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連絡帳はエッセイ集


「“れきし” って、なに?」

朝の食卓で、天気の話題が出たときのことだ。
今年の12月は冬晴れが続いており、歴史的な日照時間だという話をしていたら、次男(5歳)が話に食いついてきた。


「“れきし” ってのはあれよ。あのー、過去からこう、繋がってるというか、人類の営みというか、そのボリュームゾーン全体っていうか」

「“かこ” って、なに?」

「いやあの、だからつまり、今より昔のことっていう意味で……」


天気の話題で盛り上がっていたはずなのに、食卓はいつの間にか説明下手選手権の会場になっていた。私の、私による、私だけの大会。

圧倒的優勝しちゃうんだよな、いつも。噛み砕いて説明するのって、とっても難しい。こんなとき、ビシッと明快な説明ができたらどんなにいいだろう。

試合を観戦しながら、次男は少しだけなにかを考えている。そして、急に目を輝かせ、こう言い放ったのだ。


「……つまり、“でんせつ” ってこと?」


いや、伝説とかそういうことじゃない。
かすっちゃいるが、方向性が違う。

歴史や過去と伝説の違いについてもうひと試合頑張りたいところだったが、時計を見ると、タイムリミットが近づいていた。残念だが、ここまでだ。中途半端な切り上げに心苦しさを覚えながらも「まぁ、そんな感じ!」とごまかす。

のんびりっ子たちに早く食べるよう促しながらも、頭の中は次男とのやり取りを反復していた。

「歴史と過去は伝説」かぁ……



子どもたちを見送る。ぼちぼち仕事に取りかかる時間だが、洗い物だけは済ませておきたい。キッチンで皿を洗いながら、もう一つの大切な儀式について思いを馳せる。保育園の連絡帳だ。

これが、なかなかのボリュームなのだ。

長いよォ……



アプリの使用上、前日分や兄弟の入力内容の引き継ぎができない。スムーズな保育連携をはかることが目的とはいえ、ふたり分の入力を思うだけでへとへとになる。

ただ、最後のコメント欄だけは別だ。

イヤイヤ期のドタバタや、子どもならではの言い間違い、勘違い。ハッとした一言や、成長を感じた瞬間。愛おしくてたまらない、忘れたくないシーンの数々——日常の愛おしい瞬間を切り取り、短い文章で記録するコメント欄は、連絡帳入力中、唯一のオアシスである。


さっそく、コメント欄に伝説のくだりを入力する。

オチがない


送信ボタンを押した瞬間、ふと、なにかに似ているなぁ、と思った。
印象的なシーンを自分なりの解釈で文章にして伝える行為は、なんだか親しみがあるぞ。



——そうだ、エッセイだ。

連絡帳って、エッセイに似ているんだ。

日常のハイライトであること。
対象がなんであれ、自分の観察を通していること。
伝える相手や伝えたい内容を意識して、軸を調整すること。

連絡帳コメント欄の本来の役割は、もちろんエッセイとは異なるけれど、出発点は同じだ。どちらも、書く上で大切にしていることが似ている。

連絡帳は、単なる記録と共有だけでなく、日常をより深く観察するための場所なのだ。日常をささやかさを愛おしむ私たちは、生きているだけでみんな天然のエッセイストではないか。

この8年で、どれだけの愛おしい瞬間を残してきただろう。過去の連絡帳を引っ張り出してみると、そこにはエッセイの種がたくさんこぼれ落ちていた。

【長男】


長男の髪型がブレまくり。要は適当に描いてる。



【次男】

途中から、紙→アプリへ移行。



大切なのは、自分の心が動いた瞬間を見逃さないこと。そして、自分なりに言葉にして伝えること。その繰り返しが、人生をより愛おしくしてくれる。

来年も、書きたい。書き続けたい。自分の日常をもっと楽しむために。
その先に、一緒に共感したり、笑い合えたりする人がいてくれたら、こんなに幸せなことはない。



ああでもない、こうでもない——

思考は泡沫。朝キッチンに立ち、ぼんやりと浮かんでは消えていく、日常の思考エッセイの連載です。


【back number】
#1 プリンと、夫と、修造と
#2 1. 0倍速の失恋
#3 「らしさ」の残骸
#4 お弁当の圧力
#5 掃除後のジレンマ
#6 家事が家出したかもしれない
#7 ピンチが生む名女優


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