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【Re:write】第39話 最初の戦野と、それぞれの得物

―絶望を、書き換えろ。


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王都の喧騒が遠のく。郊外の森。
木々に囲まれた小さな湖畔。水面は鏡のように空を映し、時折、魚が跳ねる微かな水音だけが響く。
ウンディーネの最初の舞台。

「――これより、人工精霊ウンディーネ実働試験を開始する!」

エラーラの声が、静寂を物理的に切り裂く。手には水晶板。猛烈な勢いで数式を書き殴るペン先が、カリカリと神経質な音を立てている。
瞳孔が開ききった目の輝き。

「試験だの評価だの、面倒くせえな」
ドレイクが切り株に座り込む。
古びた革のブーツが、湿った土を蹴る。

「さっさとやらせてみりゃいいだろうが」
「ドレイクさん、言葉が乱暴です!」
アリアが窘める。その手は、無意識に胸元で組まれている。期待と、未知への不安。

「分かってないな。面倒は美味しい。データが増える」
「味覚どうなってんだ?」
「二人とも、声が森に響きます」

沈黙。カリカリ、という音。

「第一項目、状態変化。カイ、命令を!」
エラーラの号令。カイが湖面を見据える。網膜に走るグリッドライン。

冷徹な指揮官の声。
「ウンディーネ。対象座標を中心とする半径5メートルを、一瞬で凍らせろ。――『氷結』」

音もなく、世界から熱が死ぬ。急激な気圧変化。風が巻き起こる。湖面が白濁する。
パキパキパキ……という硬質な音が連鎖し、美しい氷の舞台へと一変する。水蒸気が凍り、ダイヤモンドダストとなって舞う。

「おおっ!」
ドレイクが身を乗り出す。
「すげえな、こりゃ!冬でもねえのに」

「第二項目、質量攻撃!」
エラーラが叫ぶ。ペンの動きが加速する。

「ウンディーネ。氷の刃を三本、生成。正面の樫の木をターゲットに、射出せよ」
カイの思考と同期し、氷柱が結晶化する。
先端の鋭利さ。密度。物理的な加速。火薬なき発砲音。

ヒュンッ!ズバババッ!
硬い幹に深々と突き刺さる。衝撃が地面を揺らす。
木片が飛散し、抉られた樹皮の匂いが漂う。舞い落ちる葉。

「……こいつは、とんでもねえ代物だな」
ドレイクが唸る。

「すごい!すごいぞ、カイ!これなら重装歩兵の盾ごと鎧を貫ける!」
エラーラが飛び跳ねる。
カイは表情を変えない。次の指示。

「ウンディーネ。半径10メートルに、目隠しとなる濃い霧を生み出せ」
水蒸気の拡散。視界が白く塗り潰される。乳白色の霧が森を包み、肌に冷たくまとわりつく。湿った空気。

カイの思考が走る。

(火力、機動力、隠密性。及第点だ。だが……)

脳裏にフラッシュバックする映像。
レオンの最期。
堕天使の一撃。飴細工のようにひしゃげた剣。圧倒的な質量の暴力。

(ウンディーネは強力だ。だが単一システムだ。リソース不足、射程外……リスクは残る。)
(俺の手が届かない場所で、誰かが死ぬ可能性)

霧が晴れていく。
カイが決断する。

「……もう一体、作る」
「は?」
ドレイクの素っ頓狂な声。

「ウンディーネは攻撃・制圧特化だ。アリア、君をマスターとする、同種の精霊が必要だ。個体名は『ミスト』とする」

カイは二人を見る。

「これは生存確率を最大化する合理的判断だ。君たち二人にも、専用の人工精霊を開発することを提案する」
「ドレイク、お前には炎の精霊を。エラーラ、君には……」

「――断る」
ドレイクが遮る。戦鎚の柄を、無造作に叩く。
「俺の相棒はこいつだけで十分だ。今更、水だの炎だの、得体の知れねえもんに背中を預ける気はねえ」

「私も、パスさせてもらうよ」
エラーラが悪戯っぽく笑う。
眼鏡の奥で目が細められる。

「面白いオモチャを独り占めされたらたまらないからね!私はこの手で真理を解き明かしたいんだ。便利な道具に頼りすぎちゃ、脳が腐る」

カイはアリアを見る。彼女が断ることも、確率計算済みだ。
守られるだけの存在であることを、彼女は望まない。

だが、戦場に立つ覚悟は別だ。

「――お受けします」
凛とした声。空気を震わす。ペン先の音が、止まる。

カイの瞳がわずかに見開かれ、組んだ腕の指先が無意識に二の腕の肉へ強く食い込んだ。

アリアはカイを見つめ返す。翠色の瞳。揺らぎはない。
「カイさん。私は、あなたに一方的に守られるために、その子のマスターになるのではありません」

胸に手を当てる。静かな決意のリズム。
「あなたがウンディーネちゃんと共に戦う時、あなたの背中を、そしてあなたの心を、私とミストちゃんが守るのです」
「対等なパートナーとして、あなたの隣で戦うために……私に、その力をください」
アリアの手が胸元から離れない。数秒の沈黙。静かに、小さく頷く。

森の木漏れ日が傾く。四人の影が長く伸び、交錯する。小さな家族。

風が吹き抜ける。湖面のさざ波。氷の縁が、かすかに鳴った。
音が、薄く割れて――消える。


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