運慶仏をつくる【第18話】飛鳥園風の写真を撮りたい
黒バックの飛鳥園風写真にチャレンジするつもりだったのだが……
近鉄奈良駅を地上に出て登大路を東にずっと進み、県庁前交差点をすぎたそのちょっと先、奈良国立博物館の向かいに、かつて日吉館という旅館があった。古美術・古建築を愛する研究者や学生たちの定宿であり、筆者も学生時代に美術史研修で泊まったことがある。
屋根は傾いて、畳の間から雑草が生えているという噂もあるほどの古屋で、よく営業を続けていると思ったのだが、ほどなくして女将の引退して廃業し、やがて取り壊されてしまった。
その日吉館の何軒か先が、飛鳥園という仏像専門の写真館だった。
いまでもお洒落なギャラリーとして営業を続けているが、その昔は、奈良公園内にも日吉館なみに傾いた販売所があった。

その飛鳥園の創業者である小川晴暘の写真には独特の味があり、販売所は仏像愛好者で賑わっていた。
たとえ小川晴暘や飛鳥園を知らなくても、黒バックのこんな写真を見た覚えはあるんじゃなかろうか。

筆者も、せっかく持国天立像を完成させたのだから、こんなふうに撮ってみたいと考えた。
もちろん、そう簡単に撮れるはずはない。堂内のわずかな自然光をレフ板で反射させて撮影したという技術は皆無だし、カメラもiPhone SE2だ。
それでも、少しでも飛鳥園のような写真に近づけようと、暗幕とフィギュア用スポットライトを手に入れた。
いままでは、四六判の黒いラシャ紙を背景に使って撮影していたのだが、写真になると暗いグレーになってしまっていたので、暗幕で真っ黒なバックにするというわけだ。
フィギュア用スポットライトは、文字通りフィギュアをディスプレイするための小型ライトなのだが、レフ板がわりに使うつもりだ。光が強すぎれば、かわりに指向性のLEDを使うことにしよう。
ところが、いままでに撮ってきた写真をチェックしていて、愕然とした。
現状の像は、当初のモールドをだいぶ削り取ってしたこともあり、なんだかのっぺりしているし、あちこちに手を入れている間に玉眼もだいぶ曇ってしまっている。
以前の像のほうが出来がいいじゃないか(リアルな模型づくりではありがちだけど、Ctrl + Zは効かないからね)。

うーむ。
飛鳥園風の写真を撮るぞと意気込んでみても、模型の出来が悪ければどうにもならない。
となれば、「ダヴィンチ・コード」の再発令だ。そう。死ぬまでモナリザを手放さなかったレオナルドのように、満足できるまで手を入れ続けるという指令である。
そんなことで、再びエポキシパテを盛った。

現状はこんな感じ。
もうすこしなんとかしたいとも思うのだが、きりがないし、とりあえずここで手を打とう(あとから、また手を入れることになるとは思うのだが……)。

さぁ。次回こそ、飛鳥園風の撮影だ。
【第19話】岩座の再考 につづく
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