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山の暮らしの物語40 秋祭りの日


< このシリーズは
  戦後、ある山村に実在した一家をモデルとして、創作したものです > 


庭先のかまどにのせた大きな鍋から、湯気が立ち昇っている。
湯気の向こうに、白い割烹着の母さんの顔が見えた。
しゃがんで、かまどの火の様子を見ているのは、メイちゃんちのおばちゃんだ。

今日は秋のお祭り。

母さん達は、婦人会が開いたうどん屋さんの店番をしているのだった。
まだ小さい結衣ちゃんと文ちゃんが そばで遊んでいる。

母さんがいるのがうれしくて、ゆきちゃんは大きな声で言った。

「きつねうどん ちょうだい!」

「私も」
「ぼくも」

遊び仲間の声が続いた。

学校は午後からお休みになったので、子供達はそろってお祭りに押し寄せた。
稲刈りのすんだ田んぼで、鬼ごっこや隠れんぼに夢中だ。

ゆきやメイ達いつもの遊び仲間の家は、川下地区にあって
ここには、めったに来ないので何もかもが珍しい。

村のあちこちで小さなお祭りはあるけど
こんなににぎやかに村中が集まるのは、この秋祭りだけだ。

うどん屋さんを開いている庭には、大きな松の木があって
まるで竜のように太くて長い枝を横に伸ばしていた。

この枝に乗って揺すぶって、下の道に飛び降りるのが面白くて
ゆきちゃん達も、さっきまで夢中になって遊んでいたのだった。

うどんをすすっていると、母さんが言った。
「ほしい人形があったら、後で買うてやるよ」

「メイも好きなもの、決めとくんやで」
おばちゃんも口をそろえる。

ゆきとメイは、大喜びでお店をのぞきに行った。

よそからやって来たおじさんが開いているお店だ。

お面や 風船 人形や ブリキのロボット など、男の子も女の子も群がっている。
ゆきちゃんは、一段高い所にあったフランス人形が気に入った。
メイちゃんは、おさげの抱き人形を選んだ。

「後でお母ちゃんが買うてくれるから、取っといてね」
二人はお店のおじさんに頼んだ。


お祭りが最高に盛り上がるのは餅まきだが、それにはまだ間がありそうだ。
まあちゃんや美穂ちゃんといっしょに
少し離れた川向こうの天神様に行く事にした。

畑のそばの小さな丸木橋を渡って
川沿いの林の中に入って行くと、天神様のお社があった。

焚き火が燃えて、煙が渦巻いている。
ここでも、子供達が駆けまわるにぎやかな声が聞こえた。

川のすぐそばにあるこの林は、清々しくて気持ちがいい。
ゆきちゃんはすごく気に入った。

ただ、ずっと後になってから、父さんがこんな事を言った。
父さんは、夜でも川へ魚獲りに行くことがあるのだが

「夜の暗闇でも、どんな所も怖いことはないが
 あの天神様の所だけは、行きたくない」

あそこには、何か別世界とつながるものがあったのかも知れない。
そんな不思議な場所だった。


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