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【創作】路地裏の不思議な本屋さん

あれは夢だったのか、幻だったのか、真実はわからない


私は変わり映えのしない毎日に疲れうんざりしていた。
あの日 普段は決して通ることのない路地へふらっと迷い込んでしまったのだと思う。

初めて歩いたその路地を進んで行くと何かの店舗であることは間違いないのだけれど遠くからは何屋さんなのかは判断できなかった。
はっきりとその存在感溢れるレトロなたたずまいのある喫茶店のようなものが視界に入ってきた。

外観全貌が視界に入るか否かのタイミングでスキップ?のような…いや間違いなくあの男性はスキップをしてその店舗から出てきた。

ちょうど私とは逆方向に歩いてくる男性の顔は笑っていた、いや笑っていたというよりもニヤついていたはずだ。目が合いそうになったので、反射的に視線をそらせてしまったが、その男性は蛇のネクタイをしていて聞き取れなかったが何か口ずさんでいた。間違いないとは思うがすでに背を向けてしまった男性からその確証を得ることはできなかった。

どうしても気になり店舗の入り口へ視線を向けると黒板にチョークで
Books 路地裏 と描かれていた。

本屋さんだったのか

魔法にかかっていたのかと思えるほどに扉を開け吸い込まれるように店内へ入ってしまった。店に入ると目の前にはカウンターがあり、店主と思われる女性が立っていた。

「いらっしゃいませ」

素敵なあいさつだ。その白い服をまといセミロングのストレートヘアーをした清楚な感じの店主は二十歳前後だろうか。思わず見とれて私の中ではかなり長い時間言葉を失っていた。

「ここって 本屋さん なんですよね?」

私は勇気を振り絞り 白い服をまといセミロングのストレートヘアーをした清楚な感じの店主に質問を試みた。

「はい、そうですよ」

危うく彼女に恋しそうになった自分を引きずり戻した私は本屋だということを確認するため店内を見回した。決して彼女を疑っているわけではない。

カウンター越しに立つ彼女の背後には梯子付きのおそらく4mはあると思われる本棚があり、本が隙間なく並べられていた。確かに本は置いてあるが、こんな本屋にかつて出会ったことがなかった私は戸惑いを隠せなかった。

「わたくしはコンシェルジュを務めますレラと申します。お客様がお気に召した本がございましたら わたくしがお持ちいたします。誤解のないように最初にお断り申し上げておきますが、お持ちした商品はお買い上げいただくシステムとなっております。分かりやすく申し上げますとワインのテイスティングのようなものでごさいます」

思わず なんのはなしですか と口から吐き出しそうになったが、彼女の前では紳士であるように努めると心に誓い言葉を飲み込んだ。
そしてお決まりのようなセリフを口ずさんだ。

「レラ…さん お薦めはありますか?」

「お客様の直感で選ばれたほうがいいですよ」

少し口角をあげた彼女から予想に反する回答が返ってきた。
私は戸惑いを隠せなかったが、彼女の期待に応えようと直感に従うことにした。そして正面の棚の斜め右当たりを指さしていた。

彼女は本棚の方へ歩を進めて行った。カウンターから本棚に彼女が近づいていくと彼女の全身像がアップデートされていく。
コツコツと気品のある音を奏でる黒いピンヒールと清楚な白いワンピースが対照的だった。そして私の指さした本に右手を伸ばし手に取った。
本に伸ばした彼女の白いワンピースの袖口の隙間に一瞬 何かが見えたような気がして気になったが、そんな疑問を考える間もなく彼女が口を開いた。

「こちらを選ばれるとは、お客様 なかなかの手練れですね」

思わずまた なんのはなしですか と口から飛び出しそうになった言葉を飲み込んだ。

「お客様 学生時代は何組だったか覚えていらっしゃいます?」

「なっ…えっと…高3の時は2組でしたけど…」

「そうですか。それでしたら きっとこの作品 ぴったりだと思いますよ」
「実は先程 ご本人が直接納品されに来られてたんですよ」

彼女は素敵なウインクをしながらその本を大切そうに運んできた。
作品名は「イセハラのモトニ」初めて聞くタイトルだった。
イセハラってもしかして…と記憶の糸を手繰り寄せる暇もなく

「ブックカバーはお付けしますか?こちらは無料でお付けいたしますが」

「お、お願いします」

まだ買うとも言っていないのに…と思いながら、ワインのテイスティングのようなと彼女が言ったこの店のシステムを思い出した。

「他に気になる作品はございますか?」

彼女は間髪入れずに聞いてきたが、気が付けば言われるがままに次の作品を探している自分がいた。彼女の魔法にかかっていたというよりも、どうしても確認したい私のミッションがそうさせたのだ。

