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エコーに映った黒い影。魔法が解けた瞬間、私は自責の念に押し潰された。 第4章

「好転反応だから、耐えなさい」
「毒が出ている証拠です」

そんな言葉で誤魔化すには、限界が来ていた。
妻の苦悶の表情は、明らかに「良くなっている」ものではなかった。
脂汗をかき、呼吸も浅い。腰の激痛は、鎮痛剤なしでは気絶しそうなほどになっていた。

「もう、病院に行こう」

私がそう言った時、妻は拒否しなかった。
いや、拒否する体力さえ残っていなかったのかもしれない。
私たちは逃げるようにして、66万円の機械がある部屋を出た。

■残酷なほど鮮明な「現実」


久しぶりに訪れた病院。
医師は妻の様子を見るなり、すぐに簡易エコー(超音波検査)の準備をした。
大掛かりなCTを撮るまでもない、と判断したのかもしれない。

冷たいゼリーが塗られ、プローブが妻の腹部に当てられる。
モニターに、白黒の映像が映し出された。

素人の私の目にも、それが見えた。

「……ああ、これですね」

先生が静かに指差した先には、内臓を圧迫するような、禍々しい塊が映っていた。
皮膚のツヤなど関係ない。
目に見えないイオンなど関係ない。

そこには、紛れもない「現実(がん)」が、以前よりも巨大になって鎮座していた。

その映像を見た瞬間、私の頭の中で何かが崩れ落ちる音がした。
希望という名の、安っぽいメッキが剥がれ落ちた音だった。

■詐欺師への怒りよりも


診断の結果は、聞くまでもなかった。
悪化していた。
私たちが「好転反応」だと信じて水を飲み、ラドン機の前で耐えていた時間は、ただがん細胞に餌を与えていただけだったのだ。

病院の待合室で、ふと携帯電話を見る。
あの「先生」の連絡先が入っている。

本来なら、電話をかけて怒鳴り散らすべきだったのかもしれない。
「嘘つき!」「金返せ!」と叫ぶべきだったのかもしれない。

けれど、私の中に湧き上がってきたのは、怒りではなかった。
深い、深い、虚無感だった。

「もう、いいや……」

その人と連絡する気さえ起きなかった。
何を言っても、妻の失われた時間は帰ってこない。
何を言っても、大きくなった腫瘍は小さくならない。

私は携帯電話をポケットにしまい、ただ項垂れた。

■私こそが、妻を追い詰めた


その時、私を襲ったのは強烈な「自責の念」だった。

あの日、標準治療を拒否したのは私だ。
怪しい機械を買い与えたのも私だ。
痛がる妻に「水を飲め」と強要したのも私だ。

妻を殺そうとしているのは、がん細胞じゃない。
無知で愚かな、私自身じゃないか。


隣で点滴を受けながら眠る妻の寝顔を見つめながら、私は声にならない声で泣いた。
ごめん。ごめん。
本当に、ごめんなさい。

魔法は解けた。
残ったのは、手遅れに近い現実と、一生消えない後悔だけだった。

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▼ ついに完結。最終章はこちら


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【読者のみなさまへ】

ここまで読んでいただき、胸が痛む思いをさせてしまい申し訳ありません。

「なぜ気づかなかったんだ」と、今の自分でも思います。
でも、当時はその「一本の藁」にすがるしかなかったのです。

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