量子状態のウィグナー関数での記述
2025年の数理科学7月号は、量子力学100周年企画として、『量子物理の発展と未来』という特集号になっています。私も『量子情報、エネルギー、時間の矢 ~量子の今後100年へのパースペクティブ~』という小論を寄せさせて頂いております。

その第6章では、量子もつれと時間の矢の関係を述べているのですが、ウィグナー関数も使って、それを説明しています。ただこのウィグナー関数をご存じない方に向けて、ここで補足をしておこうと思います。
まず下記のシュレディンガー方程式の時間反転対称性を第6章では最初に触れています。

この方程式は、下記の変換で不変になっています。


直接代入することによって、変換後のシュレディンガー方程式は元の同じ形になることが確認できます。

以下では、換算プランク定数と光速度を1とする自然単位系で説明します。

波動関数に対応する状態ベクトルに対して密度行列を下記で定義します。

これの位置座標表示で書けば、

となっています。時刻t=0において、時間反転は

となっているため、時間反転後の密度行列は

となります。
つぎに、この密度行列と1対1対応がある、ウィグナー関数を下記で定義しましょう。

この関数を使うと、元の密度行列は

で一意的に復活されるので、量子状態は密度行列でもウィグナー関数でも記述が可能となります。
ウィグナー関数での時間反転も、簡単にできます。時間反転した密度行列に対するウィグナー関数は

で与えられます。そして時間反転は密度行列での転置変換であることから、元の密度行列で、時間反転後のウィグナー関数を書くと

となります。ここで積分変数uを-u'に置き換えてやれば

という関係が得られます。つまり、時間反転はウィグナー関数の引数の位置座標はそのままにして、運動量座標の符号をひっくり返すことに対応しているのです。
ついでに、この波動関数や密度行列に対する量子状態トモグラフィの関係式も紹介しておきましょう。くわしくは、『量子情報と時空の物理【第2版】』(サイエンス社)の付録Aをご覧ください。

まず位置演算子と運動量演算子の線形和で書けている下記の物理量を実験で測定をします。

ここでθは0からπまでの値をとる連続パラメータになっています。右辺第2項の正の定数lは、長さの次元を持っていれば、その値はなんでもOKです。たとえば荷電粒子の場合には、下記記事にありますように、この物理量は粒子に一様磁場をかけることで測定できます。
このθを固定して観測する物理量を決めたら、その確率密度分布は

で与えられます。ここで

という関係とウィグナー関数を使うと

という関係が示せます。(詳しい導出は拙書の付録Aを参照)
そしてすこし計算をすると

という量子状態トモグラフィの関係式が証明されるのです。これを使えば、この確率分布P(θ,a)を実験で計測することで、無限次元の複素ベクトル空間の元である波動関数も、全体の位相因子を除いて、決定することは可能となるのです。
いいなと思ったら応援しよう!
サポートありがとうございます。