フーリエ変換を使わなければ、エネルギー測定時間と誤差には不確定性関係は存在しない。
エネルギーと時間の不確定性関係は、よく誤解されています。たとえば有限時間でエネルギーの値を測定しようとすると、測られるエネルギーの誤差はゼロにできないし、また時間をゼロにすると誤差は発散すると、現在でも思っている方もいますが、それは間違いです。量子力学では有限時間でエネルギーを精密に測定できる様々な測定が、実際に存在しているからです。
たとえばz方向にかけられた一定磁場B中のスピンのエネルギー測定は一瞬で可能です。この場合のエネルギー(つまりハミルトニアン)は下記で与えられます。
$$
\hat{H}=gB\hat{\sigma}_z
$$
ここでgは相互作用の強さを表す定数です。このエネルギー固有状態は、スピンz軸方向のアップ状態|+>とダウン状態|->です。
スピンの一般的な重ね合わせ状態において、このスピンz軸方向成分の測定は、そのままエネルギー測定にもなっています。そしてこの測定は、図1のようなシュテルン=ゲルラッハ装置などで実現できます。一様磁場の中のある場所にだけ、強い非一様磁場をもつこの測定装置を置き、それにこのスピン粒子を入力するのです。この非一様磁場は装置の内部だけにあるとし、その外部には元々あった一様磁場Bだけがあるとします。

問題は、エネルギーを測るこの実験にかかる時間です。入力するスピン粒子の速度を大きくしつつ、かつ非一様磁場も強くすれば、任意に短かい時間で、精密にスピンがアップ状態かダウン状態かが読み取れます。ですから、エネルギーの測定時間はいくらでも小さくできるのに、その誤差も同時にいくらでも小さくできるのです。これは、エネルギーの測定時間とその誤差の間には不確定性関係がないことを意味しています。
なおこのエネルギーの測定では結合定数gの大きさも含めて、ハミルトニアンの形が決まっているという前提です。もしハミルトニアンが不明な系の場合には、まず有限実験時間内での量子プロセストモグラフィ法を使って、そのダイナミクスでのハミルトニアンを実験で精密決定をしておきます。このハミルトニアンの形の測定過程ですら、そこで測られる物理量は各時刻でのスピンの3方向成分なので、原理的な時間制限は存在しません。
測定時間とエネルギー誤差の間に不確定性関係があると思いこんでしまったいる人は、たとえば下の(1)式のようにマイナス無限大からプラス無限大の時間の間に変化する状態密度行列を用意してから、それを時間的にフーリエ変換して、周波数のスペクトラムを調べるイメージに固執しているのだろうと思われます。
$$
\hat{\rho}(t)=\frac{1}{\sqrt{2\pi \hbar}}\int^\infty_{-\infty} \hat{F}(E) exp\left( -i\frac{Et}{\hbar} \right)dE (1)
$$
この密度行列を(2)式のように(-T,+T)の間の有限時間だけで逆変換しても、もちろん元のスペクトルは際限されません。これは周波数やエネルギーの値に誤差があることを意味します。
$$
\hat{F}(E)\neq \frac{1}{\sqrt{2\pi \hbar}}\int^T_{-T} \hat{\rho}(t) exp\left( +i\frac{Et}{\hbar} \right)dE (2)
$$
この場合にはΔt=2Tに対して、ΔEは
$$
\Delta E \geq \frac{\hbar}{2\Delta t}
$$
という不確定性関係を確かに満たします。ただこれはこの特別な測定に限ります。この特殊な場合の結果を根拠なく一般化して、エネルギー測定時間と誤差の間に、ハイゼンベルグ的な間違った不確定性関係を想定しまっているだけなのだろうとおもいます。
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