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反重力はCERNの実験で否定をされたのか?

「誰もが憧れた反重力が存在しないことが確定 反物質も重力の方向に落下することを実験で確認」というニュースが流れていました。欧州にある素粒子実験研究所であるCERNにおいて実施された実験についてでした。反水素原子にかかる地球の重力が、普通の物体のように引力であったという報告なのですが、この実験が反重力全般を否定したと勘違いをしたニュース内容でした。

反粒子はなじまない対象だと思うのですが、電子や陽子や中性子には反粒子と呼ばれる粒子が存在しています。反粒子の電荷の大きさは正粒子の電荷の大きさと同じなのですが、符号が反転しているのです。そして、たとえば、負の電荷をもった電子と、正の電荷をもったその反粒子である「陽電子」がぶつかると、対消滅して光子になります。今回は、陽電子と反陽子から作られる反水素原子を用いた実験でした。

この実験前から分かっている重要な事実は、反粒子の質量はその正粒子の質量と符号を含めて同じことです。陽電子の質量は、電子と質量と同じですし、同様に、反陽子の質量も、陽子の質量と符号を含めて正確に一致しています。この前提で、アインシュタイン方程式を解けば、反物質と物質の間の重力は、常に引力であり、反発する斥力、つまり反重力にはなりません。つまり、反物質に反重力が作用しないことは、物理業界の暗黙の了解になっています。「反物質は重力に対しても通常の物質と逆の振る舞いをするのではないか?」という可能性は、アインシュタイン方程式が正しいかぎり、起き得ません。

では反水素原子の重力を測定した、今回の実験の意義はどこにあるのでしょうか?それは、等価原理の検証にもなる点です。アインシュタインが一般相対論を作るときに指導原理として使った、この等価原理とは、「自由落下している物体には重力という力は働いていない」という法則を指しています。自由落下に逆らって、ある観測者がじっとある高さに留まるには、他の力による加速が必要です。その加速する観測者が、自由運動(自由落下)する物体を見ると、その物体には重力がかかって見えるわけです。この考え方では、どんな物体であろうと、重力がかかる向きは同じになります。それは反物質でも同じです。ですから、反物質で実際に重力を測定することは、元の等価原理の妥当性の検証になっているのです。これには物理として重要な意義があります。一般相対論の基礎が、実験でどのくらいの精度で成立をしているかを知ることなのです。もし少しでも等価原理が破れていれば、アインシュタイン方程式は、厳密な物理法則ではなくなります。

また反物質を含む様々な物体の重力を精密に測定する実験の動機としては、「第5の力」の探索というものがあります。この第5の力とは、電磁気力、弱い力、強い力、重力の4つの力の次に観測されるかもしれない力のことです。具体的には、一般相対論から拡張された重力理論に出てくる、まだ発見されていない場が媒体となって伝える力を指しています。たとえば超弦理論などでは、「ディラトン」という名前のスカラー場が出てくるモデルもあります。このディラトン場も物体間の力を生み出しますが、これも第5の力の候補です。ディラトン場は、重力場とは異なる相互作用を物質と持てますので、その第5の力は万有引力からのずれとして実験で観測可能かもしれないのです。ただ普通の理論では、物質のディラトン力と反物質のディラトン力は同じになりますので、特に反水素原子の重力実験でこの第5の力が発見されるとは、多くの研究者は思っていません。しかし「本当にそうか?」と実験で確かめることには、物理として大きな意義があるのです。もし差が見つかったら、大発見ですから。

「反粒子の重力は、正粒子の重力と逆向き」という、今回のニュースの「反重力」の話は標準的ではないです。一般相対論の意味での反重力は、正エネルギー物体と負エネルギー物体の間に働きます。ただ古典的状況では、反粒子も含めて、全ての物質のエネルギーは正ですので、重力は万有引力になっています。しかし、量子効果で出てくる負エネルギー密度の励起は、正のエネルギーの物体と反発する「反重力」を持つと考えられています。ワープドライブなどの「反重力エンジン」でも、反粒子の重力ではなく、普通はこの量子効果での負エネルギー密度を基にして考えられています。ただこの負エネルギー密度励起の反重力の観測は、これまで達成されていません。そして、今回の実験でも、負エネルギー密度による反重力を否定した結果になっていません。


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