【小説】めんこい座敷わらし咲く #1 『京都西大路工場 漂流』
京都では桜が咲いていた。
まだ寒い四月の朝だった。
僕はあちこちが破損した木製のパレットに腰掛けていた。
なんだか、これからどっかに漂流していく感覚だったよ。
雪の降る舞鶴港だった。
ミヤネという銀縁メガネの年配で、長身の男が、こうもり傘をさして僕を見送りに来た。
顔が判然としない。
ミヤネは僕の上司だというけど、僕はいつこの男の部下になったのか記憶はない。
ミヤネは途方もないことを言った。
僕はこれから、ロシア船籍の古い貨物船に乗って、樺太からウラジオストクに回り、鮭缶、マス缶を買い付けに行かねばならないのだという。
なんで缶詰なのか?そんな仕事があるのかどうか僕は知らない。
工場の屋内広場には始業前で、まだ水銀灯はともっていない暗がりだった。入り口のシャッター扉から少し光がさした。
机も椅子も持たない作業員たちが集まり、巨大な年代物の火炎をあげるストーブに群がり、暖を取っていた。
両脚がなく、義足をつけている作業員がいて、何やらろれつの回らない声を出し、広場を跳ねていた。
僕の座ったパレットの隣に40代後半と思われる女がいた。女はコンパクトを広げて、せわしなく化粧をしていた。
厚化粧で、口紅を塗りたくっていた。僕と目が合うと口角をあげて、微笑んだ。
昔、映画ラストエンペラーで見た西太后みたいな感じだ。
僕は「わー!」と叫んだ。
僕は驚くとすぐ口に出してしまう。
怪奇映画を観たら、映画館の中でも「わー!」と叫ぶのは僕くらいなものだ。
西太后は「あらどうしよう!私!まあ大変!」と言って逃げて行った。
その広場に集まったのは、朝礼のためであり、僕は新人として紹介された。
僕はか細い声で名前を言い、よろしくお願いしますとだけ言った。
拍手が沸き起こった。
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