【掌編】独りでいたいだけなのに(地獄篇その後)

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◇前回の続きから
「遊ぶのがイヤでサボってたから、とうとう地獄に落ちちゃった……」
そう独りごちて肩を落とす私に、赤鬼が「つべこべ言わず、さっさと遊べ」と、うずくまる罪人を指し示した。
実は、地獄で「遊ぶ」とは、罪人を痛めつけることだったのだ。
それを拒む理由は私にはなかった。哀れむ気持ちも、ためらいも、不思議なほど湧いてこなかった。
仕方なく、私は言われるままに罪人へ手を下した。一撃、また一撃。罪人の悲鳴が響くほどに、私の手つきは澱みなくなっていった。
離れたところから、赤鬼がその様子をじっと見つめていた。
「お前、なかなかの手際だな」
聞けば、脅されて仕方なく罪人を打ちのめした私の動きに、迷いというものが一切なかったのだという。
苦しむ罪人を見ても、私の心はまるで痛まなかった。もとより私には、他人に対して湧き上がる情というものが希薄だったのだ。
同情も、遠慮も、良心の呵責も、私の中にはほとんど宿らない。いわば、血の通っていない人間——それが赤鬼の下した私への評価だった。
「痛めつける役には、持ってこいだ」
赤鬼にそう見込まれた私は、以来、罪人を打ちのめす係に回された。
幼い頃からイヤでイヤで仕方なかった「誰かと遊ぶ」必要はもうなかった。ただ、命じられるままに罪人を打ち据えればよかった。それは、私にとって「遊び」ではなく「作業」であり、作業である以上、人に心を割く必要もない。
罪人をいたぶって打ち据えるほどに、私の評判は高くなり広まっていった。
やがて、その噂は閻魔大王の耳にまで届いた。
大王の御前に呼ばれた私は、地獄の秩序維持に多大な貢献をしたとして、感謝状と金一封を授かった。そして、正式に鬼への昇格を言い渡されたのである。
金一封もらってどうするんだ、というツッコミはくれぐれもなしでお願いしたい。
◇
鬼になった私は、血の池のほとりで、初めて自分の姿を映してみた。赤黒い肌、額に生えた二本の角、口から覗くおぞましい牙。
その恐ろしい姿を眺めながら、私はふと呟いた。
「独りでいたかっただけなのに、いつのまにか、誰よりも人と関わる仕事に就いてしまったな……」
「だが、」と私は思い直した。
罪人たちは、私と「遊んで」くれているわけではない。ただ、一方的に打ち据えられているだけだ。心を通わせる必要も、愛想笑いを浮かべる必要もない。
しつこいが、これは、忌まわしい「遊び」なんかじゃない。
「これはこれで決して悪くない、独りを存分に楽しめる、おひとりさまの時間じゃないか」
そう自分を納得させて、私は次の罪人をいたぶりに出かけた。
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