見出し画像

【短編集-花の冠】 第八話『歯車』


<< 前話 【一覧】 次話 >>


歯車


世界の奥に、
動きを忘れた部屋があった。

風は吹かず、
音もなく、
闇だけが静かに満ちている。 

本は頁を閉じたまま眠り、
壁にかかった時計の針は、ずっと、同じ時を指していた。

誰もいない。
話す者も、動く者もいない。
時間の隙間に置き忘れられた部屋。


ある日、
時計から「カチリ」という音がした。

それがなぜだったのかは、誰にもわからない。

けれど、止まっていたように見えた空間でも、
時間は確かに生きていた。


「カチカチカチ……」

かすかな音の歯車が、
部屋の空気をふるわす。

頁が一枚、また一枚と開かれ、
針が、静かに、時を刻みはじめる。

窓が開き、
風が流れ、光が満ちた。


誰も知らない場所で。
誰も気づきもしない中、
それは動き出した。

世界のどこかで、
光と闇が、静かに呼吸を始めた。

歯車が動いた理由を、誰も知らない。
その先に何が待っているのか、
まだ誰も気づいてはいない。

ただひとつ、
「世界はもう、止まったままではいられない」

それだけを、
その部屋は、静かに告げていた。

《終》


➡第九話  夜の橋-サリム- 5月9日 12:00



TALESでも連載中なので、そちらにも♡ください


ギネス挑戦中!
リレーエッセイ「テーマ:チャリティ」


現在、中編小説『コントラクター』連載中!


いいなと思ったら応援しよう!