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【Re:write】第38話 賢者の声と、家族の定義

―絶望を、書き換えろ。


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静寂。
工房の空気が澄んでいる。
水晶の器。
水で編まれた少女。ウンディーネ。
輪郭の内側で、水の揺れが周期を持ち始める。
カイとエラーラが食い入るように観測する。
アリアとドレイク、ミミ。
生まれたばかりの命を囲む。
ランプの光が硬い。影が深い。

「……で?」
物理的な破壊音。ドレイクの声。

「生まれたのはいいが、こいつは一体、何ができるんだ? 見た目は綺麗だが、ただ突っ立ってるだけじゃ、高級な置物と変わらねえぞ」
「ドレイクさん!」
アリアが咎める。

ウンディーネの前に手を差し入れる。
「この子は、生まれたばかりなのです! 赤ちゃんに、いきなり『何ができる』なんて聞く方はいません!」
「赤ちゃん、ねえ……」

ため息。

「彼女は、生きた武器だ」
カイが断言する。淡々と。
アリアの定義を上書きする。

「ウンディーネの性能は、自らの媒体である水の三態……固体、液体、気体への自在な状態変化だ。高圧水流による切断、氷壁による物理防御、霧による攪乱。戦術的応用範囲は極めて広い」
「ほう! そいつは頼もしいじゃねえか!」

ドレイクの目が輝く。
「置物」から「武器」へ。認識更新。

「だが、どうやってそいつに命令するんだ? 水たまりに向かって叫ぶのか?」

水が一滴。作業台の縁で止まる。誰も、その音の後を追わない。

「そのために、声を授ける。彼女に、俺たちと話すための言葉を与えるんだ」
カイはウンディーネを見る。
視線が固定される。瞬きが少ない。

「彼女の身体は情報の集合体だ。内部に空洞を作る。震わせる。空気が鳴る。――すなわち『声』を物理的に生成できる。」

二人の口が止まる。
ミミがアリアの服を引く。

「……アリアおねえちゃん。カイおにいちゃん、なにしてるの? きれいな、わっか、つくるの?」
無垢な問い。

「輪じゃない。喉を作るんだ」

カイの合図。
アリアが和音を奏でる。
カイが作業台の水晶板を引き寄せる。
指先が硬質な表面を叩く。高速のタッピング音。
板の表面に幾何学的な光のラインが走り、それがケーブルを伝ってウンディーネの胸へと吸い込まれる。

内部構造の書き換え(リライト)。

鈴の音のような声。
『――発声器官、接続。状態、良好。皆様、初めまして』

静寂。

エラーラのペン先が宙で止まり、すぐ走り出す。
人工的で、美しい声。
カイが頷く。設定完了。

「これより、制御権限を設定する。マスターを、俺、カイ・ミシマ。サブマスターを、アリアとする」
『了解。マスター、サブマスターの登録を完了しました。――補足します』
感情のない声。
『私の能力行使において、状態維持、及び状態変化自体には、エネルギー消費は発生しません。ただし、外部環境に対し、物理的・化学的な影響を与える場合、その作用に見合ったエネルギーを、マスターの定めた規定に基づき消費します』
「……なんだって?」
ドレイクが眉をひそめる。

「つまり、どういうことだ?」
『例えば』

ウンディーネの指先。鋭い氷の刃へ変化する。
『この氷の刃が、マスターの意図なく何かに触れても、冷たさを与えることはありません。しかし、マスターが「斬る」あるいは「凍らせる」と意図した場合、その行為に必要とされる熱量を、エネルギーとして消費します』

流暢な口上。
ウンディーネの刃が、作業台の木片に触れる。
木は濡れない。冷えない。
カイが短く言う。

「凍らせろ」

木の表面が白く曇り、遅れて霜が走る。

誰かの息が、短く止まる。五人の顔。視線が一度だけ揃う。
王都の片隅。混沌とした工房。
最初の「声」が上がった。
窓の外。風が吹く。
街の屋根が、白く霞んでいる。
遠くで、水の落ちる音が一つ。
器の縁で、光が揺れる。
その揺れだけが、残っていた。


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