激痛は「好転反応」です。詐欺師のその言葉を、私は信じてしまった。〜運命の12月〜 第3章
66万円のイオンラドン機が届いた日、家の中には奇妙な安堵感があった。
スイッチを入れると、わずかな稼働音とともに、目に見えない何かが部屋を満たしていく(と信じていた)。
「これなら効くかもしれない」
そうすがるしかなかった。1500万円という大金を注ぎ込み、標準治療のレールから外れた私たちには、もう後戻りする道などなかったからだ。
■「皮膚だけは綺麗」という残酷な皮肉
11月、不思議な現象が起きていた。
妻の肌が、驚くほど綺麗になっていたのだ。
「奥さん、顔色がすごく良いじゃない」
「肌がツヤツヤして、若返ったみたい」
見舞いに来る友人たちは、口々にそう褒めてくれた。ラドンのおかげなのか、代謝が良くなっているように見えた。
確かに、妻の肌は透き通るように白く、滑らかだった。
その「目に見える変化」を、私は回復の兆しだと信じたかった。
けれど、妻はふとした瞬間に、寂しそうにこう呟いた。
「皮膚がいくら良くたって、がんは全然治らないのにね……」
彼女自身は気づいていたのだ。
外見の美しさと裏腹に、体の中で病魔が確実に進行していることを。
■「あの子はどうなるの」 眠れぬ夜の激痛
そして運命の12月。
事態は急変した。
「痛い……腰が、割れるように痛い……」
ある夜から、妻は激しい腰痛で一睡もできなくなった。
出血などはなかったが、その痛み方は尋常ではなかった。骨の髄がきしむような痛みに、ベッドの上で脂汗をかき、うずくまる妻。
その口から出るのは、自分の痛みへの恐怖よりも、当時まだ幼かった娘のことばかりだった。
「あの子はどうなるの……私がいないと、娘は……」
娘を残して死ぬわけにはいかない。その執念だけで、妻は痛みに耐えていた。
私は震える手で、病院ではなく、あの「先生」に電話をかけた。
■「おめでとうございます」という悪魔の言葉
「先生、妻が! 腰の痛みがひどくて、寝ることもできません!」
受話器の向こうから聞こえてきたのは、冷静で、そして残酷な言葉だった。
「ああ、おめでとうございます。それは『好転反応(めんけん)』ですよ」
めんけん?
好転反応?
「骨の奥から毒素が出ようとしているんです。そこを乗り越えれば、細胞が生まれ変わります。今が一番大事な時ですよ。ラドンの出力を上げて、もっと水を飲ませてください」
今ならわかる。
それは医学的根拠のない、詐欺師たちが使う常套句だ。
がんが骨に転移したり、腫瘍が神経を圧迫したりしている激痛を、「毒出し」という言葉で誤魔化したのだ。
でも、当時の私はその言葉にすがるしかなかった。
目の前で腰を押さえて苦しむ妻に、病院へ連れて行くことではなく、「今は毒が出てるんだ、耐えよう」と言い聞かせてしまった。
「娘のために、治さないとね」
妻はその言葉に頷き、眠れぬ夜を、ただ水を飲み、ラドン機のそばで耐え続けた。
その「治療」が、彼女の貴重な時間を奪っているとも知らずに。
外は冷たい冬の風が吹いていた。
私たちの「地獄」は、ここから本当の意味で始まったのだ。
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▼ 続きはこちら(第4章)
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▼ ついに完結。最終章はこちら
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【読者のみなさまへ】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
これが、私が体験した「医療詐欺」のすべてです。
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