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「間に合わなかった」緩和ケア。妻が遺した静寂と、私が再びペンを執った理由。 最終章

「好転反応」という嘘のメッキが剥がれた後、現実は坂道を転げ落ちるように加速した。

妻の病状は、私たちの想像を遥かに超えるスピードで悪化していった。
「緩和ケア病棟に移ろうか」
そんな相談を医師としていた矢先のことだった。

■間に合わなかった「最期の場所」


手続きも、移動も、すべてが間に合わなかった。
それほどまでに、妻の命の灯火は急速に小さくなっていたのだ。

病院側の配慮で、私たちは一般病棟の個室を用意してもらった。
「ここなら、お子さんもいつでも会いに来られますから」

その言葉通り、学校帰りの娘がランドセルを背負ったまま病室へ駆け込んでくる。
妻は痩せ細った手で、愛おしそうに娘の頭を撫でる。

激痛とモルヒネの狭間で、妻は最期まで母親であり続けようとした。
そして、静かに、本当に静かに、彼女は旅立った。

66万円の機械も、怪しい水も、奇跡も、ここにはなかった。
あったのは、冷厳な死の事実と、残された私と娘の嗚咽だけだった。

## ■66万円の機械 vs 保険適用の治療

葬儀を終え、家にはあの「ラドン吸入器」だけが残った。
見るのも忌々しいはずなのに、私はすぐにそれを捨てることができなかった。

「高い金を出したんだから、何かに使えるんじゃないか……?」

そんな浅ましい未練が、私の中に残っていたのだと思う。
当時、娘の花粉症が酷かった。
私は藁にもすがる思いで、その機械を娘に使わせてみた。

「これで少しは楽になるかもしれない」

……結果は、何も変わらなかった。
鼻水一つ止まりはしなかった。

その後、私たちは耳鼻科に行き、医師の勧めで「舌下免疫療法」を始めた。
毎日、薬を舌の下に含むだけの治療だ。
すると、あんなに苦しんでいた娘の症状が、嘘のように改善したのだ。

皮肉な話だ。
66万円もした「魔法の機械」は何も変えられなかったのに、保険適用の「標準治療」は、劇的に娘を救ってくれた。

本物の医療とは、派手な宣伝文句の中ではなく、地味な診察室の中にこそある。
私はその時、改めて痛感させられた。

そこであの機械への未練は完全に消えた。
私はそれを箱に詰め、実家の物置へと送った。二度と目にしないように。

■なぜ今、これを書いているのか


あれから、数年の月日が流れた。

正直に言えば、私にはこのnoteを書く余裕などなかった。
妻を亡くしたあの日から、私は「シングルファザー」という名の戦場に放り出されたからだ。

朝起きて弁当を作り、仕事に行き、家事をして、娘の話を聞く。
悲しむ暇すらないほど、日々の生活を回すことに必死だった。
詐欺への怒りや後悔を反芻する時間なんて、贅沢なものだった。

けれど昨年、転機が訪れた。
遠方に住む高齢の親と同居することになったのだ。
父には軽度の認知症がある。

親の介護と、成長した娘。
家族の形が変わり、少しだけ自分の過去を振り返る時間ができた時、ふとあの日の悔しさが蘇ってきた。

「同じような被害に遭う人を、一人でも減らしたい」

その思いが、私の背中を押した。
ネット上には、今も甘い言葉で患者を騙す広告が溢れている。
「好転反応」という言葉で、治療の機会を奪われる人がいる。

だから私は、恥を忍んでこの記録を残すことにした。
私の愚かな失敗が、誰かの「踏みとどまる一歩」になることを信じて。

天国の妻へ。
君を守れなくてごめん。
でも、君との記憶を無駄にはしないよ。

(完)

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【読者のみなさまへ】

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
これが、私が体験した「医療詐欺」のすべてです。

もし、ご家族や友人が同じような怪しい治療にハマりそうになっていたら、どうかこのnoteを見せてあげてください。
「ここに失敗した人間がいるぞ」と伝えてください。

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