AIに「教え込む」ことは、自分の思考を資産にすること

ChatGPTやClaudeを使っていると、「AIに文章を書かせる」という言い方をよく聞く。

でも、僕自身が感じているのは少し違う。

AIが急に自分らしい文章を書けるようになったわけではない。これまで僕が口で話してきたこと、考えてきたこと、何度も説明してきたことを、少しずつテキストとして残してきた。その蓄積があるから、今はそのテキストを土台にして話せるし、記事にも動画にもできる。

つまり、AIを使って発信しているようで、実際に積み上げているのは「自分の文脈」だと思う。

AIは便利だ。しかし、こちらの考えや経験を渡さなければ、返ってくるのは平均的で、どこかで読んだような文章になりやすい。

逆に、自分が何を見て、何を考え、どこに違和感を持ち、何を大切にしているのか。それが残っていれば、AIは単なる文章作成ツールではなくなる。自分の過去の思考を呼び出し、整理し、次の発信につなげる相棒になる。

「AIに学習させる」は、モデルを育てることとは少し違う

ここでいう「学習させる」は、AIそのものを再訓練するという意味ではない。

日常的な使い方で重要なのは、自分に関する情報を、AIが参照できる形にしておくことだ。

たとえば、

  • これまで口頭で話した内容

  • 自分が大事にしている判断基準

  • よく使う説明やたとえ

  • 過去に書いた記事や台本

  • 失敗したこと、そのときに学んだこと

  • 事実確認に使う一次資料やリンク

  • 自分らしい言い回し、逆に使いたくない言葉

こうしたものが残っていると、毎回「私はこういう人間で、こういう考え方をしていて」とゼロから説明しなくていい。

発信を続ける人にとって、これはかなり大きい。

文章を書く時間が短くなるだけではない。自分の考えがぶれにくくなる。過去の自分が何を言っていたかも確認できる。動画、note、X、ブログなど、媒体が変わっても、根っこにある考えを使い回せる。

僕が溜め込んできたのは「完成原稿」だけではない

価値があるのは、きれいに完成した記事だけではない。

むしろ、口で話した途中の考えや、「まだうまく言葉にできないけれど、ここが気になる」というメモの方が大事なこともある。

完成原稿だけを残すと、結論しか残らない。

しかし途中の会話には、なぜその結論に至ったのか、何に引っかかったのか、どんな言葉で説明しようとしていたのかが残る。そこには、検索しても出てこない自分の材料がある。

僕の場合、口頭で話した内容をChatGPTやClaudeに残してきた。今こうして作っているコンテンツも、その蓄積をテキストベースにして、改めて話している部分がある。

