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作出した系統の成果は10年後以降

『ポテカル』2025年7月号(No.159)より転載

保坂和良(国立大学法人北海道国立大学機構帯広畜産大学バレイショ遺伝資源開発学講座特任教授)=文

世界人口の増加を支えるために主要作物の総生産量は増え続け、単位面積当たり収量も増え続けている。日本のバレイショ生産は戦後急速に増加し、収量も10a当たり1tから2000年には3.5tくらいまで増加したが、それは栽培(施肥や機械化)や防除(無病種イモの供給体制の確立や農薬)技術のおかげである。「男爵薯」や「メークイン」のように100年以上も前の品種がいまだに主要品種であるのだから、遺伝的改良(育種)が収量増に貢献したとは言いがたい。青果用バレイショからでん粉原料用、ポテトチップ、フライ、サラダ、コロッケなど、それぞれに向く品種、そしてジャガイモシストセンチュウやそうか病に強い品種の育成が優先され、収量性は二の次になってきた。これまでの育種は課題解決型の育種だったのである。2011年にバレイショゲノムが解読されたが、その後の研究からはむしろバレイショゲノムの複雑さを思い知らされるばかりである。

画期的な品種を生み出すためには大きな遺伝的多様性が必要である。日本の品種も外国の品種も元々は限られた同じものに由来しているので、外国品種をいくら集めてきても多様性の拡大にはつながらない。バレイショは他の主要作物に比べ野生種の数が多く、莫大な遺伝資源を持つ。これを効率良く利用するため、2013年にバレイショ加工メーカーや生産者団体の寄附金をもとに、寄附講座が帯広畜産大学に設立された。これを母体とした「バレイショ遺伝資源開発学研究室」は、アンデス原産地の栽培バレイショや近縁野生種を利用して新規親系統を作出し、育種家に供給する役割を担っている。私たちが作出した系統がどの程度、新品種に貢献できたか、それがわかるのは10年後、あるいは20年後のことである。

一方、私が1998年に発見して公表したSli 遺伝子は二十数年経ってバレイショのF1品種という形で日の目を見るようになってきた。オランダの民間会社「Solynta」が最初のF1品種をケニアで栽培し、2024年には日本でも試験栽培を行なっている。米国では州立大学が結集し、「The Potato 2.0 Project」としてF1品種の開発を行なっている。中国も、ゲノム情報を活用し、大がかりにF1品種の開発を進めている。F1品種は種イモからではなく、種子をまいて栽培する。バレイショの種子はゴマ粒くらいの大きさで、冷蔵庫に保管すれば30年くらいは保存できる。いつでも欲しいときに冷蔵庫から取り出して使える。巨大な種イモ貯蔵施設や移送手段の心配がない。種子はウイルスを含まないので、これまでの原原種から始まる無病種イモ生産体系が大きく変わることになる。そうなれば、冷涼地の北海道でF1品種の採種を行ない、世界中に種子を売り歩くような新たな種子産業が始まるかもしれない。

世界初のメキシコ産野生種Solanum pinnatisectumと栽培種の雑種。新たな疫病抵抗性遺伝子を品種に入れるための元となった。

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