。また食の好みには個人差があるため、絶対的な規則ではなく「傾向」としてご参考ください。
法則1:「酸味が脂をリセットする」——揚げ物・脂料理にはキリッとしたワインを
酸味の強いワインは、脂っこい料理や塩気の強い料理と相性が良いです。
なぜ合うのか: 酸味成分(酒石酸・クエン酸等)が舌や頬の内側の唾液腺を刺激し、唾液の分泌量を増やします。唾液には脂肪をこまかく分散させる働きがあるため、口内に残った脂っぽさがすっきり洗い流されたように感じられるのです。
「酸が脂を化学的に分解している」わけではなく、「酸が唾液という天然の乳化剤を呼び込んでいる」というのが実態に近い理解です。唐揚げにレモンを絞る感覚と、仕組みは全く同じです。

覚えておきたいポイント: 酸味の強い料理に酸味の少ないワインを合わせると、料理の酸がワインを「ぼんやりした味」に見せてしまいます。「料理と同じかそれ以上の酸味を持つワイン」を選ぶのが基本です。
法則2:「タンニンはたんぱく質・脂肪と結合してまろやかになる」——赤肉に赤ワインの理由
タンニンの強い赤ワインが、脂肪分の多い赤肉と相性が良いのは有名な話ですが、なぜでしょうか?
なぜ合うのか: タンニンの渋みは本来、唾液に含まれる「プロリンリッチタンパク質」という潤滑成分と結合し、それを沈殿させることで生まれます。潤滑成分が失われることで口内がザラつく、あの感覚が渋みの正体です。
肉料理を合わせると、タンニンは唾液タンパク質より先に、肉に含まれるたんぱく質・脂肪と結合します。その結果、唾液の潤滑が保たれ、渋みが和らいで感じられるのです。
「たんぱく質と結合して中和する」というより、「唾液タンパク質と食べ物のたんぱく質のあいだで、タンニンの奪い合いが起きている」というのが実態に近い理解です。

これが失敗しやすいパターン:魚介にタンニン強めの赤ワインを合わせると、魚に含まれる鉄分とタンニンが反応して、金属的な後味が出ることがあります。「魚に赤ワインが合わない」と言われる主な理由はここにあります。
法則3:「甘みが辛さをコーティングする」——スパイシー料理に甘みのあるワインを
スパイシーな料理に甘みのあるワインを合わせると、辛さがマイルドになります。
なぜ合うのか: 辛みは、甘み・酸味のような「味覚」ではなく「痛覚・熱覚」に分類されます。カプサイシン(唐辛子の辛み成分)が、口内のTRPV1受容体という「熱さ・痛みを感知するセンサー」を直接刺激することで、脳が「熱い・痛い」と錯覚するのです。
甘みのシグナルが脳に伝わる過程で、この痛覚シグナルの伝達を抑える働きがあるため、結果的にマイルドに感じられます。さらに、エタノールはTRPV1受容体の活性化温度を引き下げる性質があり、アルコール度数が高いほど辛さ・熱さを強く感じやすくなります。
辛口ワインは残糖ゼロで度数も高くなりがちなため、スパイシー料理との相性が悪くなりやすいのはこの仕組みが一因と考えられています。

法則4:「同じ産地は合わせやすい」——郷土料理とテロワール
マリアージュの最もシンプルなルールのひとつが、同じ産地の料理と同じ産地のワインを合わせるという方法です。
なぜ合うのか: この法則には他の3つのような明確な生理学的メカニズムはなく、科学的根拠というより文化的・歴史的な必然性に基づくものです。
長年その土地の気候・食材に合わせて造られてきたワインが、結果的にその土地の料理と調和しやすくなった、という経験則です。
ただし同じ産地でも、料理の重さとワインのボディが釣り合っていなければマリアージュは崩れるため、「同じ産地」よりも「甘み・酸味・タンニン・ボディの強度が同じくらいか」で考える方が精度は高くなります。

