相対論的な場の量子論では1粒子を1点に局在化できない。
相対論的な量子系で、1つの粒子の位置演算子や、その固有状態を構築することは古くから試みられてきました。非相対論的なシュレディンガー場の理論では、1粒子励起状態は下記のように作られています。

これと全く同じ式を、相対論的な場の量子理論でも導入することは可能です。しかし、この「位置の固有状態」は、相対論的変換性を持たないのです。たとえば(1)式の積分の体積素はローレンツ不変にはなっていません。ですから、ある慣性系で(1)式のように1粒子の位置の固有状態っぽいものを作っても、他の慣性系ではそれは(1)式の形の状態にはならないのです。
また(1)式の状態の時間発展にも問題があります。時刻t=0に粒子がx=0にある状態に設定しても、次の瞬間には(t,x)=(0,0)と因果的に結び付かない、図1の青色領域の「位置固有状態」も含んだ重ね合わせ状態になってしまうのです。つまり、もし本当に粒子がx=0に局在をしていると解釈をするならば、この振る舞いは相対論的な因果律を破っていることになります。

したがって(1)式の状態で定義される「位置」は、相対論的粒子の正しい振舞を再現できないのです。
(1)式の方法で構成された「位置の固有状態」で更に問題なのは、局所的物理量の振舞いです。この状態でエネルギー密度のような局所的物理量の期待値を計算すると、粒子が存在する地点に集中したデルタ関数的な分布を示さず、粒子の存在しない領域にも広く分布してしまうのです。つまりエネルギー密度は局在していないのです。これが実は図1の不自然な時間発展の原因でもあります。これらの悪い性質から、(1)式の「位置の固有状態」は物理的なものではないと、多くの研究者は考えています。
一方で、相対論的変換性は、粒子の質量mとエネルギーEを使って(2)式のように変形した状態では満たされます。しかし今度は、位置の値が異なる状態同士は直交しなくなるのです。

また(2)式の状態は、光子のような質量零(m=0)の粒子に対しては定義そのもができません。
実は1粒子が厳密に特定の位置に局在する「本当の位置の固有状態」は、相対論的場の量子論では構成できないことが、既に知られています。粒子(1つである必要はなく、多数でもよい)が、空間のあるコンパクトな領域Ωの中に厳密に局在している量子状態|Ψ〉は、数学的には以下のように定義されます。エネルギー運動量テンソルのような局所的演算子O(x)に対して、|Ψ〉での任意の多点相関関数が、Ωの外では真空状態|0〉での値と一致する場合に、|Ψ〉で記述されるその粒子はΩの中に局在していると判断するのです。

つまり考えている領域の外では、|Ψ〉でのいかなる物理量の期待値、分散、高次モーメント、そして揺らぎの相関が、「無」を意味する真空状態のものと区別がつかないという定義をするのです。これは、Ω領域の外部の観測者にとって、|Ψ〉は真空状態|0〉と物理的に全く区別がつかないという意味になります。この定義のもとで、1961年にナイトは次の論文[1]で、有限個数の粒子を厳密にΩの中に局在させることはできないことを示しました 。
[1] J. M. Knight, J. Math. Phys. 2, 459 (1961).
この結果から1粒子が特定の位置に局在する「位置の固有状態」は存在しないことも分かったのです。粒子の質量を無限大にする非相対論的な極限においてだけ、近似的に粒子の位置演算子やその固有状態を導入できていたに過ぎないのです。
ただ相対論的な場の量子論でも、運動量固有状態ならば1粒子状態は定義できます。その状態では粒子の位置の確率分布は空間全体に広がっており、どこにいるのかはわかりません。では図2のように、そのように空間的に広がっている1粒子状態において、無理やりその1つの粒子の位置を測定しようとすると何が起きるのでしょうか?非相対論的な場合ならば、1点に局在した粒子の状態が、測定後に現れていました。

ところが、相対論的な場の量子論では状況が変わります。小さな空間領域を探索するための測定機の尖ったプローブ部分と、測定される量子場との間の測定相互作用のために、図3のように、膨大なエネルギーが測定機から場へと注入されて、無限個の粒子生成が起きてしまうのです。だから測定後にも局在した1粒子の固有状態は現れようがないのです。

このあたりの事情を知っている人は少なそうなので、改めてここで説明をしておきました。
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