「左側の棚のあの辺りにあるのをお願いします」

今度は直感と言うよりも彼女のちょうど頭上の高さにあるものをあえて選んだ。本に伸ばした彼女の白いワンピース右手の袖口の隙間を確認することが私のミッションに他ならなかった。

黒いピンヒールの音が店内にこだまする。私が指さす辺りに彼女が右手を伸ばすその動作は肩甲骨から指先までが連動された美しい動作であり、不覚にもその指先に見とれてしまったのだ。私としたことが白いワンピースの袖口の隙間の真実にたどり着くことはかなわかった。

「こちらを選ばれるとは…こちらは先程選ばれた作家さんも推す作品なのできっと気に入ると思いますよ。こちらもブックカバーお付けしますね」

彼女が大切そうに運んできたのは「滲む」という若手女性作家の作品だった。そしてブックカバーをつけながらこう付け加えた。

「実はこの作品 声優さんが朗読もされてるんですよ。もしお気に召しましたら 彼女の他の作品も是非お読みくださいね」

「凄い作家さんなんですねぇ~」

感慨に耽る間もなく 彼女は口を開いた。

「他にも気になる作品はございますか?」

今度こそ 確実に確認するぞ という決意をしたにもかかわらず 私はあまり考えることもなく右側の本棚を指さしていた。

「あの辺りのものをお願いします」

先程と比べると黒いピンヒールの音はゆっくりとしたリズムを刻んでいた。
彼女は私の方を振り向きながら私に確認する。私の指さした辺りにゆっくりと右手を伸ばす彼女の動作は変わらず美しく 白いワンピースの袖口の隙間を確認するには十分な時間があるはずだった。

「こちらの本でよろしかったですか?」

その動作に一度ならず二度目の恋に落ちそうになったところでグッとこらえた。危ない、危ない、これが見返り美人というやつか。
いやいや、私には重要なミッションがあったではないかと 何も考えずに右側の棚を選択したことを後悔した。

右手を本に伸ばした彼女は左側に振り返っていたので、白いワンピースの右側袖口の隙間に神秘的な黒いものが存在したことを確認することはかなわず落胆した。

「はい…それでお願いします」

違うと言ってやり直してもらえばよかったのだが、紳士であり続けることに全振りしていた私の意識にそんな離れ技みたいなことはできるはずもなかった。

「こちらはわたくしが応援しております劇団で女優をされている方の作品なんです。こちらもブックカバーお付けしますね」

同じように彼女が大切そうに運んできたのは「歪な渇愛」という女優でありまた歌手でもある作家の作品だった。

「気になる作品は他にもございますか?」

本当は白いワンピースの袖口の隙間に見えそうなものが気になっているのだが、そんなことは口が裂けても言えないし、もっと違う所も気になってきた。

駄菓子菓子
懐事情が気になってきた私は紳士らしくないことは重々承知していたが、そんな小さなプライドは捨てて質問を投げかけた。

「レラさん、今のところ おいくらぐらいですかね。持ち合わせがそんなにないので…ちなみにカードか電子マネー使えます?」

カウンターで大きめの電卓を見事なタッピングで叩き提示しながら

「3冊サービス料込みで10000円になります。ごめんなさい、当店はキャシュオンリーなんですよ。お会計されますか?」

その時私の財布には現金で2万円弱しか入っていなかったはずだ。紳士を装うためあえて確認はしなかったが、残り1万円弱 私の思考は駆け巡った。
そして夜の蝶との出会いを諦めて今の欲望に忠実に生きることを選択した。

「いや、正面一番上の棚の左側にあるやつをお願いします」

上善如水という言葉がこの流れにあっているのかは私にはわからないが、そんな言葉に脳内で出会うとは想像もしていなかった。

「お客様はお目が高いですね、あの作品も最初に選ばれた作品の作家さんが推している作品ですよ。少しお待ちください」

そう言ってゆったりとした黒いピンヒールの音と共に彼女は本棚に近づいて行き、そして本棚と一体化している梯子をスライドさせた彼女は一段、また一段と両足をそろえながらゆっくりと登っていった。
白いワンピースの袖口の隙間の秘密よりも白いワンピースの裾の隙間の秘密を想像するだけで私はアドレナリンが分泌するのを感じた。

その隙間にロマンを求めて

結論から言うとこの角度では白いワンピースの裾の隙間の秘密は秘密のままでしかなかった。だが私は後悔なんかしていない。嘘じゃない、神に誓おうではないか。そんな言い訳を脳内で披露していると

