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【短編集‐花の冠】第六話『沈黙の図書館』


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沈黙の図書館


丘を越えた先に、崩れかけた建物があった。
風のない谷。枯れた木々。すすけた石の壁。

「これ……なに?」
僕が聞くと、大男が答えた。
「図書館。昔、言葉を残すための場所だったらしい。
 帝国が、そこを守っていた人々ごと焼き尽くした」

「どうして?」

「統治に過去の歴史は不要なのだ」

そこにはもう何も残っていなかった。
柱は折れて、棚は砕けて、
本はすべて、黒い炭のかたまりになっていた。

それでも僕たちは何かを探し、
焼けた床を踏みしめながら、
建物の奥へと進んだ。

一番最後の部屋。
そこにはたくさんの骨が重なっていた。
まるで何かを守るように。

僕が近づくと、骨が崩れた。
その下の床に、僕はなぜか違和感を感じた。

焦げていない。
妙に灰が盛り上がっている。

しゃがみこんで手で払うと、そこは何の変哲もない床だった。

「ここ、変じゃない?」

僕の横で、大男が無言でうなずいた。
大男は近くにあった石を持つと、その床にたたきつけた。

砕けたその床の下には、鉄の輪が付いた鎖があった。
大男がその鎖を引くと、奥の暖炉の床が開き、
そこに地下に通じる石の階段が現れた。

地下の壁は謎かぼんやりと青く光っていた。
埃っぽいのに、息苦しくない。
誰かが今でもそこを守っているようだった。

そこにはたくさんの棚があり、
古びた巻物や、本が並んでいた。

でも、僕たちに読める文字は一つもなかった。

棚の中の一つの本が光っているように見えた。
まるで僕に合図を送っているような気がした。

その本を開くと、そこには絵があった。
冠の上に咲く花。
子どもと大きな男が手をつないで歩いている。
次を開くと、墓の上に緑色の刃のない剣の柄があり、
その次を開くと、焚火の炎が月に向かって、灰を巻き上げていた。
僕の手は止まることなく、次へ次へと開いていった。

最後の頁には、本に囲まれた空間の中で、
本をのぞき込む少年の絵があった。

僕は続きが気になって、隣の本を取り、中を開いた。

でも、そこには何も書かれておらず、
ただ白い頁が続いているだけだった。

「その先は、風に聞こう」
大男は、僕の手から本を取り、元の棚に戻した。

「俺達には必要がないのだろう。
 違う明日を持つ者たちに、この場所を託そう」

僕もそれがいいように思った。

僕たちは、何も持たず、階段をのぼった。

地上に戻ると、大男は鎖をもとに戻し、灰をかぶせた。
暖炉の中の階段は見えなくなった。
まるで、そこに何もなかったかのように、
図書館は再び沈黙を取り戻した。

僕は骨を集め、図書館の入り口に簡単に墓を作り、
できるだけたくさんの花を敷き詰めた。

丘の上まで来ると、風が吹いていた。

「あの本の続きはどうなるのかな?」

大男は僕に向かって何かを言ったけど、
その声は風にかき消され聞こえなかった。

僕たちはまた歩き出した。
風の向こうへ。
まだ、知らない景色のほうへ。

《終》


➡第七話 風の名 5月7日 12:00



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