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【小説】夢能力 #2

#1はこちら!


「ダイ兄ちゃん、気になる話って何?」

「まぁまぁアイラよ、そんなに慌てるでない。話はレエアが来てからにしよう」

 それからしばらくして、レエアがホールに入って来た。ダイが頭の上で手を振ると、それに気づいたレエアが二人の元へ駆け寄って来る。

「おはよ~、アイラ、ダイ」

「おはよう! エア姉ちゃん!」

 アイラがいつもと同じようにレエアに飛びつき、二人が抱き合う。

「相変わらず来るのが遅いこと」

 そこにダイが苦言を呈する。

「女の子は身支度に時間がかかるものなの! そんなダイは相変わらずデリカシーがないことばかり言うね」

 レエアが吐き捨てるように言った後に舌をベーっと出した。

「へっ! ほっとけ」

 ダイも舌を出し返す。

「ダイ兄ちゃんも、エア姉ちゃんも喧嘩しないでよぉ!」

「ごめんごめん、ここは可愛いアイラに免じてダイのことは許してあげよう」

 レエアが座り、その膝の上にアイラが乗っかる。そこから見えたダイの表情は、納得がいっていないようだった。

「で、私が来るまで二人は何の話をしていたの?」

 レエアが話を切り出す。その質問にはアイラが答えた。

「そうそう、ダイ兄ちゃんが気になる話があるって言ってきてね」

「気になる話?」

 二人の注目がダイに向けられる。それを察したダイは、ホールの入口付近にいる監視員たちを一瞥した後に、小さい声で話し始めた。

「実は俺、今日夢を見たんだよ。その中にあの男が出てきた。あいつは夢の中で、身体中炎に包まれて苦しんでいたよ」

 ダイの視線が、一人の監視員に向けられた。その監視員は「ラムダ」と書かれた名札を付けている。

「えぇ!」

 思わず声を上げたアイラの口を、レエアが手で塞ぐ。もごもごするアイラは、数秒後に解放された。

「ダイ兄ちゃんの夢に出てきたってことは……」

「あぁ、俺の夢能力からして、あいつは今日中に死ぬだろうな」

 ダイが目を細めた。
 被検体番号A─103、夢能力名はdie・人の死。アイラとレエアからダイと呼ばれている彼の能力は、翌日亡くなる人とその大まかな死因を知ることができるものである。

「夢を見たことは監視員さんに伝えたの?」

「いや、夢は見ていないと嘘をついた」

「だめだよ! 噓がばれたら……拷問部屋行きだよ?」

 拷問部屋──以前、夢を見たものが嘘をついた際に連れていかれた部屋である。そこから戻って来た者は皆、全身痣だらけで出てくることから、三人の間でそのように呼ばれている。

「二人が他の人に話さなければバレねぇよ。俺は二人なら信頼できる。それにだ! 他にも数人、監視員の連中が出てきたんだよ。もしかしたら、この施設内で何か事件が起こるかもしれない!」

 普段の生活から突飛した出来事があるとワクワクする。それが子供というものだ。ダイも例外ではない。
 そんな興奮状態のダイをからかうように、レエアは眉と片方の口角を上げて小さく手を挙げた。

「興奮しているダイに、私からも一つ話をしてあげよう」

 レエアの手招きに従って、ダイが体を少し二人の方へ寄せた。

「実は私も夢を見たの。そして、それは監視員さんに伝えなかった」

 思わず「えっ!」と声を上げたダイ。レエアが口の前で、右手の人差し指を立てると、ダイは慌てて口を手で押さえた。

「アイラは二人が拷問部屋に連れていかれるのはイヤだよ……」

 悲しそうなアイラに対して、ダイはキラキラ輝くような目をレエアに向けている。

「で、レエアは何の夢を見たんだ?」

 レエアが自信満々に答えた。

「この建物が爆発する夢。物置部屋に爆弾が置いてあって……それが爆発したの。何度も爆発は起こって、建物は大きな炎に包まれていたわ。私は最初の爆発で吹っ飛ばされて、倒れていただけだから詳細は分からないんだけど……」

「何と!」

 ダイが両頬に手を当て顔を伸ばした。その様子はまさに有名な絵画の「叫び」そのものである。

「でも、これではっきりしたわね」

「あぁ、そうだな」

 ダイの顔が戻った。

「え? どういうこと?」

 分かっていないのはアイラだけのようだ。そんなアイラに優しく説明するように、レエアが口を開いた。

「私とダイの話を照らし合わせると……今日、この施設で爆発事故が起こる。それも死者が出るほどの大事故になる可能性が高い」

 二人に目配せをするレエア。それに応えるようにダイが頷く。

「このことを監視員さんたちに伝えないの?」

 アイラの問いかけにダイが首を振った。

「それはやめた方がいい。話した瞬間に、俺とレエアは拷問部屋行きが確定してしまうからな」

「たしかに。それは絶対に嫌……でもっ! 他の夢能力者には教えた方がいいんじゃない?」

 ダイとレエアを交互に見ながらアイラが言った。レエアは口を歪ませて返答に困っている。一方、ダイはキリっとした表情をアイラに向けている。

「他の夢能力者に知らせるのも控えよう。そもそも他の夢能力者に伝える時間もないし、他の夢能力者たちに広めるほど、監視員たちにバレるリスクも高まってしまう」

「でもそれだと、他の夢能力者さんたちが……」

 途中で言葉を詰まらせたアイラの頭をレエアが優しくなでる。

「他の夢能力者に爆発を伝えることに関しては、私はアイラと同じ意見かな」

 そんなセリフを話すレエアに向かって、ダイは顎を突き出しながら少し睨みつける。

「レエアたちは爆発のことを伝えるべきだと?」

「他の夢能力者にだけね。と、言っても、担当監視員にホールにいるって言っちゃったから……このホールから出ることはできないし、ここにいる数人にしか伝えることができないけれど……」