マリアージュ4つの基本法則まとめ

※感じ方には個人差があります。あくまで一般的な傾向としてご参照ください。
第4章——SATというフレームワーク:味わいを「言語化」するツール
第2章で紹介した構造要素は、WSETが採用している「SAT(Systematic Approach to Tasting:体系的テースティング)」の一部です。
SATはワインを以下の4段階で体系的に評価・言語化する手法です。
① 外観(Appearance): 色調・濃淡・透明度など
② 香り(Nose): 香りの状態・強さ・特徴・熟成度
③ 味わい(Palate): 甘み・酸味・タンニン・アルコール・ボディ・風味の強さ・風味の特徴・余韻
④ 結論(Conclusion): 品質評価・飲み頃の判断
第2章で取り上げた「甘み・酸味・タンニン・アルコール」は、このうち③味わい(Palate)に含まれる構造要素(Structure)です。
SATではここにさらに「ボディ・風味の強さ・風味の特徴・余韻」も加わりますが、マリアージュの法則に最も直結するのがこの4つの構造要素なので、この記事では絞って紹介しました。
私がWSETを学んで最も変わったのは、「このワインをどの料理に合わせようか」という考え方が、感覚ではなく理由で選べるようになったことです。
スーパーのワイン売り場でラベルを見ながら「この産地・品種ならタンニン穏やかめで、今夜の魚料理に使えそうだ」と判断できるようになる——そういう地味だけど確実な変化でした。ハンガリーに赴任していたあのころの私に教えてあげたかった(笑)。
WSETやSATについてさらに詳しく知りたい方は、下記の資格比較記事もご参照ください。
第5章——実践:今夜の食卓でやってみよう
「法則は分かったけど、実際にどう使えばいいの?」という方のために、シンプルな3ステップを紹介します。
ステップ1:料理の「一番強い味わい」を特定する
今日の料理が持つ、最も支配的な味わいの要素を1つ選びます。

ステップ2:ワインの「重さ」と料理の「重さ」をそろえる
軽い料理には軽いワイン、濃い料理には重いワイン。
「ふわっとした蒸し魚」にフルボディの濃いめ赤ワインを合わせると、ワインが料理を飲み込んでしまいます。逆も同じです。SATでいうボディ(アルコール・凝縮度)のバランスを意識するだけで、合わない確率がかなり下がります。
ステップ3:まず失敗を楽しむ
マリアージュに「絶対の正解」はありません。
合わなかった組み合わせを「なぜ合わなかった?」と分析する経験が、実は最大の学びになります。「タンニンが魚の鉄分に当たったのかも」と考えられるようになれば、もうマリアージュの入口に立っています。
おわりに——「なんとなく」が「なるほど」に変わると、ワインがもっと楽しくなる
「肉料理には赤ワイン」という経験則は、タンニンとたんぱく質・脂肪の関係から来ています。 「揚げ物にスパークリング」は、酸味が脂をリセットする仕組みから来ています。
こうした「理由」を知ると、ワインを選ぶときの視点が変わります。スーパーのワイン売り場も、レストランのワインリストも、これまでとは違う楽しみ方ができるようになります。
WSETの学習を通じて私が実感したのは、「飲む」と「学ぶ」は矛盾しないということです。むしろ、学べば学ぶほど、飲むことがより深く楽しくなる。
この記事を読んで、ワインを選ぶときに「酸味はどのくらいだろう?」「タンニンがある品種だな」と考えてみるきっかけになれば、とても嬉しいです。
次に読むなら——この記事の「その先」へ
「法則は分かった。じゃあ何から飲めばいい?」という方へ
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近日公開: 「ワインって何から飲めばいいの?品種×スタイル×価格帯ガイド」
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どうもありがとうございました!
次の一杯が、もう少し「なるほど」の多いひとときになりますように。
ボル
著者プロフィール:ボル(38歳・社会人16年目)。WSET® ワイン Level 1〜3、日本酒 Level 1 取得。Level 2は英語コースで Pass with Distinction、Level 3 テースティングは Pass with Distinction、セオリーは Pass with Merit。ハンガリー・トルコに計3年半の海外赴任経験あり。
note: https://note.com/regal_weasel6321
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育児2人・フルタイムで、子どもが寝た後にコツコツ書いたWSET攻略記事です。頂いたチップは次の記事の執筆費と、たまにワイン代になります。
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