狩野英孝が「ケイン」と言うとき何が起きているか
タイトルの内容については今しばらく待っていただくとして、まずは鍵和田啓介さんと廣瀬純さんの配信ラジオ番組「パラキートシネマクラス」の話から入ろう。このラジオは映画の見方を刷新する大変ためになる番組で、私が今回取り上げるのはクリント・イーストウッドの『陪審員2番』を扱った回だ。廣瀬さんは主人公がとある事故を起こしてしまったかも知れない日のダイアリーのようなものをパソコン画面に表示させる際に、そこに映し出される「Due Date」(出産予定日)という文字に驚いてみせる。だって、彼の妻のお腹の中には今子供がいて、なのに半年くらい前の記録を見ているのにそこに「出産予定日」って、え?どゆこと?という具合である。不埒な聴き方で、映画本編を観る前にラジオを聴いて「予習」してしまった私は「へー、そんな場面もあるのね」と思い、後日U-NEXTと無料トライアル契約ができたので実際に観てみると、このシーンで出てくる「出産予定日」は、今お腹にいる子供のものではなく、前の年に流産してしまった最初の子供のものであったことがわかる。あれ、あの廣瀬さんが、そんなことも分かってなかったのかな、と不思議に思い再びラジオを聴き直してみると、またしても胡乱なのはこちらで、廣瀬さんはちゃんと「最後まで観れば分かるんですけどね」と言い添えてある。それでも彼は、最初に「出産予定日」の文字を目にした「その瞬間」に立ち返って驚こうよ!というスタンスを頑として主張するのである。私はこのあたりに強く廣瀬流を感じた。別の映画になるがブレッソン『白夜』に寄せられた細かな解説文でも、そのスタンスは維持されているように感じた。
…とここまでが前段で、私はこの手法(?)を用いて、狩野英孝の初期のネタ「ラーメン屋」を論じてみたいのである。ネタの細かいところは忘れてしまったが、ロン毛であのホストの格好をした狩野がラーメン屋をやっているという体の一人ネタで、カクテルのシェーカーよろしくフリフリと振っていると思ったら「えっ、これ? とんこつスープ」といったところでお客の笑いを誘っていたはずだ。問題の場面は、そのスープを狩野が味見して「うーん、これちょっとケインだね」と言うところである。お客の脳内には一瞬ハテナが浮かぶ。数秒後に彼が「濃すぎ(コスギ)ってこと」ということで観客は意味を了解し、笑いにつながる。これを更に細かく見てみると、「ケイン」しか言われていない時点では観客はハテナなので、頭の中には若干のモヤモヤ、もっと言えば小さな不快感を抱えているはずである。しかし客は狩野のことを別に頭のおかしい人だとは思っておらず、むしろ僕ら私らに笑いを提供してくれる人だと思っているので、このハテナ、モヤモヤはあと数秒待てばきっと解消されるだろうと無意識裡に信じる。そして果たせるかな、狩野が見事に「濃すぎ」で落としてくれるので、観客は笑いと同時に安心感を得る。大略こういった仕組みで笑いができているだろうか。
お笑いを解説するのは野暮なのかも知れないが、私はこういう言語化をしてみたくなる性分であるので、やってみた。これはいわゆる(なのかは分からないが)「時差笑い」とでも言えそうなもので、謎かけとかもこれにあたるだろう。Aとかけまして、Bととく、その心は…の時点で観客が答えを言ってしまったら(笑点で言う木久扇パターン)、その謎かけは上手くいっているとは言えないだろう(木久扇師匠の場合はその緩さも含めて名人芸なわけだが)。ともかく観客の脳内に数秒のハテナ、数秒のモヤモヤの時間が確実にある。そしてそれはやがて必ず解消されるものだということも彼らは知っているので、そのモヤモヤを飲み込んで楽しめるのである。これがもし本当に解決されなかったら、それは私が以前述べた「ゴチャモヤ」というやつになるだろう。ゴチャモヤにはゴチャモヤのリアル、魅力があるので、そちらの記事も併せて読んでいただけたら幸いだ。リンクを貼っておく。
音楽でも、(サブドミナント、ドミナント、トニックなどの用語を使うのだがそのへんは割愛して)、ファ→ソ→ときたら次はドに行くしかないというこの一連の動きを「解決」と呼ぶらしく、やはりものごとには解決があるのだ。その「解決」をさせ続けなかったミュージシャンとしてデレク・ベイリーがおそらくいて、彼についても一度簡単に書いたのでまたまたリンクを貼っておく。
今日はリンクばかり貼っているな。そういえば『陪審員2番』についても書いたので、ついでだからそのリンクも貼っておこう。
私の記事の海の中でたらい回しになる快感(不快感?)をときには味わってほしい。それは狩野英孝のように見事に「解決」するのだろうか。はたまた右へ左へと連れ回されたあげく結局のところ「ゴチャモヤ」なのだろうか。そのあたりは皆さまのご判断に委ねるしかない。しかしきっと大事なのは、noteを経巡るプロセスである。お笑いトリオ、リンダカラー♾️のDenがいいことを言っていた。「気に入った言葉だけ持ち帰ってください」と。私のnoteが刺さる人が、ごく一部でもいてくれたら嬉しい。そのために私は明日も執筆を続ける。
読んでいただきありがとうございました。今日はおやすみなさい。
