山の暮らしの物語 39-2 お墓参りは山登り
< このシリーズは
戦後、ある山村に実在した一家をモデルとして、創作したものです >
ゆきちゃんは、朝からウキウキしている。
なんたって、今日はお盆だもの
父さんも、母さんも仕事がお休みなんだ。
行商のおじさんが来た時に買ってもらった
真新しい水色のワンピースを着て
ゆきちゃんは、庭にいた。
お墓参りでお供えする
夏菊や、千日紅、おみなえし等の花を、切っている。
やがて、支度が整うと
父さんは、文ちゃんをおぶって、お供えの水と、榊を持ち先頭に立った。
( 注 1、2 )
ゆきちゃんは、切りとった花を束にして抱え
母さんは、お米や、家で採れた桃や梨、落雁、お煎餅などを手提げ袋に入れ
それぞれが、お供えの品を手にして、地区の共同墓地に向かった。
墓地は、歩いて1時間はかかる山の上にある。
なにしろ、平らな土地がほとんどない。
仕方なく、山の中腹の平らな場所を切り拓いて、作ったらしい。
それが、いつの事なのか、ゆきちゃんは知らない。
お墓の中に、知り合いもいない。
どれが祖父ちゃんだか、どれが戦争で亡くなったおじちゃんだか
よく分からない。
だから、あっけらかんと、それぞれの墓石に手を合わせると
後は、年に一度の、楽しい遠足みたいなものだった。
久しぶりに、従妹のメイちゃんに会った。
同級生の美穂ちゃんもいた。
ご近所のまあちゃんは、ちょっと遅れてやってきた。
子供たちは、あちこちにお供えしてあるお菓子をたばっていい。(注3)
ちょんと、軽く手を合わせてから、ゆきちゃんはお饅頭に手を出した。
夏休みに入ってから、会ってないので
わぁ わぁ きゃぁ きゃぁ と 子供たちは、はしゃぎ回っている。
大人たちも、似たようなものだ。
「田んぼの出来は、どうやね?」
「とうもろこしが、イノシシにやられてよぉ」
などと、挨拶と近況報告に忙しい。
こうして、和やかなひと時が過ぎると、お開きの時間がやって来る。
ゆきちゃん一家も、にぎやかな一団に混じって山を降りる。
墓地の出口の道端に、いくつかの石が並んで、その前にもお供えがあった。
「母さん、これなぁに?」
「これはね、行き倒れになった、名前も分からない人のお墓だよ」
「ふ〜ん…かわいそうやね」
ゆきちゃんは、母さんの顔を見上げ、それからそっと手を合わせると
元気よく駆け出した。
蝉の声が、後を追いかけて来る。
注1 おぶって 背負って
注2 榊 ここは神道の村だから お寺はなく、僧侶も居ない、お経もない
お供えは、榊 ( サカキ) と決まっていた
注3 たばって 神仏へのお供え物を下げて、頂いて
「頂戴する」を意味する古語の「賜(たまわ)る」が変化
賜わる(たまわる)」→「たまる」→「たばる」と音が変化して定着したという説が一般的
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