POTATO BUSINESS SCHOOL-June 2025 第2回 育種・種イモ編
カルビーポテトは2025年6月中旬、オランダのポテトビジネススクールに3人の社員を派遣しました。このスクールは、世界のばれいしょ産業関係者に実用的な知識を提供する場として毎年6月と9月に開講されているものです。ここでは、4日間のスタンダードコースに加え、市場視察の内容を3回に分けて取り上げます。
新品種を年に2~6品種導入するAGRICO
AGRICO社は、ばれいしょの育種から生産、販売まで一貫した事業を手がける企業です。育種に関する品種改良プログラムは次の二本柱から構成されていました。
①市場向けの新品種を生み出す「生産プログラム」
②野生種や近縁種を用いて新しい形質と遺伝的多様性を導入する「予備育種プログラム」
初回の交配から市場導入まではおおむね10~12年かかります。長期間に及ぶため、リスク管理や需要予測が必須です。品種登録後には30年間の植物品種保護権が与えられます(注:日本は25年間)。
カテゴリーは青果、市場、加工の三つに区分され、さらに15のサブセグメントに細分化したうえで、市場要件に沿った交配計画が策定されていました。個々の分野で求められる塊茎の形状やサイズ、加工適性をその交配計画に盛り込みます。市場ニーズを常にチェックしながら柔軟に対応し、何か変化があった場合はたとえ育種がスタートしていても調整して反映させるそうです。こうした動きを詳細に記録しておくことも重要とのことでした。
交配・選抜では、補完的な形質を持つ父親となる花粉親と母親となる母本を用いて交配し、翌シーズンからクローン生産や選抜が行なわれます。選抜基準は、塊茎の形状や大きさ、収量、耐病性、品質といった要素が挙げられます。これらは当社とも変わりありません。
・生産プログラムでは年間約450の交配を実施
・初年度の選抜率は15%、2年目以降は約25%
・22万5,000クローンから2~4品種を最終登録
実際の交配では、一つの花粉親に対して四つの母本に手作業で授粉します。花が咲かないことには育種できないため、開花を促進するのにトマトの根に接ぎ木する技術を使っていました。

また、光環境を制御し、塊茎の形成を誘導しています。野生種は短日条件に適用しており、オランダのような日照時間の長い長日条件下では塊茎が形成されないことが起きてしまうからです。
選抜の評価基準は以下のとおりです。
・主評価項目:収量/成熟度
・補助評価項目:均一性/塊茎の形状/皮の性状/色
・品質検査:水分量/調理用途/フライ品質/乾物分布など
・栽培特性:二次成長/ひび割れなど
・土壌:粘土質/砂質
・気候:沿岸/内陸/南欧/北アフリカ
・耐病性:疫病/ジャガイモYウイルス/葉巻病/線虫抵抗性
干ばつ耐性や収量を左右するような遺伝子は複雑に絡み合っているものです。何か一つの機能を付与しようとすれば一つがなくなるといったこともあり、育種の難易度は高いといえます。
これらの形質がきちんと導入されているのかを確認するため、栽培2年目のクローンを対象にDNAマーカー試験を行なっていました。サンプルテストは塊茎ではなく、葉が対象で、その数は年間約1万に上るそうです。収穫前に試験結果を出し、選抜判断を実施します。こうした過程を経て、遺伝子側からも確認することで各種の耐性遺伝子を持った新品種を年に2~6品種導入しているとのことでした。
新品種を市場に導入する過程では、各国の圃場でデモンストレーションを開いたり、毎年11月に新品種展示会を催すことで周知しているようです。
なお、真正種子(True Potato Seeds)は2系統の交配によって作られるハイブリッド種子であり、通常は2倍体で生産されることから育種しやすいです。4倍体品種よりも2倍体品種のほうが親から子に伝わる遺伝情報が単純なことによります。ただ、一般的な4倍体品種よりも収量が少ない傾向があります。また、真正種子の栽培では育苗しなければならず、栽培に労力がかかって実用化にはほど遠いです。これがうまくいけば耐暑性などの形質を導入しやすいと考えられるため、今後好転すれば可能性は十分にあるとのことでした。
アフリカに進出中のSolana
ここ10年間、ばれいしょの輸出入が停滞する事態が起きているようです。アルゼンチンや中国、インドといった輸入に依存していた国々では、食料安全保障の観点から自国内での加工能力の拡大に向けた投資が盛んに行なわれています。その点、アフリカは黎明期にありますが、ケニアでは小規模ながら加工企業が拡大している状況だそうです。それに対して育種会社のSolanaは、現地加工向けに各国に品種を適応させているところでした。
