【掌編小説】独りでいたいだけなのに(地獄篇)

幼いころから、私はただ独りでいたかった。
そんな私を心配した母親は、私を公園につれていき、友人の子どもと遊ばせた。私にとってはありがた迷惑なおせっかいだった。私は、母親が見ている時だけみんなと遊ぶフリをし、目を離すとすぐに独りに戻った。
『植物になりたい』——幼稚園で将来の夢を聞かれ、私は真顔でそう答えた。植物になれば動かなくていいし、誰とも遊ばなくていいからだ。
大人になり就職してからも同じだった。会社のスキー旅行では、上司が見ている時だけ楽しそうに滑り、そして転んだ。その無様な姿に上司や女子社員は腹を抱えて笑った。
「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもので、年老いてデイサービスや老人ホームに入ってからも、職員が見ている時だけ他の老人と遊んでいるフリをする日々が続いた。
そしてついに、私にも天寿が訪れた。
ベッドに仰向けになった私は、暴れるのを防ぐため手足を拘束用のベルトで縛られていた。
だが、私はそれを喜んだ。
『これで、ようやく誰とも遊ばなくてよくなった』
◇
やがて私は臨終を迎え、あの世へと旅立った。
ところが、着いたところは、私が思い描いていた場所ではなかった。
煮えたぎる血の池と、真っ赤に燃える業火。鋭く尖った針の山に、容赦なく罪人を拷問する赤鬼と青鬼。
やっと遊ばなくても良くなったと喜んでたのに、
「ほかの罪人と遊ばないと釜茹での刑にするぞ!」
鬼はそう言って私を脅した。
こんなはずではなかった……。
『いったい、この私が何をしたって言うのだ!』
◇
私は不祥事を起こした政治家のように、「真摯に反省し」、それまでの人生を振り返った。そして悟った。
「遊ぶのがイヤでサボってたから、とうとう地獄に落ちちゃった」