「こちらの作家さんの作品ちょうど2作品並んでいるんですけど、どうされますか?」

「えっと…両方ともお願いします!」

紳士を装っていたが、興奮していて思わず両方と言ってしまったことをちょっぴり後悔はしたけれど、脳内で自分自身を説得した。私は紳士なのだと。

2冊の本を片手に抱えたまま梯子を降りてくる彼女の白いワンピースの袖口の隙間にハッとした。登っている時は白いワンピースの裾の隙間に気を取られていたからだ。

なんだろうこの感覚は?
あれだけ求めていたものなのに何となく残念な気持ちになってしまうのは…
見えそうで見えない方が妄想力を掻き立てるというチラリズムというものの神髄をまさか本屋さんで体感するとは想像すらしていなかった。

「こちらもブックカバーお付けしておきますね」

彼女の言葉で我に返った。
ブックカバーがすでに付けられ彼女が大切そうに運んできたのは現役ナースである女性作家の「パープル・セイヴィア」「変態病院」というタイトルの作品でした。

これで合計5冊、先程の3冊が1万円だったので何とか事足りるだろうと思いながら財布を取り出した。

その様子におそらく彼女は気づいたのだろう。

「お客様 お会計されますか?」

「…はい、お願いします」

彼女は先程と同じようにカウンターで大きめの電卓を見事なタッピングで叩き提示しながら

「梯子を使う上の方にある作品はサービス料がアップいたしますので、5冊のお会計は2万円になりますね」

ちょっとだけ もう一冊どうしようかと脳内会議をしていた私は気持ちを彼女に悟られるのではないかとドキドキしながらもホッとした。

「お客様にお薦めのチラシも入れておきますので見てくださいね」


「どうも ありがとう」

会計を済ませた私は素敵な紳士を装いながら Books 路地裏 をあとにした。

そして店外に出た私は頬が緩み、気づけばスキップをしていた。

店の前ですれ違った蛇のネクタイをしていた男性はきっと「好き」と言っていたに違いないと空を見上げながら考えていた。

しばらくして一緒に入っているはずのチラシが気になり取り出してみた。


こっ、これは!



路地裏の不思議な本屋さん

長くなっておりますが、もちろん楽曲制作もしました。

「本屋さんの魔法使い」

作詞 ChatGPT with persi
作曲 suno.com

Verse 1
同じ朝にうんざりして
いつもと違う道、ふらり抜けて
ふと目に映るレトロなファサード
「Books 路地裏」 chalkの文字が光る

蛇のネクタイの男とすれ違い
心の奥にざわめきが舞い
開けた扉に吸い込まれるように
香る紙の匂い、静かなミステリー


Hook
君は白いワンピースの魔法使い
袖の隙間に秘密を隠し
名前はレラ、微笑むだけで
この現実さえ霞んでしまう

選ぶ本はまるで運命
心読まれてるようなセレクション
恋に落ちる、その一歩手前
俺は紳士を装ってる


Verse 2
「高3の時は2組でしたよね?」
なんで知ってんの…って言えずにいて
ウインク一発で本を買わされ
財布の中身も魔法にかかる

黒ピンヒールがコツコツ響く
本を選ぶその仕草が美しく
けど俺が見たいのは袖の内側
モジャモジャの謎はまだ深まるばかり


Bridge
梯子を登る姿は神聖で
ワンピースの裾すら芸術で
でも真実はどこにある?
この店、夢? 幻? それとも…


Hook (Repeat)
君は白いワンピースの魔法使い
袖の隙間に秘密を隠し
名前はレラ、微笑むだけで
この現実さえ霞んでしまう


Outro
袋の中のブックカバーたち
チラシの女があの時の君
外に出たら俺、スキップしてた
また来れるかな、あの路地裏


あとがき

今週は書けないかもしれない。
そんなことが頭によぎり、弱気になっていました。

休むときは休みなさいよと優しい言葉をいただいて腹が決まったら
何だか軽い気持ちになり書きたくなってしまいました。

nicole さんの#路地裏小説部がきっかけで書き始めていた拙作はうーん😓という感じの駄作として終わりを迎えてしまいました。

駄菓子菓子

昨日突然この作品が沸き上がってきて、1日掛りで創作に没頭する自分がいました。今までで一番時間がかかったかもしれません。内容はともかく創作中はとっても楽しかったことは間違いありません。
もっと多くの noter さんの作品を登場させたかったんですが、一部の方の一部の作品だけになってしまい申し訳ありません。

長文を最後までお読みいただいた皆様 ありがとうございました。

では 素敵な1日を✨

賑やかし帯はこちらから

いつもありがとうございます。



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