これは、AIに全部を任せている感覚とは違う。

過去の自分が話したことを、今の自分が取り出して、使える形に直している。その作業をAIが手伝っている。

だから、AIが自分の代わりに考えているのではない。自分の考えを、忘れずに、使える形で保管していると言った方が近い。

溜め込むべきものは、5つに分けると扱いやすい

何でもかんでも会話に残せばいいわけではない。後から使うためには、ある程度分けておいた方がいい。

1. 自分の判断基準

「自分は何を重視するのか」を残す。

たとえば、発信であれば、

  • 事実と意見を混ぜない

  • 一次資料に当たる

  • 具体的な当事者や制度の話から入る

  • 分からないことを、分かったふりをしない

  • 読者が次に確認できる資料を残す

こうした基準は、毎回の原稿に全部書かなくてもいい。しかしAIに文章の相談をするとき、土台として渡せるようにしておくと、出力の方向が変わる。

2. 自分の実体験

実際に見たこと、聞いたこと、失敗したこと、迷ったこと。

これは特に重要だ。

一般論はAIでも書ける。でも、「自分はここでこう迷った」「このやり方ではうまくいかなかった」「このとき初めて違和感に気づいた」という材料は、自分にしか出せない。

AIに書かせた文章が薄く感じるとき、多くの場合は文章力の問題ではない。材料が足りない。

3. よく使う説明

同じテーマを何度も扱う人ほど、説明を資産にした方がいい。

制度の仕組み、背景事情、よくある誤解、読者から来やすい質問。毎回ゼロから作るのではなく、一度説明した内容を育てていく。

もちろん、数字や制度、出来事は更新が必要だ。だからこそ、「いつ時点の情報か」「何を根拠にしているか」も一緒に残す。

4. 自分の言葉と語り口

使いたい言葉、使いたくない言葉も、立派なコンテキストになる。

たとえば、抽象的な言葉でごまかしたくない。過剰に煽りたくない。断定できないことは断定しない。読者を置いていく専門用語は避ける。

こうした感覚は、単発のプロンプトだけでは再現しにくい。過去の原稿や会話の中に残しておくことで、少しずつ自分らしい言葉として使えるようになる。

5. 根拠と未確認事項

AIに渡す情報は、「全部が事実」として扱ってはいけない。

確認済みの事実、自分の経験、自分の評価、まだ確かめていないこと。この4つを分けて残しておく。

この整理がないと、AIがそれらを滑らかにつなげてしまい、意見が事実のように見えたり、仮説が断定になったりする。

AIを使うほど、材料の整理が必要になる理由はここにある。

実際の流れは、「話す → 残す → 整える → また使う」

難しい仕組みは要らない。まずはこの順番で十分だと思う。

  1. 思いついたことを口で話す
    うまくまとまっていなくていい。自分が何に反応したのかを残す。

  2. 文字にする
    音声の文字起こしでも、AIとの会話でもいい。後で検索できる形にする。

  3. 四つに分ける
    「確認済みの事実」「自分の経験」「自分の評価」「未確認の論点」に分ける。

  4. テーマごとに保管する
    たとえば、AI活用、政治、教育、働き方、資産形成など。後で取り出せる場所に置く。

  5. 新しい発信の前に渡す
    記事や動画を作る前に、関連する過去メモをAIに渡す。「今回のテーマでは、この考え方とこの経験を土台にして」と指示する。

  6. 完成後の修正理由も残す
    「この表現は自分らしくない」「この順番では伝わらない」と直したなら、その理由も次回のための材料になる。

この循環ができると、コンテンツを一本出して終わりではなくなる。

一本の記事、一本の動画、一本の会話が、次の発信を少し楽にしてくれる。

会話履歴だけに預けない

AIとの会話は便利だが、そこだけを保管場所にするのは危ない。

会話履歴やメモリー機能は、仕様が変わることもある。探しにくくなることもある。別のAIを使いたくなったとき、積み上げたものをそのまま持ち出せないこともある。

だから、AIに渡した内容のうち大事なものは、自分の手元にも残しておいた方がいい。

ノートアプリでも、テキストファイルでも、クラウドのドキュメントでもいい。大切なのは、特定のAIに預け切るのではなく、自分が原本を持つことだ。

AIは入れ替わるかもしれない。でも、自分の経験や判断基準は、これからも使い続ける。

AIに依存するのではなく、自分の土地を耕す

AIを使うことに、どこか不安を感じる人もいると思う。

自分で考えなくなるのではないか。AIっぽい文章になるのではないか。自分の言葉が薄くなるのではないか。

その不安はもっともだと思う。

ただ、AIに何も渡さず、出てきた文章をそのまま使うなら、その不安は現実になる。

一方で、自分の経験、判断、根拠、言葉を残し、それを材料としてAIを使うなら、話は逆になる。自分の考えを何度も掘り起こし、整理し、別の形で届けられるようになる。

AIに「教え込む」とは、AIを自分のコピーにすることではない。

自分が積み上げてきたものを、自分の手元に残し、必要なときに取り出せるようにすることだ。

発信を続ける人ほど、文章を書く前に、自分の文脈を溜め込んだ方がいい。

その蓄積は、次の原稿を早くするためだけのものではない。数か月後、数年後に「自分は何を考えてきたのか」を取り戻すための資産になる。

過去記事を整理してAIに渡す具体的な手順は、過去記事をそのままAIに渡さない——文脈の棚卸しで残すもの・捨てるもので実践しています。


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