フレンチフライ用品種は、世界輸出の大半を占める大袋商品をはじめ、ファーストフード向け(約3分の1)、スナック向け(約5%)に分かれます。品種特性としては、長楕円体で均一な乾物分布や低糖分が求められます。これらの条件を満たすことで、歩留まりや安全性、風味の向上に寄与するのです。製造工程でのブランチング(湯通し)後の変色防止や中立な風味が重要であるほか、ウェッジカットやらせん状のツイスターカットなどの加工に対応できる品種が望まれているとのことでした。
EUよりも厳しい検査基準でオランダ産種イモの輸出競争力に寄与するNAK
NAKはオランダの公的な検査機関です。ばれいしょの品質管理や検査事業で、独立した第三者検査機関や認証機関としての位置づけになります。
種イモの圃場検査や生産物検査を実施しています。対象項目はウイルス病や病害の検査、ジャガイモシストセンチュウの有無を調べるといったことです。EUの基準よりも厳しいため、NAKに認証されたということがそのまま高品質として対外的に見られるそうです。
同国では、基本種の段階から一般圃場で生産されています。そのため、生産者はNAKの検査をクリアしなければなりません。
大元のPrebasicは、日本でいうところの培養苗やミニチューバーに当たります(表1)。

基本種の生産が5年にも上るところが大きな違いです。その基本種の生産から種イモ(採種②)に至るまで9年を要しますが、国際的にも高い評価を受けているNAKが検査・認証していることが、オランダ産種イモが輸出市場で競争力を持つ一因になっているようです。
種イモ生産者訪問
①V.O.F GEBB,INK
【概要】
・種イモの作付面積は65ha。
・12品種を手がけ、主にPB2とPB3(日本の基本種に相当)を生産。
・4月中旬に播種し、7月上旬からの収穫では作業をAGRICO社に委託。
ha当たり3~3.5tほど麦わらが存在するとアブラムシ類が混乱し、ウイルス病の影響を抑えられる技術があるそうです。畝間に大麦を栽培していました。それとともに、植え溝にシリコンを散布して葉を強化し、アブラムシ類の侵入を低減する技術も行なっていました。ウイルス感染株の抜き取りは目視が中心になり、従事労働者は5人中4人が60歳以上だそうです。過去に種イモを生産していた人などになります。
AGRICO社による収穫後は自分たちでの選別・保管が行なわれ、12月25日から4カ月間(最低100日間)、Restrain社製装置でエチレン処理が行なわれます。この処理は芽数の増加が目的です。近年、AIとカメラを用いた選別機を導入し、手作業への依存度の低減が期待されているそうです。それに伴って各ロットのデータがひもづき、トレーサビリティで品質保証が担保されることになります。
②COMBINATIE Douma Moltslag
【概要】
・種イモの作付面積は200ha。
・750tを貯蔵できる部屋を四つ構え、Restrain社製装置でエチレン処理を実施。
H2L社製異常株自動判定機で抜き取り作業の実証試験を8戸の生産者で実施しているそうです。24時間の無人走行が可能で、GPSと連携してウイルス罹病株の位置を記録できるものになります。ディーゼルと電気のハイブリッド駆動で、毎時1テラバイトのデータを収集・生成できるとのことでした。
③Mrs. Van Tiburg
【概要】
・種イモの作付面積は40haで、PB1~4を生産。
・伝統的に男の世界のオランダ農業のなか、女性の取締役が存在。
抜き取り用カートは3人乗りで、4畝を対象にします。座席が低く、草丈があれば座ったままでも抜き取れます。最近は、1,000ボルトの高電圧・200アンペアの高電流の電気を通して雑草を死滅させる機械の開発が進んでいるそうです。
圃場検査は生育期間中に3、4回とのことでした。日本では基準を満たせなかった場合はその影響が自分の圃場だけではなく、地域に波及することもありますが、オランダではそれはありません。一筆全部とかもなく、柔軟に対応していました。
AGRICO社の基準はNAKよりも厳しく、その基準を満たせばかなりの利ざやのインセンティブが得られるそうです。そのため、NAKの基準をクリアするのは当たり前という認識でした。
土質はさまざまで、暗渠はありますが、下層の砂質の程度によっては十分な効果が期待できないとのことでした。かん水については1.5ha当たり8時間で10~12mmの能力があるそうです。対象となる高塩分の干拓地圃場へのかん水に際し、過去に水の過剰使用で制限されたことがあると切実な背景を述べていました。(つづく)