 レエアの言葉を聞いて、アイラはホール全体を見渡した。広いホール内にはアイラたちの他に、楽しそうにおしゃべりを楽しんでいる女子二人組と、端の方で難しそうな本を読んでいる男の子しかいない。
 あとは、そんな夢能力者たちを見張っている数人の監視員たち。その一人と目が合ったため、アイラは急いで視線をダイに向けた。
 ダイは苦虫を嚙み潰したような顔をしながら口を開く。

「他の夢能力者が監視員に伝えたらどうする? リスクを増やす必要はない。他の夢能力者たちには悪いが……俺はレエアとアイラ、二人が無事であればそれでいい」

 ダイの真っ直ぐな目と力強い言葉が二人を怯ませる。言葉を発せずにいる二人に向かって、ダイはさらに言葉を続けた。

「それに、これはチャンスなんだぞ?」

「チャンス?」

 思わず訊き返したアイラの顔を見て、ダイは右手の人差し指を天井へ向けながら説明をした。

「俺たちの夢、悲願。この施設から脱出するチャンスだろう? 爆発に紛れてこの施設から逃げ出す。上手くいけば外の世界に行けるかもしれない!」

「外の世界……」

 それは憧れの世界、輝いている世界。三人が未だ見たことがない世界──

「外の世界に行こう! 自由をつかみ取るんだよ!」

「でも、監視員さんに見つかったら? 嘘をついて暴力なんだよ? 逃げようとすれば殺されるかもしれない」

 アイラの頭の中は、心配や不安でいっぱいだった。そして何より、二人と離れ離れになるのが怖かった。

「レエアの夢では建物全体が燃えていたんだろう? ここに留まっていても燃やされてしまうだけだ」

 ダイの言うことも理解できる。しかし……やはりアイラの怖いと言う気持ちは揺るがない。

「でも、やっぱり怖いよ……エア姉ちゃんはどう思う?」

「もしも爆発が起こるとするなら……私もこの施設から逃げるべきだと思う」

「エア姉ちゃんまで!」

 これで2対1。レエアが語りを継ぐ。

「たしかに外に出たい気持ちもあるんだけど……私が逃げるべきだって考えたのは、そっちの方が生きられる可能性が高いから。自由を手にする前に、死んでしまったら元も子もないでしょ?」

 首を傾げているアイラに、ダイが「死んでしまったら意味がないってことだよ」と補足した後に言った。

「ただし、せめてこのホールにいる夢能力者には教えてあげよう? みんなもこの施設に閉じ込められて、自由を求めている仲間だと思うから……」

 レエアの言葉を聞いたダイは、「うーん」と小さな唸り声をあげた後に、小さくため息をついた。

「分かったよ。ここにいる夢能力者には知らせよう」

「アイラもそっちの方が嬉しい!」

 ダイは嬉しそうにするアイラを微笑むように眺めた後、右手を開いて前に突き出した。

「こんなところで、自由も奪われたまま死ぬのなんてごめんだ。必ずここから逃げ出すぞ!」

「私ものった」

 レエアも右手を出し、ダイの手の上に重ねた。

「アイラはどうする?」

 二人の視線がアイラに向けられた。
 正直まだ怖さはある。しかし、二人の言い分も理解できるし、外の世界を見たいと言う気持ちも無いわけではない。

 二人が脱出すると言うならば──

「二人がそう言うなら、アイラも!」

 最後にアイラが手を重ねた。これで三人の手が一つになった。

「自由を求めて……必ず脱出するぞ!」

「おー!」

 監視員に聞こえないように、でも三人の決意をより固めるように。三人が重ねた手は高く上げられた。

 その後、レエアとアイラはホールで話をしている女の子二人組に、ダイは端で本を読んでいる男の子に、爆発事故が起こる可能性について各々説明を始めた。

説明を始めてしばらくすると……


【ピンポンパンポン! 10時になりました。自分の部屋へと戻り、今日の学習を始めてください】


 自由時間終了の放送が流れ、ホールにいた夢能力者と監視員たちが部屋に戻っていく。三人は歩きながら近寄ると、最後の言葉を掛け合った。

「いつ爆発が起こっても対応できるように、今日は気を張って生活しよう。次は……外の世界で会おうぜ」

 ダイが二人と目を合わせながら力強く言った。


「絶対に死ぬのはダメだからね」

 レエアの言葉に二人が頷く。


「絶対に三人で──」

「おい、そこの三人! 早く部屋に戻りなさい!」

 最後のアイラの声が、一人の監視員の言葉で遮られてしまった。

 監視員がズカズカと三人の元へ近づいてくる。

 慌てて部屋にホールから出ようとするダイとレエア。そしてその後ろにアイラ。
 ホールから出たら、あとは散り散りになってしまう。脱出前に話すチャンスは今しかない。

 ホールの出入り口のところで、アイラは二人に向けて声を掛けた。


「ダイ兄ちゃん、エア姉ちゃん、またね」


 アイラの言葉に二人が振り向く。そして、三人は手を振り合いながら別れ、それぞれの部屋へと戻って行った。


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