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【短編集‐花の冠】第五話『仮面の村』


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仮面の村


霧の中に、村があった。
地図には載っていない場所。

村の入口には人影がひとつ。
白く笑った仮面をつけたまま、少年と大男を無言で招き入れた。
たくさんの人がいるのに、そこには静けさしかなかった。

村の者たちは皆、仮面をつけていた。
白く、滑らかな仮面が笑っていた。
誰一人、声を出さなかった。

「……変な村だね」少年が言った。

大男は落ちていた仮面を拾い、呟いた。
「昔、聞いたことがある。“笑みの村”ってやつだ。
泣いたり叫んだりした者から殺された。
だから仮面で笑い、黙って生きた。
……ここだったのかもしれんな」

その仮面の裏側には、涙の跡が残っていた。

翌日、少年は仮面の子どもたちと遊んだ。
声はなかったが、笑っているのが分かった。

夕暮れ、ひとりの子が白い花を差し出し、少年に深く頭を下げた。
声はなかったが、花が「ありがとう」と言っていた。

その夜、少年は火を起こし、仮面の者たちを広場に集めた。
そして、花を一人ひとりに手渡しながら、笑顔で「ありがとう」と言った。

やがて、一緒に遊んだ子どもに近づき、花を渡し、こう言った。
「一緒に、踊ろう」

子どもはうつむき、ゆっくりと仮面を外した。
その顔には涙の跡と、苦しそうな表情があった。
涙の跡をぬぐった後、その子は仮面を焚き火へと放った。

ぱちり、ぱちり、と音を立て、仮面が燃えた。

ほかの子も、仮面を外し、火に投げた。
やがて大人たちも、すべての村人が次々と仮面を炎にくべていった。

赤く燃え上がる炎のなか、少年が歌を口ずさんだ。
子どもたちがそれを真似て歌い、大人たちも輪になって、踊った。

仮面のない顔の、涙の跡をぬぐって。
気が付けば、笑顔と笑い声が広場に響いていた。

その声を聴きながら、少年は眠りに落ちた。

翌朝、少年が目を覚ますと、村人は消えていた。
目の前にはたくさんの白い花があった。

「村人たちは、花を置き、深く頭を下げて、静かに消えていったよ」

少年は立ち上がり、村を見渡した。
仮面も人影もなかった。
そこには、朽ちた村があるだけだった。

「……なぜ、消えたの?」

「村は反乱軍のアジトになった後、帝国に滅ぼされた。
 この村は、もうとっくの昔に地図から消えていた」

少年は花を握りしめ、大男に聞いた。
「……なぜ、人は奪い合うの?」

大男は答えず、地面の花をそっと摘み、少年の前に差し出した。

「……なぜ花は美しく咲こうとするのか?
 美しければ、摘み取られるだけなのに」

少年はその花を見つめ、つぶやいた。
「……僕も、それを摘み取ったんだね」

大男は何も答えず、ただ立ち上がり、歩き始めた。
新しい風の吹く方へ。

少年はその背を追いかけた。

振り返ると、村の跡地には、
ただ一本の白い花だけが、大地に立ち揺れていた。

少年はもう一度、それに向かって深く頭を下げた。

朽ちた村を抜けて、
霧の晴れた丘を越えて

風の向こうには、まだ名もない景色が広がっていた。

《終》


第六話 沈黙の図書館 5月6日 12:00



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